All Chapters of 一族からも契約夫からも冷遇されていた“落ちこぼれ魔女”の私、血を捧げるだけの日々にさよなら――逆襲を始めます: Chapter 31 - Chapter 40

57 Chapters

第31話

やっとの思いで眠ることができた燐だが、こんな夢を見た。『燐……貴女、ここに来ている場合じゃないでしょ』遠くの病院の、見たこともない病室だった。広く殺風景な部屋の真ん中、ベッドの上では燐の母が咳をしている。燐が慌てて近寄ると顔を背け、それだけで燐は胸の奥がひび割れたような心地に苛まれた。場面が変わり、『黒鉄家』の前へと景色が変わる。門を潜ろうとしたら、そこには知らない名前の表札が掛かっていた。「そんな……」また場面が変わる。今度の燐は晩餐会の会場に立っていた。着ているのは誰かに借りたような寸法の合わない衣装で、腕が出ていた。採血の跡が曝け出され、周りの客たちが燐のもっとも痛々しいところを指さして笑っている。『まあ、なんて汚い腕なの』『あの女、株価を落とすなんて言ったらしいわよ』『御堂の御曹司と結婚して調子に乗ったのかしら。妄言もいいところね』燐はそれを否定しようとするのに、声が出ない。会場を逃げようとしたら恭司の視線に気が付いた。憐れんでいる目だった。燐はその目から逃げて駆け出すも途中で躓き、誰かの足元で床に転がって手をついた。顔を上げると――華が、燐のことを見下ろしていた。『あらあら、みっともないお顔。既に汚れている物なら、“もっと汚しても”構いませんわよね?』高笑いの直後、靴の先が、燐の顔を打って――「――!」燐は跳ね起きた。畳の上で毛布を握りしめたまま、汗びっしょりになって肩で息をしている。首に嵌められた輪が鎖骨へ触れると、それが体温を吸ってぬるくなっていたのが分かった。(……夢)なんとか呼吸を戻そうとする。毛布を膝に抱え、切れかかった蛍光灯を見上げた。そうしていると今度は、燐の独房の扉が二度叩かれた。燐が気怠そうに顔を上げると――『黒鉄様』聞き覚えのある声に、燐の眉が上がる。つい先日会ったばかりの、彼女の声だった。
last updateLast Updated : 2026-09-27
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第32話

管理課から解放された後、燐が庁舎の外に出ると、まだ暗い空の下で恭司の車が止まっていた。その後ろにはもう一台、燐の見覚えのある車が並んでいる。その窓が開けば、黒鉄家当主――燐の父親の顔が現れた。「――燐」車に乗ったままの父に名前を呼ばれ、燐は足を止めた。二年ぶりに聞く声だった。燐は父の顔を一瞥した後、無言のまま一礼だけをした。そして恭司の車の後部座席のドアを開けると、そのまま乗り込んで扉を閉めてしまう。運転席には既に恭司が座っていて、ルームミラー越しに彼の視線が燐の俯いた表情を捉える。「……出して」「分かった」恭司は何も聞かずにアクセルを踏んだ。 *車の中で、燐は恭司と二人きりになっていた。いつぶりだろう? はっきりと思い出せるのはお見合いの日の記憶だけだ。東の空が赤くなりつつあるが、対向車は数えられるほどしかいない。沈黙。お互いに口を閉じていた状態を先に破ったのは、恭司だった。「……暁から、事情を聞いた」燐は後部座席で目を閉じたまま腕を組み、肯定も否定もしなかった。「たった一人で、九条財閥を相手にしているらしいな」「一人じゃないわ。私には……私を信じて、託してくれた人たちがいる」恭司はすぐに相槌を打たなかった。街の景色が後ろへ流れていく中で、恭司は、重い口を開いて“詫びた”――「気付いてやれなかった。……すまない」燐の閉じていた瞼が開き、視線が上がった。恭司が、謝っている。仕事のことでも、採血のことでもない。燐の気持ちを慮れなかったことを彼が自ら謝罪していたのだった。「……」燐は、たしかに驚きはした。だけど、それだけだった。胸の奥で何かが動いた気配があっても、この二年間で受け続けた仕打ちはそう簡単に心を開い
last updateLast Updated : 2026-09-29
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第33話

