第1話 私を殺したのは、寒さだけではなかった 零下七十度まで冷え込んだ夜、街の外れに建つ小さな避難小屋は、吹雪に削られながら低い悲鳴を上げ続けていた。 板で塞いだ窓を氷の粒が絶え間なく打ちつけ、屋根を覆った分厚い雪が、古びた梁を今にも押し潰そうとしている。室内に残された暖房器具はとっくに燃料を使い果たし、床にも壁にも白い霜が広がっていた。吐いた息は顔の前で凍りつき、わずかに残っていた体温さえ、隙間風に少しずつ奪われていく。 白川恋は、凍りついた床に頬を押しつけたまま、うまく動かなくなった指を必死に握ろうとしていた。殴られた左の頬は熱を失っているはずなのに、骨の奥だけが焼けるように痛み、切れた唇から流れた血は、顎に届く前に赤黒く固まっていた。「お願い……それだけは、持っていかないで。食べ物は渡すから、その上着だけは返して。今夜、この寒さで何も着なかったら、本当に死んでしまう」 自分の声とは思えないほど弱々しい声だった。歯が激しく鳴り、言葉の途中で何度も舌を噛みそうになったが、それでも恋は、目の前に立つ男の足首へ縋りついた。 水城拓斗は、恋が最後まで手放さなかった厚手の防寒着を抱え、面倒そうに眉をひそめていた。氷河末世が始まる前、彼は恋と二年間付き合っていた元恋人だった。金遣いが荒く、仕事も長続きせず、都合が悪くなるたびに涙を見せて謝る男だったが、恋はそのたびに「誰にでも失敗はあるから」と自分を納得させ、別れてからも完全には突き放せずにいた。 世界が凍り始めたあの日も、拓斗は恋の避難先を突き止めてやって来た。玄関の外で震えながら、「一晩だけでいい。朝になったら必ず出ていくから」と何時間も哀願したのだ。 恋は迷った末に扉を開けた。かつて愛した人間を、目の前で凍死させることなどできなかった。 その決断が、自分の命を奪うことになるとも知らずに。「死ぬって言われても、俺だってこれがなきゃ死ぬんだよ。おまえは下にまだ何枚も着ているだろう。俺なんか、この薄いジャンパー一枚で、ここまで歩いてきたんだぞ。少しくらい俺の立場も考えてくれよ」 拓斗は苛立った口調で言いながら、縋りつく恋の手を靴の先で振り払った。その顔には、玄関の外で見せていた殊勝な表情も、恋に許しを請うていた男の弱々しさも残っていなかった。「そのジャンパーの下に、私が貸したダウンを着ているでしょう
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-02 อ่านเพิ่มเติม