Lahat ng Kabanata ng 『氷河末世で殺された私、30日前に回帰して百億の物資を異空間へ備蓄します ~凍えて助けを求めても、二度と扉は開けません~: Kabanata 21 - Kabanata 30

56 Kabanata

第21話 壊されたはずの水は止まらない

第21話 壊されたはずの水は止まらない「まず外の水道を潰せ。次に電源だ。空気まで止めれば、どんな頑丈な箱でも中にいる人間のほうから扉を開ける」大庭がそう命じると、略奪者たちは雪上車から工具を下ろし始めた。金属製の大型カッター、長い柄のついたハンマー、携帯式の切断機、凍結した地面を割るためのつるはし。どれも、この異常な寒さの中で生活を立て直すための道具ではなく、他人が築いたものを壊して奪うために持ち込まれた道具だった。白川恋は、監視室の椅子に座ったまま、その様子を複数の画面で眺めていた。外気温は零下六十七度。吹雪が弱まる気配はなく、風速は一秒あたり二十メートルを超えている。まともな防寒装備を身につけていても、長時間の屋外活動は命取りになる環境だった。それでも大庭たちは動いている。生きるためではない。奪えば助かるという欲望に背中を押されているからだ。「西側の壁沿いに三人、旧給水管の前に二人。正面には大庭と拓斗。雪上車のそばに銃を持った見張りが一人……」恋は画面を切り替えながら、襲撃者たちの位置を一人ずつ確認していった。真壁が取りつけた赤外線カメラは、吹雪の中でも人間の体温を輪郭として捉えている。外壁に埋め込まれた振動センサーは、誰がどこを叩き、どの方向へ移動したかまで監視卓に伝えていた。逃げ惑っている村田夫婦や高沢とは違い、大庭の一味は役割を分けていた。乱暴ではあるが、場当たり的ではない。正面から扉を破れないと見るや、すぐに生活基盤を狙う方針へ切り替えている。前世で恋を襲ったのは、空腹と寒さで理性を失った近隣住民だった。しかし今回、門前に立っているのは、最初から他人を踏みつけて生き延びる覚悟を決めた人間たちだ。恋は彼らを恐れてはいなかったが、軽く見るつもりもなかった。画面の中で、拓斗が西側の壁を指さした。「そこだよ。工事をしていたとき、太い管を何本も壁の中へ引き込んでいた。恋は見栄っ張りだから、金をかけた設備を自慢したくて仕方がなかったんだ。水を止めれば、あいつだってすぐ弱気になる」「お前、本当に中を見たことがあるんだろうな」大庭は顔を覆う防寒マスク越しに、低い声で問い返した。「もちろんだ。俺と恋が別れたのは少し前だけど、あいつの考えることならだいたい分かる。仕事では偉そうにしているけど、実際は気が小さい女なんだよ。自分の予定が狂うと
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第22話 拓斗への最初の清算

第22話 拓斗への最初の清算「次で成果が出なければ、お前に払ってもらう。まずは食料、それで足りなければ防寒具だ。俺たちを騙した代金は、きっちり取り立てる」大庭に襟元をつかまれたまま、水城拓斗は何度も首を横に振った。「待ってくれ。俺は騙していない。恋の家に物資があるのは本当なんだ。ドローンで薬や食料を配っていたのを、あんたたちだって見ただろう。あれだけの設備を整えられる女が、食料を少ししか持っていないわけがない」「中に物があることと、俺たちがそれを奪えることは別の話だ。お前は扉を開けさせられると言った。女の性格も設備も知っていると言った。それを信じてここまで来たんだ」「だから、もう少し時間をくれ。俺があいつと直接話せばいい。恋は今、意地になっているだけなんだ。俺が本気で謝れば、最後には必ず折れる」拓斗は恋の名を呼びながら、監視カメラのある正面門へ顔を向けた。その目には、恋へ助けを求める色よりも、大庭から自分を守らせようとする必死さが浮かんでいた。白川恋は監視室で、その醜く引きつった顔を見つめていた。拓斗は昔からそうだった。自分で問題を起こしておきながら、追い詰められると恋を盾にした。借金の返済を迫られたときも、仕事で失敗したときも、友人と揉めたときも、最後には決まって「恋が何とかしてくれる」と言った。彼が欲しがっていたのは恋という人間ではない。自分の失敗を片づけ、金を差し出し、黙って我慢する便利な女だった。「白川恋、聞いているんだろう! こいつらに説明してくれ。俺は嘘をついていない。お前が扉を開ければ、それですべて済むんだ!」防爆扉の外で、拓斗の声が風に削られながら響いた。自分が連れてきた略奪者を前にして、それでも要求するのは恋の譲歩だった。自分が間違っていたとは考えず、恋が財産を差し出さないから事態が悪化したのだと思い込んでいる。大庭は拓斗を突き放すと、そばにいた男へ顎をしゃくった。「持ち物を調べろ。食料を隠している」「やめろ、勝手に触るな!」拓斗が上着の胸元を押さえた途端、二人の男が左右から腕をつかんだ。抵抗しても、疲れ切った彼の力では振りほどけない。三人目の男が防寒着のファスナーを乱暴に下ろし、内側のポケットへ手を突っ込んだ。最初に出てきたのは、小さな栄養補助食品だった。続いてチョコレートが二枚、個包装のビスケットが三袋、
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第23話 零下八十度の第二波

