燐がサロンに潜入する日の朝、恭司は、ひとり自室の中で物思いに耽っていた。「……」ここ最近、燐の様子がどうにもおかしい。採血で具合を悪くしているわけではない。むしろ、以前よりも活動的になったと言うべきだろう。恭司にとってそれは喜ばしいことである一方、今までと違う燐の動きには、拭いきれない不穏な感覚があった。(やはり、あの晩餐会だ。あの日からずっと、燐は何かを考えて、行動している)(あの時よりも前から、二人の間には面識があったように思えるが……)(華との間に、何があった?)御堂財閥のCEOとして、長らく仕事に専念し続けてきた恭司。一日のうちに判断すべきことはあまりに多く、家のこと、妻のことまで、とてもではないが手が回らない。ゆえに、仕事以外のことについては使用人や専門家に任せ、妻のことにも口を出さないようにしていた。だが、それから二年。燐の生活は、以前よりも少し不規則になっていた。朝食の内容も簡素なものとなり、食堂で腰を据えて食べることも減った。恭司はそう聞いていた。部屋から、御堂家から出てどこかへ向かう頻度も増えた。以前にも貧血でない日に外出することはあったが、今は多少の無理を押してでも出ている。そして何より、燐は、目つきが変わった。契約結婚の当初にはあった淑やかさは勿論だが、今はその瞳で、炎のような感情が静かに燃えているようにも見える――「……」「恭司様、そろそろ家を出られる時間では」部屋で悩んでいると、恭司の秘書を務めるスーツ姿の男性が入ってきて声をかけた。時間だ。普段なら、このまま出て行くつもりだったが。この日の恭司は、すぐには行こうとしなかった。「事情が変わった。昼から向かう」「ですが、今日は午前から、企画会議が」「代わりの者を向かわせる。必要なデータと判断基準をすぐに伝える」恭司はディスプレイ
Last Updated : 2026-09-17 Read more