期日まで残り五日となった昼、燐は久しぶりに御堂家の食堂へ顔を出していた。窓から光の差し込む食堂の席に、燐だけが腰掛けている。そこへ使用人が台車を押して料理を運んできた。「お待たせいたしました、本日はこちらで食べられるとのことで、パスタをご用意しました」「ありがとう。いただくわ」一人だけになった燐は、まるで今の自分が何にも侵されていないのを感じさせるような平然とした態度でフォークを取った。皿の上に乗っていたのはボンゴレだ。燐はそれらをフォークで巻き付け、ゆっくりと、最後まで上品に口へ運んでいく。(やるべきことは終わったわ)(でも、待つだけというのも暇なものね)(皆はこれから、どのように反応してくれるかしら?)燐が最初の投稿に書いたのは、誰でも確かめられるようなごく些細な事実の提示だった。華の経営するサロン『かがりび』と『セレーネ・コンサルティング』が同一住所に入っていること。両方の役員にある程度の重なりが見られるということ。この地点ではまだ疑惑の段階でしかなかったが、SNSの世界においてはその疑惑こそが最も強力な毒となる。投稿は燐の狙い通り、最初は噂好きないくつかの投資アカウントに共有されていった。(最初に流すネタはごく些細な物にする)(九条の名前に、不信という名の小さなラベルを貼っていくの)(知っている人がその名前を見た時、後ろ暗いイメージを思い出してもらえるように――)次に出すのは、九条の系列企業が書くべきものを書いていないという話題だ。食事を終えた燐は離れの部屋へ戻り、タブレットを開いて別のアカウントの文面を作った。九条系の企業がセレーネへ払い続けていた業務委託費の金額と、その関係が有価証券報告書のどこにも書かれていないという事実。並べるのはその二つだけだ。では、この支払いはどこへ消えたのか。人々が最も気になる答えを、燐は途中まで示唆する形で止めた。それは、知識のある人が調べれば自ずと辿り着ける回答だった。(証拠を調べて突きつ
last updateLast Updated : 2026-09-30
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第34話

「少々、落としすぎてしまったようです」燐の一言が放たれた瞬間、華の笑みがその形のまま凍りついた。その目は燐を捉えたまま、しかし確かに困惑と動揺を孕んだように揺れる。そこにあったはずの余裕だけが音もなく抜け落ち、華の態度が一瞬にして真逆のものへ変わるのが分かった。「……何を、おっしゃっているの?」華は、やっとの思いで声を絞り出す。その声には芯が通っていなかった。周囲の人々も顔を見合わせ、何が起きているのかを口々に囁き合う。ざわめきが、輪の外側へ向かって広がっていく。五人、十人、十五人……壁際で商談をしていた者たちまでもが、何事かとこちらへ顔を向けた。あの年次晩餐会を知らない者でさえ、今ここで何かが起きたことだけは分かっている。燐はすべてが終わったように顔を背けて、それからは何も言わなかった。そうしていると、周囲の人々がスマートフォンを片手にあっと驚きの声を上げ始める。「――おい、これを見ろ」「一割どころじゃない、12%も落ちているぞ」「12%……?」会場中でざわめきが大きくなれば、燐と華に向けられた視線は別々の方へと散っていく。華が呆然と立つその周りで、燐がこれまでに成し遂げたことの成果が次々に披露されていく。「あのネットニュースの続報だ。経済紙が裏を取ったらしい」「九条の件か。……関連当事者取引の不開示?」「身内の会社に金を流して、それを報告書に一行も書いていなかったってことだ。しかも一度きりじゃない。三年続いている」燐はそれを聞くと、もう一度華を見下ろしてから彼女に首を捻ってみせた。三年分。訂正報告書、課徴金――そうした言葉が小声で交わされ、最後に誰かが「内部の管理は一体どうなっているんだ」と零す。数字の話が会社そのものの信用の話に変わる。九条の名前を彩っていた名声が次々と剥がれ落ちていく。九条もすべてを放っておいたわけではないだろう。おそらくは密かな買い支えが行われ、これによって株価は一度は持ち直した。しかし追
last updateLast Updated : 2026-10-01
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第35話

