Lahat ng Kabanata ng 『氷河末世で殺された私、30日前に回帰して百億の物資を異空間へ備蓄します ~凍えて助けを求めても、二度と扉は開けません~: Kabanata 11 - Kabanata 20

56 Kabanata

第11話 一夜で凍りついた街

第11話 一夜で凍りついた街 白川恋が目を覚ましたとき、外の世界は白一色に塗り潰されていた。 夜通し吹き荒れた雪は、高い塀の半分近くまで積もっている。正面道路に止められた自動車は屋根の一部しか見えず、街路樹は枝へ付着した氷の重みに耐えきれず、何本も折れていた。 監視カメラの映像は激しい吹雪で白く霞み、数メートル先の様子さえ分からない。風に巻き上げられた雪が建物の外壁へ叩きつけられ、低い唸り声のような音を響かせている。 地下監視室の外気温計には、氷点下三十二度と表示されていた。 昨日の夕方までは、まだ氷点下十度にも達していなかった。それが一夜で二十度以上も下がり、今なお一時間ごとに低下し続けている。「とうとう始まったのね」 恋は寝間着の上からカーディガンを羽織り、設備の状態を確認した。 外部からの電力供給は、午前二時過ぎから何度も途切れていた。現在は完全に停止しており、建物内の照明、暖房、換気、水循環は地下の発電機と蓄電池で動いている。 室温は二十二度、湿度は四十八パーセントに保たれていた。貯水槽にも異常はなく、燃料式ボイラーから供給される温水も問題なく使える。 外が氷点下三十度を下回っているとは思えないほど、建物の中は静かで暖かかった。 恋は異空間から、収納したときの温度を保った朝食を取り出した。炊きたての白い御飯、焼き鮭、卵焼き、豆腐と若布の味噌汁、それに温かい日本茶である。 湯気の立つ味噌汁を口へ運ぶと、柔らかな温もりが喉から胃へ広がった。 前世でこの寒波を迎えた朝、恋は停電したマンションで、冷えた保存食を少しずつ食べていた。室温は急激に下がり、厚手の上着を着ても指先の震えが止まらなかった。 それでも拓斗は、冷たい食事では体が温まらないと文句を言い、恋が非常用として残していた燃料を勝手に使って缶詰を温めた。自分の分だけを食べ終えると、空になった燃料缶を床へ放り出し、これくらいで怒るなと恋を責めた。
last updateHuling Na-update : 2026-09-20
Magbasa pa

第12話 今さら扉を叩いても、もう遅い

第12話 今さら扉を叩いても、もう遅い 世界の終わりは、大きな爆発や地震とともに訪れたわけではなかった。 ただ、気温が下がり続けた。 氷点下四十度を超えても寒波は衰えず、翌日の昼には五十度を下回り、日没を迎える頃には氷点下六十一・八度へ達した。 道路も建物も自動車も、何もかもが厚い雪と氷に覆われている。街路樹は幹まで凍りつき、風に耐えられなくなった電柱が、電線を巻き込みながら倒れていた。 水道管は各地で破裂し、発電施設も相次いで停止した。わずかに残っていた携帯電話の基地局も電力を失い、通信網は途切れ始めている。 政府の緊急放送は、繰り返し自宅待機を呼びかけていた。『現在、全国の広い地域で、観測史上例のない低温と大雪が発生しています。救援部隊は出動していますが、道路の寸断により活動が困難な状況です。市民の皆様は可能な限り一つの部屋へ集まり、窓や扉の隙間を塞いで、体温を失わないようにしてください』 放送の途中で映像が大きく乱れ、画面が暗くなった。数秒後、音声だけが戻ってくる。『食料と飲料水は、できる限り計画的に使用してください。屋外へ出る行為は命に関わります。近隣の避難所については、各自治体からの情報を――』 そこで音声も途切れた。 回線を切り替えても、同じ放送は戻ってこない。自治体の情報サイトも更新されず、警察や消防へ電話をかけても、つながらない状態が続いていた。 世界氷河末世が、正式に始まった。 白川恋は、地下監視室で通信機器の状態を確認してから、静かに椅子へ座った。 外では金属を叩きつけるような吹雪が荒れ狂っているが、シェルター内部の室温は二十二度に保たれている。湿度も空気の状態も安定し、照明が揺らぐことすらなかった。 外部電力は完全に失われたものの、地下の発電機と蓄電池は正常に動いていた。燃料式ボイラーが各部屋へ温水を送り、密閉換気設備は濾過した空気を循環させている。 
last updateHuling Na-update : 2026-09-21
Magbasa pa

