第21話 壊されたはずの水は止まらない「まず外の水道を潰せ。次に電源だ。空気まで止めれば、どんな頑丈な箱でも中にいる人間のほうから扉を開ける」大庭がそう命じると、略奪者たちは雪上車から工具を下ろし始めた。金属製の大型カッター、長い柄のついたハンマー、携帯式の切断機、凍結した地面を割るためのつるはし。どれも、この異常な寒さの中で生活を立て直すための道具ではなく、他人が築いたものを壊して奪うために持ち込まれた道具だった。白川恋は、監視室の椅子に座ったまま、その様子を複数の画面で眺めていた。外気温は零下六十七度。吹雪が弱まる気配はなく、風速は一秒あたり二十メートルを超えている。まともな防寒装備を身につけていても、長時間の屋外活動は命取りになる環境だった。それでも大庭たちは動いている。生きるためではない。奪えば助かるという欲望に背中を押されているからだ。「西側の壁沿いに三人、旧給水管の前に二人。正面には大庭と拓斗。雪上車のそばに銃を持った見張りが一人……」恋は画面を切り替えながら、襲撃者たちの位置を一人ずつ確認していった。真壁が取りつけた赤外線カメラは、吹雪の中でも人間の体温を輪郭として捉えている。外壁に埋め込まれた振動センサーは、誰がどこを叩き、どの方向へ移動したかまで監視卓に伝えていた。逃げ惑っている村田夫婦や高沢とは違い、大庭の一味は役割を分けていた。乱暴ではあるが、場当たり的ではない。正面から扉を破れないと見るや、すぐに生活基盤を狙う方針へ切り替えている。前世で恋を襲ったのは、空腹と寒さで理性を失った近隣住民だった。しかし今回、門前に立っているのは、最初から他人を踏みつけて生き延びる覚悟を決めた人間たちだ。恋は彼らを恐れてはいなかったが、軽く見るつもりもなかった。画面の中で、拓斗が西側の壁を指さした。「そこだよ。工事をしていたとき、太い管を何本も壁の中へ引き込んでいた。恋は見栄っ張りだから、金をかけた設備を自慢したくて仕方がなかったんだ。水を止めれば、あいつだってすぐ弱気になる」「お前、本当に中を見たことがあるんだろうな」大庭は顔を覆う防寒マスク越しに、低い声で問い返した。「もちろんだ。俺と恋が別れたのは少し前だけど、あいつの考えることならだいたい分かる。仕事では偉そうにしているけど、実際は気が小さい女なんだよ。自分の予定が狂うと
Huling Na-update : 2026-09-22 Magbasa pa