その日、九条の株は創業以来類を見ない下落を経験してストップ安となった。九条財閥はすぐさまこれらの対応に追われることとなり、それでもSNS上では人々が怒りの声を上げ続けて収まらない。華の経営するサロンがスピリチュアルビジネスを行っていたことも明らかにされ、それが、華自身の泥酔動画と共に『弱者を食い物にする』姿を想起させたのが大炎上の要因となっていた。九条財閥も一流企業として長いため、このスキャンダル一つで全体が傾くというようなことはなかった。しかし燐の一撃は確かに強烈なもので、華のサロン『かがりび』は即座に畳まれることが決まった。同じ建物に入っていた『セレーネ・コンサルティング』も姿を消し、今や、あの一等地には曰く付きの空き家が残されるだけとなっている。きっと、数日の内に人々の話題は別のものへと移り変わり、九条に関連する事件をわざわざ取り上げることもなくなっていくだろう。しかし誰も本当のことは知らない。これらの火付け役となったアカウントたちの正体が、たった一人の女性であるということを。何も知らない者から見れば、それは確かに『魔法』と呼ぶに相応しい所業であった。 *あれから、華は来る日も来る日も謝罪する日々を送らされていた。個人で持っていた事業は畳まされて、返金を求めてきた会員には返金処理も行った。その上で、これまでビジネスを行ってきた各社に華自らが顔を出して頭を下げた。訪ねる先の応接室は、どこも前よりも狭い部屋になった。出てくるお茶が無い日もあれば、座ることさえできない日もあった。九条の令嬢が頭を下げて回っている――過去に華から頭を下げさせられた者からは、何倍にも増した屈辱が華へ戻ってくるのだった。(どうして、こんな……)そうして何日も過ぎていって、ようやく謝罪回りに一区切りついた頃。すっかりボロボロになっていた華が暇を作って足を運んだのは、恭司がCEOを務める御堂財閥の本社であった。(恭司さん……)もうしばらく会えていなかった。華はせめていい顔をして対面しようと顔を取り繕い、これまでと変わらない立ち振
last updateLast Updated : 2026-10-02
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第36話

同じ日、恭司の姿はとある病院にあった。ロビーに入ってすぐ、担当医の男が恭司と足取りを合わせながら経緯を説明する。恭司が忙しい人物であるため、このように話を聞くのは通例となっていた。「先ほど、御堂様のお母様がご自分で起き上がられました」「容態は?」「バイタルも落ち着いています。このまま経過が良ければ、退院も見えてくるかと」「そうか……」恭司の返事は、内容こそいつも通りだったが、その声には安堵と喜びが滲み出ている。二年かかった。燐と血の契約を結び、毎月の費用を払い、母が良くなるようにと祈り続けた二年。その終わりの報せが平日の昼過ぎに何の前触れもなく届き、恭司はすべての用事を他の者に引き継がせて会社を出てきたのだった。病室に入ると、母がベッドの上で身体を起こしていた。机の上には花束が置かれている。「……恭司じゃない。貴方、仕事があるんじゃないの」「そんなことは……どうでもいいだろ」痩せた手が伸びてきて、恭司の手を握る。力は弱いが、握り返そうとする意志のある手だった。それが恭司にとってはあまりにも嬉しいものだった。「体調は? 苦しいところはないか?」「恭司が、そんなに心配してくれるなんてねぇ。ええ、元気よ。あんなに苦しかったのがウソのよう。何か、魔法でも使ったのかしら」母は笑って、天井の方を見上げた。恭司は何も言えなかった。魔法――その一言が彼の記憶を呼び起こさせる。燐は確かに、彼の母親を救ったのだった。「そうそう、これを見て」机の上にある小ぶりな花束が示される。白と淡い黄色の、落ち着いた印象の花束だった。「綺麗でしょ。でも、誰から贈られたものか分からないのよ。看護師さんに聞いても、分からないって」「…………」回復した母を前にしていた恭司だが、その頭の中には母親以外の人物の姿が強く浮かび上がっていた。恭司は居ても立っ
last updateLast Updated : 2026-10-03
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第37話 第二部

