声を失った平手政秀が最初に求めたものは、滋養のつく食事でも、傷を癒やす薬でもなかった。 上質な紙と、筆、それに墨である。 これまで口頭で伝えてきた報告も諫言も、今後はすべて文字へしなければならない。指先が動く限り、声が出なくても仕事はできると考えた政秀は、寝床から起き上がれるようになると、すぐに織田信秀の死について調べ始めた。 周囲の者たちは、もう少し休んでほしいと何度も頼んだ。 しかし、筆を取り上げれば怒ったように睨まれ、紙を隠せば布団の下から予備が出てくる。最後には信長が、「好きにさせろ。あやつから仕事を奪えば、今度こそ具合を悪くする」と言い、政秀が無理をしない範囲で調査を続けることを認めた。 それから五日後の早朝、政秀は那古野城へ登城した。 喉には白い布を巻き、片手には大量の紙を束ねた文箱を抱えている。城の廊下を歩く姿は以前より痩せて見えたが、足取りは思った以上にしっかりしていた。 信長は評定の間で、帰蝶、池田恒興、沢彦宗恩とともに父・信秀の遺品を調べていた。 政秀が部屋へ入ると、信長は目の前へ積まれた帳面から顔を上げた。「もう歩いてよいのか」 政秀は
Dernière mise à jour : 2026-09-18 Read More