第13話 その謝罪は、命が惜しくなったから

第13話 その謝罪は、命が惜しくなったから「恋、間違ってた! 開けてくれ! 凍え死にそうだ!」防爆扉の向こうから、吹雪に引き裂かれた拓斗の声が聞こえてくる。「そうだよ、隣人同士、そんなに非情なことはないだろう! こっちは女房まで連れてきてるんだ。せめて中で暖まらせるくらい、してくれてもいいじゃないか!」村田が扉を叩く音に重ねて叫ぶと、今度は高沢までが声を張り上げた。「白川課長、聞こえてるんでしょう! こんな状況なんだから、いつまでも個人的な好き嫌いにこだわっている場合じゃありませんよ。あなたは管理職なんですから、困っている社員を見捨てるなんて許されることじゃないでしょう!」防爆扉の内側に立った白川恋は、右手に浮かぶ銀色の紋様をゆっくりとなぞった。室温は二十二度。床暖房の入った廊下には冷気の欠片すら入り込まず、壁に設置された監視用モニターだけが、外の凄惨な光景を伝えている。門の前では、拓斗たちが肩を寄せ合っていた。全員があり合わせの衣服を何枚も重ね、顔の下半分をマフラーや布で覆っている。それでも防寒は足りていない。吐き出した息がまつげや眉に凍りつき、手足を動かすたび、積もった雪が乾いた粉のように舞い上がっていた。気温はすでに零下六十度を下回っている。防寒装備を持たない人間が、いつまでも耐えられる環境ではなかった。前世の恋も、こうして震えていた。最後の防寒着を奪われ、床に倒れたまま、誰か一人でも振り返ってくれないかと願っていた。だが、拓斗も、村田夫婦も、恋の物資を抱えて出ていくことしか考えていなかった。そのときの自分は、助けてくれと叫ぶ力さえ残っていなかった。それなのに今、門の外にいる者たちは、自分たちが助けてもらえないことを理不尽だと訴えている。恋は壁際の操作盤へ近づき、外部通話のボタンに指を置いた。話す必要などない。このまま放置してもよかった。けれど、扉が開くかもしれないという希望を抱かせたままにしておけば、彼らはいつまでも門前に居座る。何より、恋には一度だけ、はっきりと言っておきたいことがあった。通話装置を作動させると、門の外に設置されたスピーカーから小さな起動音が流れた。拓斗が真っ先に顔を上げる。『聞こえているわ』吹雪の中に恋の声が響いた途端、四人の表情が変わった。凍えきった顔に、露骨な安堵と期待が浮かぶ。「恋! よ
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa

