All Chapters of 星をくれたあなたと、ここで会いたい 〜原価30円のコーヒーは、優しく薫る〜 : Chapter 61 - Chapter 70

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番外編 俺の姫①

俺はハリーポッターに憧れていた。魔法の杖で謎の呪文を唱えると何か不思議なことが起こる。ユニバで親にせがんで買ってもらった杖で火がついたときの感動は今でも覚えている。母親の友達の娘──ももちゃんと俺は呼んでいた──に魔法の杖の話をしても、いまひとつ彼女はピンと来ていないらしく、感動が伝わっていなかった。だったら俺が。魔法の素晴らしさを教えてやる!そう意気込んだ。でも不思議なことに、ユニバから家に帰ってから何度杖を振っても火はつかないし箱も開かない。これではももちゃんに魔法を見せられない。キッチンに金平糖が入った瓶があった。これ、いいじゃん。俺がこの杖で星をこの瓶に閉じ込めたことにしよう。うん、これなら魔法の素晴らしさがよく分かる。全く魔法を使ってないって?問題無い。魔法に見えれば問題無い。俺はね、魔法の素晴らしさをももちゃんにわかってもらえればそれでいいんだ。俺の狙いどおりだった。星を捕まえた事を告げた直後にももちゃんに金平糖を見せたらあっさりと信じた。我が姫ながら単純だ。我が姫って?ももちゃんは俺の姫にしたの。だって騎士には護る対象の姫が必要だろ?同じ学校の女子たちは姫っぽくないけど、髪が長くてほんわかしてるももちゃんは俺の姫のイメージ、そのものだった。姫を護り、喜ばせる。魔法を見せて驚かせる。ももちゃんのその笑った顔を見る度に、俺は嬉しくなった。その笑顔があれば、俺は何でもできる。魔法なんて使わなくても、もしかしたらかめはめ波ぐらい手から出ていたかもしれない。騎士《オレ》と姫《ももちゃん》は毎日会えるわけじゃない。学校が違う。住んでる所も少し遠い。母さんに車で連れてきて貰わないと会う事すら難しい。それが彼女のレア度を更に上げていた。しかしその日々は、長くは続かなかった。父さんがフィリピンに転勤になった。単身赴任ってやつをするのかと思っていたら、なんと俺も一緒に行くことになった。「家族は一緒にいることが大事だから」母さんにそう言われたら、俺は何も言えなかった。そりゃ、父さんと離れ離れになるよりは一緒の方がいいよ?ただ、俺の姫は誰が護るんだ──?姫《ももちゃん》にもう会えない。その事実は俺には絶望を意味していた。──あれ、絶対、ももちゃんだ。間違い無い。桜の花びら舞い散る中の、大学の入学式。第一志望の水無瀬大に落ち、滑り止めだった
last updateLast Updated : 2026-10-08
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俺の姫②

大学から少し離れた黒川駅の近くにアパートを借りた。いや、借りていただいた。「ここからでも通えるのに」と渋るおかんに死ぬ程頼み込んで一人暮らしをさせてもらっている。大学受験をするまでにバイトで貯めた金があった。これがあれば、きっと当分困らない。このアパートは俺のももちゃんの家に確か近かったはずだ。ここに住めばももちゃんに会えるかもしれない。数パーセントの望みに俺は懸けた。しかし実家からの仕送りだけに頼るのは不安だ。駅に置いてあったバイト情報誌に近所の喫茶店の募集があった。喫茶店て男のバイト、あんまり見ないな。やりづらいかな。いっか。ダメなら辞めれば。喫茶ロミオ、デニッシュアイスとかまかないで出ないかな。電話してみるか。──明日の18時に面接が決まった。その人の顔を見て一瞬固まった。ももちゃん!ももちゃんじゃないか!どっからどう見てもももちゃんだ。入学式で遠目に見た、ももちゃんぽい人が目の前でロミオのエプロンを着て立っている。「こちらの席、どうぞ」声も間違い無い。ももちゃんの、懐かしい声だ。ももちゃん、俺を覚えてる?ずっと会いたかったももちゃんその人が目の前にいたのに。ももちゃんの背後にいたオッサンが俺の前の席に座った。そうだ。俺、バイトの面接に来てたんだった。「──接客業の経験はある?」「ラーメン屋でバイトしていたことがあります」俺がこよなく愛する、家系ラーメンの店で高校の頃バイトしていた。ラーメン屋にしては時給が良かった方だ。「そこはどうして辞めたの?」「大学受験に集中するために高校3年になったときに辞めました」「受験勉強ね……そうか」辞めた理由、まずくないよな?受験に集中するのにバイト辞めるって普通だろ?「ロミオでバイトしようと思ったのはどうして?そのラーメン屋には戻らなかったの?」「今住んでいる家からは遠かったのでラーメン屋は諦めました」「ここに通うのは問題無い距離の家住んでるってことだね。一人暮らし?」「はい」そつなく答えてるよな?問題無いよな?「速水くん。キミ、いつから来れる?」「明日からでも大丈夫です!」「活きが良さそうだな。じゃあ……明後日の17時から24時。入れる?」「勿論です!」「よし。じゃあ、明後日から頼むな」良かった。採用された。それも、ももちゃんと同じバイト先だ!「──速
last updateLast Updated : 2026-10-09
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俺の姫③