第23話 零下八十度の第二波監視卓の端で点滅していた黄色い警告表示が、赤へ変わった。第一発電機の振動値が許容範囲を超え、回転数にも小さな乱れが生じている。今すぐ停止するほど深刻な故障ではないが、このまま使い続ければ、いつ致命的な損傷へ発展してもおかしくなかった。白川恋は外の監視画面から目を離し、発電設備の状態を確認した。暖房、照明、換気、水循環、監視装置、防犯設備。シェルターを維持するすべての機能が、電気を必要としている。異空間に無限の物資があっても、電力を失えば、この要塞は巨大な冷凍庫と変わらない。室温二十二度の監視室にいながら、恋の背中を冷たい感覚が走った。前世では、電気が止まっただけで人々の暮らしは崩れ始めた。灯油や薪が残っているうちは誰もが楽観していたが、暖房器具が壊れ、凍結によって配管が破裂し、ひとつの故障が次の故障を呼ぶようになると、家は急速に人間の命を守れない場所へ変わった。高価な設備があるから安全なのではない。壊れたときにどう対処するかを決めてあるから、安全を維持できるのだ。恋は第一発電機の負荷を徐々に下げ、地下蓄電池への切り替え操作を行った。一度に電力を移せば、機器へ余計な負担がかかる。真壁から教えられた手順を思い出しながら、換気装置、循環ポンプ、暖房設備の順に電力供給先を切り替えていく。表示がすべて正常になったことを確認してから、第一発電機を停止させた。 室内の照明は消えなかった。暖房の音も変わらない。しかし、監視卓に表示される蓄電池の残量は、ゆっくりと減り始めていた。「慌てる必要はない。第二発電機を動かして、その間に故障した一号機を交換すればいい」声に出して確認するのは、自分自身へ言い聞かせるためでもあった。以前の恋なら、異常を知らせる赤い表示を見ただけで、誰かに判断を委ねたくなっていただろう。けれど今、この家にいるのは自分ひとりだ。助けを呼んでも、この吹雪を越えて来られる人間はいない。恋は第二発電機の予熱を開始し、燃料経路と排気設備を確認してから起動させた。低い始動音が地下設備室から伝わってくる。数秒後、回転数が安定し、発電量を示す数値が上昇した。恋は胸の奥に溜めていた息を吐き、蓄電池から第二発電機へ負荷を戻した。これで当面の電力は守られた。だが、一台が壊れたままでは予備がない。第二発電機まで故障すれば
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第24話 シェルターを城塞へ