九条財閥の株価下落が大きく報じられてから、半年もの月日が流れていた。半年。それは、燐が御堂家を出て、一人の女性として自立してから経った時間でもある。それだけの時が経って、現在―― *「その話に関しては、どのような条件でも聞けないと伝えたはずですが」某所、年季の入ったビルの狭い会議室で、燐は淡々とした声で相手の要求を突っぱねていた。昼の会議室。そこではスーツ姿の男二人の組と女二人の組がデスク越しに向き合っている。燐はオフィスカジュアルの装いに身を包み、隣の席で肩を縮めているカーディガン姿の女性をかばうように少し前へ身体を乗り出していた。「彼女の工房は私たちが管理すると決まっています。新しい話がないのであれば、お引き取りください」「“社長”さん、これは契約ではなく道理の話だ。真柴の娘が作ったものは、真柴の家に戻るのが筋だろう。娘さんはお父さんとずっと“話をしてきた”のに、突然横から『黒鉄キャピタル』がふっと割り込んできて自分の物にしちゃうなんて、それはあまりにも酷いやり方じゃあないか」テーブルの向こうに座っていた男の一人、代理人を名乗る若い見た目の男がそう言って薄く嗤った。燐は彼のそのような態度を前に、眉一つ動かさない無反応で返してみせる。隣の女性はずっと下を向いたまま、向かいに座る男二人とは顔を合わせようともしなかった。真柴詩織。彼女の生まれである真柴家は、燐の黒鉄家ほどではないものの、第二次大戦以前から魔女を輩出してきた歴史ある家系だった。詩織はその三女として生まれ、魔力量に恵まれず不遇な扱いを受けながらも自力で小さな工房を作り、自作した香油を取引して生計を立てていた。最初こそ売れ行きは良くなかったが、“分かっている人が作っている”という静かな評判から徐々に売り上げは伸び始め、その過程で燐の傘下――『黒鉄キャピタル』に加わり、業務上の支援と提携を受ける運びとなった。黒鉄キャピタル……燐がこの半年の間に新しく作っていた、魔女の、魔女による、魔女のための会社。詩織の会社業務を受
last updateLast Updated : 2026-10-04
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第38話

後日、黒鉄キャピタルへ面接にやって来たのは、写真通りの若い男性だった。「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。白銀優真です」「社長の黒鉄です。どうぞ、おかけください」燐の目の前で、男は一礼の後に椅子へ腰を下ろす。背丈は燐よりも頭一つ高い。細身の身体に、落ち着いた色のスーツがぴったりと馴染んでいる。そして、白く伸びた前髪と、見ようによっては赤く光って映る瞳が彼に不思議な雰囲気を纏わせていた。燐にとってはあまり関わったことのないタイプの男だ。黒鉄家にこのような人物はおらず、御堂家の兄弟とも違う。機械のような恭司、人懐っこい暁――優真は、そのどちらでもない。「優真さん、経歴書によれば、貴方はこれまで魔女の事業に多く関わってこられたと」「はい。間違いありません」燐がそのように尋ねると、優真は極めて落ち着いた口調で答えた。燐の横に座っていた篠原が面接の出来事を手元のメモに残していく。「具体的な内容は守秘義務から言えませんが、困難に陥った魔女の事業を金銭的に支えていました。業務内容も、理念も、御社と重なる部分は多いかと思われます」「ありがとうございます。では、当社についてはどの程度ご存じですか」「創業からまだ半年ですが、家や居場所をなくした魔女の事業を次々と買収し、規模の拡大を行っている会社です」優真は手元に目を落とすこともなく続ける。「買収するだけでなく中身の改善も行い、それを受けた事業は、実際に業績を上げ始めています。ポテンシャルを引き出すのが上手な印象です」「よく調べているみたいですね」「これからお世話になる会社ですから、出会いの場で失礼があってはいけないと思いまして」燐は、いまだ笑顔を崩さない優真とその穏やかな口調に底知れなさを覚えていた。今の優真には何を聞いても妥当な回答が返ってくるような気がする。おそらく、面接の場で聞かれるようなことはすべて調べ上げ、どのような質問でも淀みなく答えられるように準備してきたのだ。そして、実際の場でそれを実行できる頭脳を持っている。胆力もなかなかのものだ。
last updateLast Updated : 2026-10-06
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第39話

