昼休み――黒鉄キャピタルのオフィスの一角が妙な熱気に包まれていた。普段は菓子置き場になっている壁際のテーブルに、今日、真壁がシュークリームの箱を用意していたのだ。「いいですか、皆さん。この中に一つだけ“当たり”があります」箱の周りには社員たちが集まっている。皆で箱の中を覗き込めば、そこには丸いシュークリームが行儀よく並んでいた。なかなかの大きさだ!「当たりには、チョコレートのクリームをたっぷり詰めておきました。ただし見た目では分かりませんよ」「じゃあ、一個だけ違う気配のものを見つければいい、ってことですか?」新入りの芹が元気いっぱいに身を乗り出した。仲間になってまだ数日だというのにもうすっかり周りに馴染んでいて、妹のように可愛がられるポジションとなっていた。真壁は芹の方を向くと、身体の手前で腕を組んで何とも言いがたい笑みを作る。「さあ、どうでしょうね……? 社長! 社長もこっちに来てください」「私も?」燐は少し離れたところからその様子を眺めていたが、真壁に呼ばれてから、皆と同じように箱を覗き込む。「では、どうぞ。喧嘩にならないように選んでくださいね」「……一番右奥のもので」「待って、篠原さん。それは罠よ。さっきから真壁さん、そこだけ見ないようにしてるもの……」篠原に声をかけているのは、彼女と同じ最初期に入社した三枝だ。三枝はやけに忙(せわ)しそうな様子だが、これは燐が普段の仕事で度々見ている姿でもあった。「ええぇ、どれにしたらいいんですか? 分かんないです……」「榊さんは選びませんか?」芹が目をぐるぐる回している中で、集団の中にいた優真が、一人で書類整理している中年女性の方を振り返る。しかし彼女は優真の方を向くこともなく、突っぱねるような態度で黙々とページをめくって内容を確認していた。榊は自前の工房を持っているため普段はオフィスには来ず、必要な事務作業のために
Last Updated : 2026-10-09 Read more