第24話 シェルターを城塞へ地下から突き上げるような衝撃が走り、監視室の壁が低く鳴った。棚に置いていた金属製のカップが倒れ、床へ落ちる。天井の照明が一度だけ揺らいだものの、消えることはなかった。白川恋は反射的に机の縁をつかみ、監視卓へ視線を戻した。北東側の映像は、舞い上がった雪と粉塵で白く覆われている。外壁振動センサーの一部が一時的に測定不能となり、画面には複数の警告が並んでいた。しかし、地下区画の気密性、換気設備、電力供給、貯水槽のいずれにも異常はない。恋は慌てて外へ意識を向けるのではなく、まずシェルター内部の状態を確かめた。人間は大きな音に驚くと、もっとも目立つ場所だけを見てしまう。だからこそ、事故が起きたときほど確認する順番を崩してはいけないと、真壁から何度も教えられていた。地下設備区画、異常なし。居住区、異常なし。第一、第二発電機ともに正常。空気循環、正常。火災反応、なし。そこでようやく、恋は北東側の予備カメラへ画面を切り替えた。 粉塵が吹雪に流されるにつれ、爆発した場所の様子が見えてきた。金属製の偽装扉は中央部分が大きくへこみ、外側の覆いが外れている。だが、その奥にある緩衝空間と鉄筋コンクリート壁は、ほぼ無傷だった。工事中に使われていた旧搬入口は、真壁によって完全に埋め戻されている。外から見える金属扉は、侵入者の目を本物の入口から逸らし、一か所へ集めるために残されたものにすぎない。「耐えた……」恋は短く息を吐いた。絶対に大丈夫だと信じていたわけではない。設計上の数値と、実際に爆発を受けた結果が同じになる保証などないのだ。異空間に百億円分の物資があっても、壁を破られれば終わる。だから恋は、警告表示がすべて正常へ戻るまで気を抜かなかった。外では、大庭たちが雪上車の陰から顔を出し始めていた。「開いたぞ!」最初に叫んだのは村田だった。舞い上がる雪の向こうに黒い隙間が見えたため、偽装扉を破っただけで地下室への道が開いたと思い込んだらしい。「だから言ったでしょう。あそこが搬入口なんだ。早く中へ入らないと、白川さんが内側から塞いでしまう!」村田は手柄を立てたことを大庭へ示したいのか、誰よりも先に爆発跡へ近づこうとした。「待って、まだ危ないわよ!」美佐子が夫の腕をつかんだが、村田は乱暴に振り払った。「ここで役に立た
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第25話 世界地図から暖色が消えた

第25話 世界地図から暖色が消えた『この冬は、数日では終わりません。生存可能な閉鎖環境を確保し、長期隔離へ移行してください』北太平洋気象観測連絡網からの音声は、同じ警告を三度繰り返したあと、耳障りな雑音へ変わった。白川恋は受信周波数をわずかにずらし、もう一度音声を拾おうとした。しかし、断片的な英語と機械音が聞こえるだけで、気象データの送信は再開されなかった。監視室の大型画面には、受信した情報をもとに作成した世界地図が表示されている。寒冷化が始まる前、地図上には赤道付近を中心に赤や橙色が広がり、北へ向かうにつれて黄色、緑、青へと変化していた。それが今では、北半球の大部分が濃い青と紫に覆われている。日本列島は、ほとんど黒に近い紫色だった。北米、欧州、ロシア、東アジアも同様である。南半球にはまだ黄色や緑の地域がわずかに残っていたが、届いたばかりの観測情報を反映させると、その暖色も急速に狭まっていった。赤道周辺で降雪。南国の沿岸都市で水道管が凍結。燃料輸送の停止。空港閉鎖。発電所の緊急停止。表示される情報の多くは、数時間前のものだった。更新されない地域は、状況が安定しているのではない。情報を送る手段そのものが失われている可能性が高かった。恋は画面上の時刻を確認し、届いたデータを保存した。前世でも世界は氷に閉ざされた。だが、そのときの恋には、自宅周辺の状況を把握するだけの余裕しかなかった。テレビとインターネットが止まったあとは、世界のどこで何が起きているのかさえ分からず、いつか気温が戻るのではないかという根拠のない期待だけを抱いていた。今回は違う。寒冷化の速度が、前世で経験したものより明らかに速い。恋が覚えている限り、零下八十度を下回るのは末世が始まってから、もう少し先だった。それなのに現在の外気温は、すでに零下八十二度へ達している。「私が戻ったことで、何かが変わったわけではないわよね」思わず口にしたが、答える者はいなかった。自分ひとりの選択が地球規模の現象を変えるはずはない。それでも前世の記憶と異なることが起きれば、因果関係などないと分かっていても、不安は膨らむ。未来を知っていることが強みになるのは、未来が記憶どおりに進む間だけだ。予想より寒冷化が速く、前世になかった集団が現れ、知らない場所で別の争いが起きる。これから先、恋の
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第26話 助けを求める声を、すべて信じない