御堂恭司が家に帰ってきたのは、この日も、日没を大きく過ぎてからであった。車を降り、御堂家の玄関をくぐって廊下に出る。この時間になれば使用人の多くも既に下がっており、家の中はやけに静かに感じられる。「……」朝から会社へ出向き、夜遅くに帰る。これが御堂財閥CEOとして当然の在り方であると考えていた。だからこそ恭司は何日も、何年も、このようにしてきた。明かりの点いていない玄関で靴を脱ぐのにも慣れていた。それでも。ふと顔を上げれば、そこには遠い離れへ続く長い一本道がある。もう長いこと、あの場所を歩く者を見たことがない。あの場所から足音が聞こえてくることもない。(……もう終わったことだ)(それなのに……)恭司は灯りを探り当てて自分の部屋へ戻ろうとした。しかしすぐに違和感に気付く――自分の部屋がすでに明るくなっている。誰かがいる。恭司は無言のまま、一瞬だけ足を止めて、それからゆっくりと自室へ踏み入った。椅子に、誰かが座っていた。その人が振り返って、声をかけてくる――「――兄上?」恭司の部屋で勝手に寛いでいたのは、弟の暁だった。なんてことはない、彼の性格からしたらそこまで予想外でもない居場所だ。しかし恭司は暁の顔をじっと見つめた後、我に返るまでに少しばかりの時間が掛かってしまっていた。「もしかして、お疲れだったかな。早く寝たい?」「……何の用だ、暁」「気になった話があって、確認しに来ただけだよ」暁はいつものように穏やかに笑っていたが、本題に入るとすぐに真面目な顔に変わった。兄弟のよく似た顔が向き合い、部屋の空気が瞬時に引き締まる。「あの会社……『黒鉄キャピタル』のこと」「暁、御堂はあの会社に関与すべきではないと言ったはずだ」「兄上がそう思っているのは知っているよ。でも、兄上は
last updateLast Updated : 2026-10-07
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第40話

この日は、燐の黒鉄キャピタルに新しいお客さんが来た日だった。オフィスにやって来たのは二十代前半のまだ若い女性で、彼女は出会ってすぐににっこりと微笑みながら元気な声で挨拶してくる。彼女の着るスーツはいかにもフレッシュといった風で、この日のために揃えたのだろうことが見て取れた。「はじめまして、芹です! 今日はよろしくお願いします!」「初めまして、社長の黒鉄です。こちらの部屋にどうぞ」燐は、芹をいつもの応接間に通してテーブルで向き合って座った。今日は燐の隣にもう一人いる。白い髪をした優しい顔立ちの男――白銀優真が、会社の相談役として同席していた。彼は就任から数日の内に社員全員の顔を覚え、燐が期待していたことをそつなくこなし、そのお陰で今日の燐は以前よりもずっと体力的に余裕があった。優真が同席した副産物として……対面していた芹は椅子に座るや否や、優真の方にたびたび視線を向けてはわかりやすく口元を動かしてにやにやしていた。「相談役の白銀です。初めまして、芹さん」「は、はじめ、ましてっ! よろしくお願いします……!」「それで、今日は何の相談に来たの?」「ええっと、その、事業のことで聞きたいことがあって……」芹は燐の言葉で慌てて我に返ると、鞄の中から分厚いファイルと一通の封筒を取り出した。封筒には……黒鉄キャピタルとは別の会社の名前が書かれている。芹はその中に入っていた書面を広げると、燐と優真の方に向けて机の上に置いて折り目を伸ばす。「これは……事業買収の提案? とても大切なものじゃない」「はい、そうなんです。その……私のやっていることを評価してくれたのは嬉しい反面、騙されてたらどうしよう、って。それで、魔女のお友達に聞いたら、最近『黒鉄キャピタル』というところが話を聞いてくれるって……」「これを私たちに見せてくれたということは……向
last updateLast Updated : 2026-10-08
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