俺はハリーポッターに憧れていた。魔法の杖で謎の呪文を唱えると何か不思議なことが起こる。ユニバで親にせがんで買ってもらった杖で火がついたときの感動は今でも覚えている。母親の友達の娘──ももちゃんと俺は呼んでいた──に魔法の杖の話をしても、いまひとつ彼女はピンと来ていないらしく、感動が伝わっていなかった。だったら俺が。魔法の素晴らしさを教えてやる!そう意気込んだ。でも不思議なことに、ユニバから家に帰ってから何度杖を振っても火はつかないし箱も開かない。これではももちゃんに魔法を見せられない。キッチンに金平糖が入った瓶があった。これ、いいじゃん。俺がこの杖で星をこの瓶に閉じ込めたことにしよう。うん、これなら魔法の素晴らしさがよく分かる。全く魔法を使ってないって?問題無い。魔法に見えれば問題無い。俺はね、魔法の素晴らしさをももちゃんにわかってもらえればそれでいいんだ。俺の狙いどおりだった。星を捕まえた事を告げた直後にももちゃんに金平糖を見せたらあっさりと信じた。我が姫ながら単純だ。我が姫って?ももちゃんは俺の姫にしたの。だって騎士には護る対象の姫が必要だろ?同じ学校の女子たちは姫っぽくないけど、髪が長くてほんわかしてるももちゃんは俺の姫のイメージ、そのものだった。姫を護り、喜ばせる。魔法を見せて驚かせる。ももちゃんのその笑った顔を見る度に、俺は嬉しくなった。その笑顔があれば、俺は何でもできる。魔法なんて使わなくても、もしかしたらかめはめ波ぐらい手から出ていたかもしれない。騎士《オレ》と姫《ももちゃん》は毎日会えるわけじゃない。学校が違う。住んでる所も少し遠い。母さんに車で連れてきて貰わないと会う事すら難しい。それが彼女のレア度を更に上げていた。しかしその日々は、長くは続かなかった。父さんがフィリピンに転勤になった。単身赴任ってやつをするのかと思っていたら、なんと俺も一緒に行くことになった。「家族は一緒にいることが大事だから」母さんにそう言われたら、俺は何も言えなかった。そりゃ、父さんと離れ離れになるよりは一緒の方がいいよ?ただ、俺の姫は誰が護るんだ──?姫《ももちゃん》にもう会えない。その事実は俺には絶望を意味していた。──あれ、絶対、ももちゃんだ。間違い無い。桜の花びら舞い散る中の、大学の入学式。第一志望の水無瀬大に落ち、滑り止めだった
Last Updated : 2026-10-08 Read more