第26話 助けを求める声を、すべて信じない「黒岩さん。あなたが公平に分配しているという証拠を、まず見せてください」白川恋がそう告げると、通信の向こうで短い沈黙が生まれた。奈緒が通信機を返すよう訴える声も、いつの間にか聞こえなくなっている。黒岩がどこか別の場所へ移動したのか、それとも周囲の者に奈緒を連れ出させたのか、音声だけでは判断できなかった。『証拠とは、穏やかではありませんね。私は避難者全員の同意を得て、物資を管理しているだけです。こんな状況で個人が食料や薬を抱え込めば、体の強い者が生き残り、子供や高齢者から先に死ぬことになる。そうならないために、私が責任を引き受けているんですよ』「全員の同意を得たと言いましたね。それなら、佐伯さん本人に確認させてください」『彼女は息子さんのことで動揺しています。今は冷静に話せる状態ではありません』「動揺しているからこそ、あなたが代わりに答えるのではなく、本人の話を聞く必要があります。通信機を返してください」『白川さん、あなたも責任ある立場で働いていた方なら分かるでしょう。組織を維持するには、窓口を一本化しなければならない。四十人がそれぞれ勝手な要求を始めたら、限られた物資など一晩でなくなります』黒岩の口調は、あくまで丁寧だった。声を荒らげず、自分は冷静に全体を考えているのだと印象づけようとしている。相手の要求を拒絶するときも、拒絶しているとは言わず、組織や公平という言葉で包んでいた。恋は会社員だった頃、同じような話し方をする人間を何人も見てきた。自分の都合を会社の方針と言い換え、他人の意見を感情論として片づける。そういう者は、責任を引き受けると言いながら、失敗したときだけ「全員で決めたことだ」と逃げる。「では、一本化された窓口として答えてください。現在保有している食料、飲料水、医薬品、燃料の量と、一日あたりの配給量を教えてもらえますか」『細かな集計は担当者が行っています。今、手元に資料がありません』「管理している本人が、全体量を把握していないのですか」『物資の種類が多いので、すべてを記憶するのは不可能だと言っているんです』「おおよその日数で構いません。今の人数で、食料はあと何日保ちますか」『このままでは二日です。だからこそ、あなたの協力が必要なんですよ』「二日しか保たない食料を、全員へ公平
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第27話 地下駐車場の王様

「母親と子供を入口近くへ移せ。白川が様子を確かめに来る可能性がある。寒い場所に二人を置いておけば、いつまでも強情なことは言っていられないだろう」偵察ドローンが拾った黒岩宗介の声を聞きながら、白川恋は機体を地下駐車場の天井付近へ退避させた。黒岩の指示を受けた男たちは、奈緒を清掃用具入れから連れ出すと、高熱に苦しむ陽翔を毛布ごと抱え上げた。陽翔に付き添っていた女性が止めようとしたものの、黒岩の取り巻きに肩を押され、その場に留められている。「やめてください。陽翔は四十度近い熱があるんです。入口へ連れていったら、冷たい空気を吸い込むだけでも危険です」奈緒が息子を取り返そうとしたが、二人の男に両腕をつかまれて動けなかった。「俺たちに言われても困るんだ。代表が決めたことだから、文句があるなら黒岩さんに言ってくれ」「その黒岩さんが、こんなことを命じたのでしょう。子供を人質にして物資を要求することの、どこが自治会なんですか」「人質なんて言うな。あんたが勝手に外へ連絡したから、全員が迷惑しているんだ」「私が頼んだのは息子の薬だけです。食料も燃料も発電機も要求していません」「白川という女が十分な量を出せば、こんな話にはならなかった。あんたも母親なら、余計なことを言わずに説得しろよ」男はそう言いながらも、奈緒と目を合わせようとはしなかった。自分がしていることに後ろめたさはあるのだろう。それでも黒岩に逆らって暖房の近くから追い出されるより、弱い母子を運ぶほうを選んだ。命令されたから仕方がないという言葉は、人間が自分の卑怯さを見ないために使う、もっとも便利な言い訳なのかもしれない。奈緒と陽翔が連れていかれると、壁際に集まっていた避難者たちの間から、低いざわめきが起きた。黒岩はそれを黙らせるように手を上げ、中央の暖房区画から立ち上がった。「皆さん、誤解しないでください。私は佐伯さん親子を罰したいわけではありません。白川という人物と直接交渉しやすい場所へ移ってもらうだけです」「暖房の届かない入口へ移す必要が、どこにあるんですか」先ほど陽翔に付き添っていた女性が問いかけた。五十歳前後に見える、小柄な女性だった。「稲葉さん、あなたは元保育士だから、子供が心配なのは分かります。しかし、感情だけで集団を動かすことはできません」「これは感情の問題ではありません。あの
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第28話 扉を開けずに人を救う方法

