やっとの思いで眠ることができた燐だが、こんな夢を見た。『燐……貴女、ここに来ている場合じゃないでしょ』遠くの病院の、見たこともない病室だった。広く殺風景な部屋の真ん中、ベッドの上では燐の母が咳をしている。燐が慌てて近寄ると顔を背け、それだけで燐は胸の奥がひび割れたような心地に苛まれた。場面が変わり、『黒鉄家』の前へと景色が変わる。門を潜ろうとしたら、そこには知らない名前の表札が掛かっていた。「そんな……」また場面が変わる。今度の燐は晩餐会の会場に立っていた。着ているのは誰かに借りたような寸法の合わない衣装で、腕が出ていた。採血の跡が曝け出され、周りの客たちが燐のもっとも痛々しいところを指さして笑っている。『まあ、なんて汚い腕なの』『あの女、株価を落とすなんて言ったらしいわよ』『御堂の御曹司と結婚して調子に乗ったのかしら。妄言もいいところね』燐はそれを否定しようとするのに、声が出ない。会場を逃げようとしたら恭司の視線に気が付いた。憐れんでいる目だった。燐はその目から逃げて駆け出すも途中で躓き、誰かの足元で床に転がって手をついた。顔を上げると――華が、燐のことを見下ろしていた。『あらあら、みっともないお顔。既に汚れている物なら、“もっと汚しても”構いませんわよね?』高笑いの直後、靴の先が、燐の顔を打って――「――!」燐は跳ね起きた。畳の上で毛布を握りしめたまま、汗びっしょりになって肩で息をしている。首に嵌められた輪が鎖骨へ触れると、それが体温を吸ってぬるくなっていたのが分かった。(……夢)なんとか呼吸を戻そうとする。毛布を膝に抱え、切れかかった蛍光灯を見上げた。そうしていると今度は、燐の独房の扉が二度叩かれた。燐が気怠そうに顔を上げると――『黒鉄様』聞き覚えのある声に、燐の眉が上がる。つい先日会ったばかりの、彼女の声だった。
Last Updated : 2026-09-27 Read more