第11話 一夜で凍りついた街 白川恋が目を覚ましたとき、外の世界は白一色に塗り潰されていた。 夜通し吹き荒れた雪は、高い塀の半分近くまで積もっている。正面道路に止められた自動車は屋根の一部しか見えず、街路樹は枝へ付着した氷の重みに耐えきれず、何本も折れていた。 監視カメラの映像は激しい吹雪で白く霞み、数メートル先の様子さえ分からない。風に巻き上げられた雪が建物の外壁へ叩きつけられ、低い唸り声のような音を響かせている。 地下監視室の外気温計には、氷点下三十二度と表示されていた。 昨日の夕方までは、まだ氷点下十度にも達していなかった。それが一夜で二十度以上も下がり、今なお一時間ごとに低下し続けている。「とうとう始まったのね」 恋は寝間着の上からカーディガンを羽織り、設備の状態を確認した。 外部からの電力供給は、午前二時過ぎから何度も途切れていた。現在は完全に停止しており、建物内の照明、暖房、換気、水循環は地下の発電機と蓄電池で動いている。 室温は二十二度、湿度は四十八パーセントに保たれていた。貯水槽にも異常はなく、燃料式ボイラーから供給される温水も問題なく使える。 外が氷点下三十度を下回っているとは思えないほど、建物の中は静かで暖かかった。 恋は異空間から、収納したときの温度を保った朝食を取り出した。炊きたての白い御飯、焼き鮭、卵焼き、豆腐と若布の味噌汁、それに温かい日本茶である。 湯気の立つ味噌汁を口へ運ぶと、柔らかな温もりが喉から胃へ広がった。 前世でこの寒波を迎えた朝、恋は停電したマンションで、冷えた保存食を少しずつ食べていた。室温は急激に下がり、厚手の上着を着ても指先の震えが止まらなかった。 それでも拓斗は、冷たい食事では体が温まらないと文句を言い、恋が非常用として残していた燃料を勝手に使って缶詰を温めた。自分の分だけを食べ終えると、空になった燃料缶を床へ放り出し、これくらいで怒るなと恋を責めた。
Huling Na-update : 2026-09-20 Magbasa pa