第11話 聖女を殺す王命真銀の炎が謁見の間を埋め尽くした瞬間、俺の耳から周囲の音が消えた。目の前にいるリシアの姿も、セナを抱き止めたまま身構える竜族の近衛兵たちも、驚愕の表情を浮かべた怜央も見えている。それなのに、世界そのものが水底へ沈んだように遠ざかり、代わりに無数の声が頭の中へ流れ込んできた。王命に背く者を許すな。聖女の舌を封じ、心臓を止めよ。魂を教会へ返し、記憶を焼却せよ。命令は一つではなかった。セナの首に刻まれた呪印は、王国から遠隔で発動された単純な処刑術ではなく、幼いころから彼女の体内へ少しずつ組み込まれてきた隷属の術式だった。彼女が聖女として認定された日。最初の洗礼を受けた日。王国と教会へ忠誠を誓わされた日。善意や信仰という言葉で覆い隠しながら、逃げられないように何重もの鎖をかけている。「遥人、聞こえる?」リシアの声だけが、遠い水面から差し込む光のように届いた。彼女の手から流れ込む魔力は強大だったが、制御しなければセナの体まで焼き尽くしてしまう。俺は万象通訳を通して呪印の意味を一つずつ読み取り、処刑命令の中から、まだ書き換えられる言葉を探した。王命に背く者の声を奪え。このままでは駄目だ。「背く」の意味だけを変えても、別の命令がセナを殺す。主語を変えようとすれば、呪いそのものが俺を侵入者と判断し、対象をこちらへ移す恐れがある。ならば、命令を消すのではなく、命令が完了したと誤認させるしかない。「リシア、炎を弱めてくれ。焼き切るんじゃなくて、呪印の外側だけを包むんだ」「そんなことをすれば、呪いが私の魔力を吸収するわ」「吸収させていい。呪いはセナの生命力を奪って、処刑が完了した証拠にするつもりだ。代わりに君の魔力を食わせて、命令を果たしたと思い込ませる」「私の魔力と彼女の生命力では、意味が違うでしょう」「だから俺が翻訳する。君の魔力を『処刑された聖女の魂』として呪いに認識させるんだ」リシアは一瞬だけ迷った。「どの程度、奪われるの?」
Last Updated : 2026-09-18 Read more