第28話 扉を開けずに人を救う方法明け方四時まで、あと五時間しかなかった。白川恋は黒岩との通信を終えると、地下格納庫へ向かい、異空間から寒冷地用の小型装軌車を取り出した。車体は一般的な乗用車よりひと回り大きく、四輪ではなく幅の広い履帯で走行する。前世で凍結した道路を移動する車両が次々と立ち往生したことを覚えていた恋が、末世前に無理を承知で購入したものだ。運転席と後部荷室は気密性の高い構造になっており、簡易的な空気濾過装置と補助暖房も備えている。ただし、購入時の座席数は六人分しかなかった。恋は荷室に固定されていた工具棚を右手で収納し、代わりに折り畳み式の座席と保温マットを取り出した。救助する人数は、現時点では十二人から十五人を想定している。座り心地を優先する余裕はないが、走行中に体を支えられなければ、怪我人や高齢者を運べない。異空間から座席を取り出して床へ固定しながら、恋は何度も配置を変えた。通路を狭くすれば多く乗せられるが、陽翔を横に寝かせる場所がなくなる。寝台を広く取れば、他の避難者を置いていかなければならない。数字の上ではわずか一人分の違いだった。だが、その一人にも名前があり、家族があり、置いていかれれば死ぬかもしれない。「全員を救えないからといって、最初から誰も助けない理由にはならない」恋は自分へ言い聞かせるように呟き、荷室の片側へ簡易寝台を固定した。次に、黒岩を車両用の坂へ引きつける無人運搬車を準備する。荷台には食料の箱、飲料水、毛布、携帯燃料を積んだ。すべて本物だったが、黒岩が要求した量の半分にも満たない。発電機や大量の医薬品も載せていなかった。空箱を囮にすれば、黒岩はすぐに異変へ気づく。ある程度の物資を実際に見せ、自分は交渉に勝ったと思わせる必要がある。恋は箱の奥へ小型の発信器を忍ばせた。黒岩が物資をどこへ運び、誰に配るのかを確認するためである。救出後も地下駐車場には多くの人が残る。彼らを見捨てるつもりはないが、黒岩へ無制限に物資を与えることもできなかった。無人運搬車の走行経路を入力したあと、恋は敷地の外周にある独立区画へ移動した。そこは診療所として使われていた頃、感染症の疑いがある患者を一時的に待機させるために造られた別棟だった。母屋とは渡り廊下でつながっていたが、改修時に通路を撤去し、完全に切り離している。広さ
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第29話 生き残るための七つの規則