第14話 要塞の門は、もう破れない

第14話 要塞の門は、もう破れない鈍い衝撃音が、吹雪に閉ざされた夜へ響いた。拓斗が全身の力を込めて振り下ろしたバールは、入口を塞ぐ防爆扉の中央へ激突し、手応えのない金属音とともに跳ね返った。厚い手袋をしていても衝撃を殺しきれなかったらしく、拓斗は顔をしかめて右手を振ったが、扉の表面には目立った傷すらついていない。それでも、今さら引き下がれば、自分の言葉がただの虚勢だったと認めることになる。拓斗は四人の視線を意識しながらバールを握り直し、再び防爆扉へ打ちつけた。「一発や二発で壊れるわけないだろ。こういう扉は、同じ場所を何度も叩けば必ず歪むんだ。蝶番か錠の周りを集中的に狙えば、そのうち隙間ができる。恋は工事業者に金を払っただけで、自分で仕組みを知っているわけじゃない。中で震えながら、俺たちが諦めるのを待ってるだけだ」拓斗は自分に言い聞かせるように話しながら、三度目の一撃を振り下ろした。その言葉を、防爆扉の内側にいる恋は監視用マイクを通して聞いていた。入口に設置された扉は、一般住宅用の防犯扉とは構造からして違う。表面だけを厚い鋼板にした見かけ倒しの代物ではなく、複層鋼板と耐衝撃材を重ねた扉本体が、鉄筋コンクリートの躯体へ直接固定されている。蝶番も閂も外側からは触れられず、閉鎖時には上下左右へ複数のロックボルトが伸びる仕組みだった。工事を担当した真壁は、完成検査の日、分厚い設計図を広げながら自信たっぷりに説明していた。「白川さん、この扉は工具を持った素人が何人集まろうと、力任せに破れるようなものではありません。表面を多少へこませることはできるでしょうが、貫通させるより先に、叩いている側の腕と道具が壊れます。ただし、どれほど頑丈な扉でも、開けてしまえば意味がありません。外で誰が泣こうが、どれほど親しい人間の声を使おうが、決して確認せずに解錠しないでください」その忠告を聞いたとき、恋は曖昧に笑うことしかできなかった。あの頃はまだ、末世が本当に訪れると説明することも、自分が一度死んでいると打ち明けることもできなかったからだ。しかし、真壁の言葉だけは胸の底へ刻み込んだ。扉を壊されないことと、自分から開けないことは、同じくらい重要だった。拓斗は何度もバールを振り下ろした。金属同士が激突するたびに大きな音が鳴るものの、扉はびくともしない。やがて肩で息をし始
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa

第15話 最初に仲間を売ったのは村田の妻

第15話 最初に仲間を売ったのは村田の妻「その代わり、私だけ中へ入れてちょうだい。夫のことは助けなくていいわ。あの人たちがどうなっても構わないから、私一人だけを助けて」防犯カメラの下に立った村田の妻は、吹雪に紛れさせるように声を潜めていた。敷地脇の道路では、拓斗たちが雪に埋もれかけた車を囲んでいる。彼らは凍りついたドアをこじ開けようとするのに夢中で、彼女が再び入口へ戻ったことにはまだ気づいていない。制御室にいる恋は、監視モニターに映る女の顔を見つめた。寒さで頬は青ざめ、眉や髪には白い霜が付着している。それでも、その目に浮かんでいるのは恐怖だけではない。自分だけなら助かるかもしれないという期待と、ほかの者を差し出してでも安全な場所を手に入れたいという欲望が、隠しきれずに滲んでいた。前世でも、この女は同じ目をしていた。恋の食料を奪い合ったとき、村田の妻は夫のために必死になっていたわけではない。誰よりも先に缶詰や栄養補助食品を自分の鞄へ詰め込み、夫が見ていない隙には、高価そうな医薬品まで衣服の内側へ隠していた。あのときから、この夫婦は一枚岩ではなかったのだ。恋は外部通話装置を作動させた。ただし、入口脇の小型スピーカーだけに音声を送り、車の近くにいる男たちには聞こえない程度まで音量を下げた。『聞くだけなら聞くわ。ただし、話を聞いたからといって、あなたを中へ入れるとは約束しない』村田の妻は安堵したように息を吐いた。「ええ、それでいいの。私の話を聞けば、恋さんだって誰を信用するべきか分かるはずよ。私はあの人たちとは違うわ。さっきは扉を叩いたけれど、あれだって夫に逆らえなかっただけなの。長く一緒に暮らしていると分かるでしょうけれど、あの人は一度怒ると話を聞かなくなるのよ。私が止めたところで、余計に怒鳴られるだけだから、仕方なく従っていたの」『あなたは金槌を持っていなかったものね』「そうでしょう。私は最初から、こんなやり方はよくないと思っていたの。恋さんと落ち着いて話をして、せめて一晩だけでも置いてもらえないか頼むべきだと言ったのよ。それなのに夫も拓斗さんも、女一人なら脅せば言うことを聞くなんて言い始めて、私が何を言っても聞かなかったわ」恋は録音表示を確認しながら、感情を交えずに尋ねた。『さっき、拓斗が次に何をしようとしているか知っていると言ったわ
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa

