週が明けた朝、トースターのタイマーがカチカチと乾いた音を刻み、最後にチンと短い金属音を立てた。 香ばしいパンの匂いがキッチンに漂う。朝の光はダイニングテーブルの隅を白く照らし、ガラスのコップに溜まった水滴をキラキラと光らせていた。 真帆は包丁を握り、茹でたてのゆで卵を半分に切った。黄色い黄身が綺麗に二つに割れる。先日、七海の部屋で見つけたあのお絵かき帳の残像が、瞼の裏側に焼き付いたまま離れてくれなかった。 中央で笑顔を見せる七海と悠人、そして青い服の女。そこから大きく離れた右端の隅に、ぽつんと描かれた小さな影。『まま』 真帆には、その絵の中で自分だけが家族の外へ押し出され始めているように見えた。誰が、どんな言葉で七海にこの構図を描かせたのか。考えるほど、胸の奥が冷えていった。「真帆、お湯沸いてるよ」 後ろから悠人の声がした。 アイロンのピシッと利いた白シャツの袖口を丁寧に折り返しながら、悠人が真帆の隣に立つ。いつも通りの、爽やかな柑橘系の柔軟剤の匂い。真帆の手元から包丁をそっと取り上げ、代わりに温かいコーヒーの入ったマグカップを握らせてくれた。「ありがとう。今日は出勤だっけ?」「うん。十時から社内で月次の営業会議があるんだ。夕方には終わるから、帰りに七海の好きなプリンでも買ってくるよ」 悠人は微笑み、カウンターの上に置いた自分のスマートフォンを手にとった。 真帆は何気なく、その画面に目をやった。 黒い保護ガラスの表面に、見慣れないアイコンが表示されていた。画面の上部、通知バーの端に、小さな赤い丸が点滅している。 録音機能の作動を示す、ボイスメモのアイコンだった。 真帆の指先が、マグカップの陶器のふちの上で固まった。「……悠人」「ん? どうしたの?」「それ……録音してるの?」 悠人は自分のスマートフォンを見下ろし、あ、と声を漏らした。焦る様子も、慌てて隠すような仕草もない。ただ、申し訳なさそうに眉根を八の字にして、画面をスワイプして録音を停止させた。「気づいちゃった?
Última atualização : 2026-09-18 Ler mais