第29話 生き残るための七つの規則「ここで暮らしたいのなら、守ってもらう規則があります」 白川恋がそう告げると、暖房設備の低い唸りだけが別棟の待合室に残った。 救出された十四人は、まだ濡れた防寒着を脱ぐことさえためらっていた。壁際に並べられた長椅子へ腰を下ろしながらも、誰もが互いの顔色をうかがい、逃げ道を探すように出入口へ視線を送っている。 無理もなかった。つい数時間前まで、彼らは黒岩宗介の支配する地下駐車場で、食料を没収され、暖房を人質に取られ、反抗すれば吹雪の中へ追い出すと脅されていたのだ。救出されたからといって、すぐに他人を信じられるはずがない。 白衣の代わりに厚手の作業着を着た恋は、診察用ベッドに横たわる佐伯陽翔の額から体温計を抜いた。「三十九度八分。さっきよりわずかに下がっていますが、まだ安心はできません。奈緒さん、陽翔君の体重は十八キロで間違いありませんね」「はい。先月、保育園で測ったときは十八・二キロでした。あの、薬は本当に足りるんでしょうか。私の分の食事は減らしてもらって構いませんから、この子だけは……」「薬と食事を交換する必要はありません。用量を守って解熱剤を使い、水分を少しずつ取らせます。吐いたり、呼びかけへの反応が鈍くなったりしたら、すぐに知らせてください。あなたが眠ってしまった場合に備えて、今夜は稲葉さんにも交代で見てもらいます」 恋は不安を煽らないよう、できるだけ淡々と説明した。大丈夫だと断言することもしなかった。人間は追い詰められるほど、確実な言葉へすがりたがる。しかし、根拠のない安心は、ときに残酷な嘘となる。「薬があるのなら、もっと早く出してくれてもよかったでしょう」 掠れた男の声が、待合室の奥から飛んできた。 左腕に応急処置の添え木を当てた橋本隆司だった。三十代後半で、地下駐車場では物資搬入の作業中に転倒し、腕を痛めたという。痛みと疲労のせいもあるのだろうが、彼は救出車へ乗り込んだ直後から、恋が何を持っているのか、母屋には何人住んでいるのかと質問を繰り返していた。「子供が四十度近い熱を出しているのに、あなたは様子を見ていた。こんなに暖かい場所も薬も持っているのなら、最初から全員を助けられたんじゃないですか。俺たちに規則を押しつける前に、どうして見殺しにしかけたのか説明するのが筋でしょう」「橋本さん、やめて
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第30話 高沢が売った避難者名簿

第30話 高沢が売った避難者名簿 高沢の声が発信された場所は、白川恋のシェルターから北東へおよそ四キロ離れた配送センターだった。 かつては食料品や日用品を満載したトラックが昼夜を問わず出入りしていた建物も、いまでは搬入口の半分が雪と氷に埋まり、割れた窓には毛布と合板が打ちつけられている。大庭の一味は建物内に残されていた梱包材や木製パレットを燃やし、事務室の一角だけを辛うじて暖めていたが、広い倉庫全体を覆う冷気は、焚き火の熱など簡単に押し潰していた。 高沢は空になったインスタント麺の容器を両手で抱え、底に残った薄い汁をすすった。以前なら、賞味期限の切れた麺など見るだけで顔をしかめていただろう。職場では高級志向を気取り、後輩が選んだ居酒屋を安っぽいと笑いながら、自分では一度も会計を引き受けなかった男である。 しかし、氷河末世が始まってから、高沢の舌は驚くほど寛容になった。麺が伸びていようが、汁に埃が浮いていようが、胃に入れば文句を言う必要はない。もっとも、その寛容さが自分以外へ向けられることはなかった。「これだけですか。俺が渡した情報の価値を考えたら、缶詰の一つくらいつけてもいいでしょう。あの名簿があれば、食料を持っている家を効率よく探せるんですよ」 高沢が容器を差し出すと、机の向こうに座る大庭は、面倒そうに片方の眉を持ち上げた。先日の襲撃で頬に負った傷はまだ赤黒く腫れ、左手には汚れた包帯が巻かれている。恋の偽装扉に爆薬を仕掛けながら、何一つ奪えずに逃げ帰った屈辱が、彼を以前よりも苛立たせていた。「名前と住所が並んだ紙切れを見せただけで、ずいぶん偉そうになったじゃねえか。住所が分かったところで、そこまでの道路は雪に埋まっているし、着いてみたら家の中が空だったなんてこともある。そんなものに缶詰一個を払っていたら、俺たちの食料が先になくなる」「ただの住所録じゃありません。勤務先の役職、緊急連絡先、同居家族、それに会社で耳にした資産状況まで書き足してあります。役員や部長クラスなら、一般社員より備蓄している可能性が高いでしょう。会社名義で借りていた倉庫や社宅の場所も分かる。手当たり次第に民家を探すより、はるかに効率がいい」「つまり、おまえは会社の人間を売って、自分だけ飯を食おうとしているわけだ」 大庭の隣にいた男が、焚き火へ木片を放り込みながら笑った。「
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