第16話 高沢が失った上司という盾

第16話 高沢が失った上司という盾雪の上へ散らばった食料を奪い合ったあと、拓斗たちは故障した車へ戻った。相馬が何度スターターを回しても、エンジンは弱々しい音を立てるだけで始動しない。車内灯すら次第に暗くなり、最後には完全に消えた。五人は凍りついた座席へ身を寄せ、窓から吹き込む冷気を防ぐため、荷台に積んであった毛布や衣服を隙間へ押し込んだ。それでも、車内の温度は上がらなかった。むしろ、五人分の吐息に含まれた水分が窓の内側へ凍りつき、時間がたつほど視界を塞いでいく。相馬が非常用のアルミシートを広げると、拓斗と村田が当然のように手を伸ばしたが、相馬は二人の手を払い、自分の身体へ巻きつけた。「これは俺の車に積んであったものだ。さっき村田が言ってただろ。自分で持ってきたものを他人に渡す理由はないってな」「まだ根に持ってるのか。こういうときに助け合わないでどうするんだ」村田が恨みがましく言うと、相馬は鼻で笑った。「あんたがそれを言うのかよ。俺たちに黙って食料を隠してたくせに、よくそんな台詞が出てくるな」「隠していたわけじゃない。本当に危なくなったとき、全員へ少しずつ分けるつもりだったんだ」「だったら今がそのときだったでしょう! 扉は開かない、車は動かない、外は人が生きられる寒さじゃない。それでも食料を出さなかったんだから、あなたは最初から自分だけで食べるつもりだったのよ!」美佐子が夫へ食ってかかった。「まだ言うのか! おまえは俺を見捨てて、自分だけあの家へ入れてもらおうとしたじゃないか。俺が食料を持っていたことと、おまえの裏切りは別の話だ!」「別じゃないわよ。あなたが私に一つでも分けていたら、あんなことは言わなかったわ。先に私を見捨てたのは、あなたでしょう!」「俺がいつ、おまえを見捨てると言った!」「言葉にしなくたって分かるわよ。相馬さんに避難所まで送れと言ったとき、あなたは自分の話しかしていなかったじゃない。私が薬を飲んでいることだって知っているのに、荷物になるとでも思ったんでしょう!」夫婦の言い争いは途切れる気配がなかった。拓斗は奪い取った栄養補助食品を上着の内側へ隠し、二人の会話に興味がないような顔で目を閉じている。しかし、眠っているわけではない。誰かが動くたびに片目を開け、自分の食料を狙っていないか確かめていた。高沢は後部座席の端へ
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa

第17話 助ける価値のある人間

第17話 助ける価値のある人間『白川さん……聞こえますか。東都防災建設の真壁です。もし聞こえているなら、応答してください』非常用無線機から流れてきた真壁の声は、激しい雑音に何度も遮られていた。『家族は無事です。ただ、近くに住んでいる子供が怪我をしています。病院へ運ぶこともできません。勝手なお願いだということは分かっていますが、白川さんにしか頼めないことがあるんです』恋は送信ボタンを押した。「真壁さん、聞こえています。まず落ち着いて、今いる場所と、怪我をしている子供の状態を順番に教えてください」わずかな間のあと、無線機の向こうから安堵の息が聞こえた。『よかった……もう無線まで壊れたのかと思いました。私たちは東都防災建設の資材倉庫にいます。白川さんのお宅から北西へ四キロほど離れた、工業団地の端にある倉庫です。ここなら発電機と燃料があり、事務所も断熱材を入れて改修してあったので、家族と従業員の何人かを避難させました』「中に何人いますか」『私と妻、それから母と娘が一人ずつ。従業員が二人と、その家族が四人、近所から逃げてきた親子が三人で、全部で十三人です。怪我をしたのは近所の親子の娘で、八歳の女の子です』「怪我をした経緯は?」『倉庫へ逃げ込む途中で、強風に飛ばされた金属片が近くの窓へ当たり、割れたガラスで右腕を切っています。出血は圧迫して何とか止めました。ただ、傷が深く、持っていた救急箱だけでは十分な処置ができません。女の子は意識がありますが、かなり痛がっていて、少し熱も出てきました』「傷を診られる人はいますか」『従業員の妻が介護施設で働いています。応急処置の経験はありますが、医師でも看護師でもありません。ここにあるのは古い消毒液と包帯、それから市販の鎮痛薬くらいです。道路は完全に雪で埋まり、消防にも病院にも連絡がつきません。車を出そうとしましたが、倉庫の前から百メートルも進めませんでした』真壁は一度言葉を切った。無線機の向こうで、誰かが小さな声で話している。幼い子供の泣き声も、雑音に混じって聞こえた。『白川さん、誤解しないでください。私たちをあなたの家へ入れてほしいと言っているわけではありません。家族も従業員も、ここで何とかします。食料も燃料も、今すぐ尽きるわけではありません。ただ、もし外傷用の医療品を分けてもらえるなら、あの子へ届ける方法
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa

第18話 善意は平等ではない

第18話 善意は平等ではない「恋! 今、誰に何を渡した! 俺たちを見捨てて、どうしてそいつらだけ助けるんだ!」拓斗の怒声が、吹雪の中に響いていた。屋上の発着室では、帰還した無人機の回転翼がゆっくりと停止している。機体表面には細かな氷が付着し、加温装置を内蔵したバッテリーも、往復四キロ余りの飛行だけで残量が三割近くまで減っていた。恋は無人機を右手で異空間へ収納した。時間の止まった空間へ入れておけば、整備を始めるまで劣化も凍結も進まない。医療物資は無事に届き、負傷した女の子も処置を受けている。それだけ確認できれば、拓斗に何を言われようと気にする必要はなかった。恋は発着室から制御室へ戻り、真壁から届いた無線連絡を記録へ残した。外部カメラの映像では、拓斗が建物を見上げたまま怒鳴り続けている。「俺たちには食料一つ寄越さないのに、知らない人間には箱ごと渡すのかよ! おまえはさっき、物資は自分のものだから、誰に分けるかは自分で決めるって言ったよな。それなら、俺たちを助けない理由を説明しろ!」故障した車から、ほかの四人も降りてきた。相馬はアルミシートを身体へ巻きつけ、高沢は傷めた右手を胸元へ抱えている。村田夫婦は先ほどまで激しく言い争っていたはずだが、恋への不満を訴えるため、一時的に夫婦喧嘩を中断したらしい。高沢が防犯カメラの下へ立ち、赤黒く変色した右手を見せつけるように掲げた。「白川課長、僕も怪我をしているんです。指の感覚がほとんどありませんし、皮膚も剥がれています。どこの誰かも分からない人には医薬品を届けて、自分の部下だった人間は放っておくつもりですか。こんな扱いが許されると思っているんですか!」恋は返事をしなかった。高沢が怪我をしたのは、警告を無視して吸排気口へ手を出したからだ。自分で起こした破壊行為の結果を、恋が医薬品を提供しないせいにすり替えようとしている。村田の妻である美佐子も、夫を押しのけるように前へ出た。「恋さん、私には持病があるのよ。薬がなくなったら、いつ倒れるか分からないの。それなのに、見ず知らずの人を優先するなんておかしいでしょう。私たちは隣人だったのよ。毎日顔を合わせて、夕食にだって誘ってあげたじゃない。普通なら、まず近くにいる人から助けるものじゃないかしら」「そうだ。どこの誰だか知らない人間より、顔を知っている俺たちを優
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa

第19話 難民たちが門前へ集まる

第19話 難民たちが門前へ集まる監視画面に表示された熱源の数は、二十人を超えても増え続けていた。最初に敷地前へたどり着いたのは、毛布に包んだ幼い男の子を背負う女性だった。女性は膝まで雪に埋まりながら何度も転び、そのたびに片手をついて身体を支え、背中の子供だけは地面へ落とさないよう必死に守っている。その後ろからは、白髪の男性に肩を貸す若い夫婦が歩いてきた。三人とも雪まみれで、履いている靴も雪山を歩くためのものではない。さらに少し遅れて、大きなリュックを背負った二人組の男が姿を現した。一人は長い鉄製の工具を持ち、もう一人は登山用の斧を腰から下げている。どちらも、単なる避難道具と見るには物々しかった。恋は広域監視用の画面を切り替え、近づいてくる人間を一人ずつ確認した。北側から九人、東側から七人、南へ延びる道路から十一人。建物の陰や吹雪に遮られて熱源を正確に捉えられない場所もあるため、実際の人数はさらに多いはずだった。敷地前へ着いた女性は、頑丈な門と外壁を見上げ、息を切らしながら呼びかけた。「誰か、いませんか。掲示板を見て来ました。ここなら暖房が動いていて、子供を休ませてもらえると書いてあったんです。息子がもう歩けなくて、ずっと背負ってきました。少しの間だけでもいいので、中へ入れてください」その声を聞きつけ、故障した車の近くにいた村田が駆け寄った。「大丈夫ですよ。ここには食料も医薬品も大量にあります。中にいる女が意地を張っているだけで、みんなで頼めば必ず開けさせられますから」女性は安堵するどころか、不安そうに村田を見た。「あなたが、掲示板へ書き込んだ方ですか。ここは避難所ではなく、個人のお宅なんですか」「元は診療所だった建物です。これだけの広さがあるんだから、避難所と同じようなものでしょう。所有者だって、この非常時に一人で使っていいはずがない。あなたも子供がいるなら、遠慮せずに強く言ったほうがいいですよ」「でも、持ち主の方が入れてくれると確認してから、書き込んだのではないんですか」村田の顔に、わずかな苛立ちが浮かんだ。「そんな細かいことを気にしている場合じゃないでしょう。お子さんが凍え死んでもいいんですか。中には暖房も食料もあるんだから、扉を開けさせれば済む話です」女性は村田から一歩離れ、子供を背負い直した。そのやり取りを聞いていた相馬
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa

第20話 拓斗が呼び込んだ略奪者

第20話 拓斗が呼び込んだ略奪者夜明け前の午前四時十七分、南側の広域センサーが、まとまって移動する複数の熱源を捉えた。吹雪の向こうから、低く唸るエンジン音が近づいてくる。恋が監視画面を切り替えると、除雪作業用と思われる小型の装軌車両が、雪を左右へ押し分けながら進んでいた。その後ろには二台の雪上車が続き、合わせて九人の男たちが乗っている。彼らは、先ほどまで門前に集まっていた避難民とは明らかに違っていた。全員が極寒地用の厚い防寒着を身につけ、顔をゴーグルや覆面で隠している。背中には大型のリュックを背負い、手には鉄製の工具や大きなハンマーを持っていた。装軌車両の荷台には、工事用の機材や燃料缶らしき容器が積まれている。先頭車両の助手席に座る男は、布で包んだ長い物を両膝の上へ載せていた。映像を拡大すると、それが猟銃であることが分かった。「来たか」故障した車の陰で待っていた拓斗が、ほっとしたように息を吐いた。彼は雪をかき分けて道路へ出ると、両腕を大きく振った。「こっちだ! 家は、この奥にある!」装軌車両は拓斗の手前で停止した。エンジン音が途切れると、運転席から防寒帽をかぶった大柄な男が降りてきた。男は四十代半ばほどで、鼻の下から顎にかけて短い髭を生やしている。分厚い防寒着の上からでも、肩幅の広さと体格のよさが分かった。「水城、おまえが連絡してきた家は、あれで間違いないんだな」男は、外壁と防爆扉に囲まれた恋の家を見上げた。「間違いない。中には何年分あるか分からないくらいの食料と燃料がある。発電機も動いてるし、医薬品もある。少し前には無人機を飛ばして、別の場所へ箱ごと物資を送ってた」「おまえの話では、元恋人と一緒に用意した家だということだったな」「ああ。名義は恋になってるけど、俺もここで暮らす予定だった。別れたあと、あいつが勝手に鍵を替えて、俺を締め出したんだ」拓斗は迷いなく嘘をついた。大柄な男は、すぐには返事をしなかった。防爆扉、外壁、屋上の発着室、投光器、監視カメラを順番に眺める。その視線は、暖房や食料を求めて押しかけた避難民のものではない。建物をどう攻め、どこから侵入し、何を奪えるか値踏みする人間の目だった。「おまえも金を出したのか」「もちろんだ。家具や家電も買ったし、改修費だって一部は俺が負担した」「いくら出した」拓斗は一
last updateHuling Na-update : 2026-09-22
Magbasa pa
PREV
123456
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status