「速水くん、時間まだいい?」閉店後の掃除を終え、エプロンを畳んでいた。何だよ、まだ何かあるのかよ。深夜だし帰りたいんですけど。「ここは皆、仕事の後にドリンク飲みながらおしゃべりしていくんだ」マジっすか。この後まだ拘束されるんすか。ああでも、ももちゃんぽい白雪さんといられるなら悪くないか。「そう、ですか」ここは大人しくおしゃべりとやらに参加した方が良さそうだ。エプロンをリュックに入れて立ち上がった。ふと、扉に貼ってあるシフト表が目に入った。俺の名前が一番下にある。今日入ったばっかの下っ端だからな。当たり前か。……ん?俺の二つ上。白雪桃歌って、白雪さんだよな?桃歌ってことは、やっぱり彼女はももちゃんなのか。うん、間違い無い。やっぱり俺の運命はももちゃんだったんだ。これはどっかのタイミングでももちゃんと二人きりで話さないとな。今日の帰り……駄目か。バイト帰りの深夜に外で話し込むのは無しだろ。仕方無い。しばらく俺はクールな速水くんを演じて、ももちゃんにも速水くんに惚れてもらおうか。俺の見た目は中学でも高校でも、女ウケが良かったらしい。言い寄ってくる女が途切れなかったのがその証拠だ。キッチンに戻ると、ももちゃんはアイスミルクコーヒー氷抜きを作っていた。俺はアイスコーヒーのブラック……と言いたいところだけど、寝られなくなったら困るな。大人しくコーラにレモンスライスを入れとくか。「速水くんは白雪さんと同じ大学なんだって?」アイスコーヒーを片手に店長が俺に話を振った。隣に座るももちゃんをちらっと見た。うん、やっぱり白雪さんはももちゃんだよな。相変わらず可愛いな。今ちらっとももちゃんの顔を見てみたけど、俺、キモくないよな?「大学同じ、なんですか?俺市立大の教育学部ですけど」知ってますけど。熟知してますけど。何なら入学式でももちゃん発見してましたけど。……はい、声を掛けられなかったヘタレは俺です。「速水くん。白雪さんは速水くんと同い年だから敬語じゃなくても」「私も市立大の教育学部なの。中等国語科」「そうですか」中等国語科か。国際コースの俺と被る講義って……日本国憲法ぐらいしか無いじゃないか。だから真面目に講義に全部出ているのに、ももちゃんに遭遇しなかったのか。教員養成課程と国際コースの講義は滅多に被らないのが
last updateLast Updated : 2026-10-09
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俺の姫④

「速水くんは?彼女は」鈴を鳴らすような声で酷なこと聞くなよ。「……遠距離になったんで、別れました」遠距離っていうか、隣の県だけど。特急乗ればすぐのところだけど。元カノ、エリサとは高校の卒業式直前に告られて断った相手だった。これから国公立の入試だというのに何考えてんだコイツは、と思ったのが正直な感想だった。私立に推薦で合格していたエリサは国公立組の苦労なんてお構い無しだった。その時点でどんなに化粧や髪をそれなりにいじっていても無理だった。それでもエリサは何度も俺に告ってきた。家の前で待ち伏せされたときは、もう面倒になってOKした。エリサは俺の試験前までは大人しかった。しかし、入試が終わった途端、毎日のLINEや電話を折り返せないと文句を言うようになった。付き合って2週間で、もう嫌気が差した。俺の大学とエリサの大学の県が違うことを理由に、別れを告げた。大変だった。泣くわ喚くわ、媚びるわ。リストカットと思われる、手首に巻いた包帯の画像を何度も受信させられた。実際にエリカが切ったかどうかは、包帯を外した姿を見ていないからわからない。もう嫌だ。しばらく恋愛的なものは懲り懲りだ。俺は平和に生きていきたいんだよ。ももちゃんと店長が同時に俺の顔を見た。「遠距離になったから、別れたの?」「はい」冷めたというよりも、そもそも惚れてなかった。むしろ、積極的にエリカと付き合いたいなんて思ってもいなかった。「そのまま続けるという選択肢は無かったんか?」「今は恋愛よりも、自分の道を創りたいんです」そう、もう恋愛的なものは懲り懲りだ。ももちゃんとなら、恋愛したかったんだけど。その夢は数分前、あっさりと打ち砕かれていた。そう、自分の道に集中したい。もうキャバ嬢予備軍に絡まれて、メンヘラになられて付き纏われるなんて、そんな世界から解放されたい。メンヘラメーカーなんて、仲間たちから言われたことがある。そんなの知るかよ。向こうが勝手にメンヘラってただけだろ。俺に非は……やっぱり、あったのか?「俺、ちょっとその気持ちわかるかも」わかってくれますか、店長。店長も遠距離を口実に別れたことがあるんだな?「店長も彼女さんと遠距離になったら別れるんですか?」「俺の場合はもう結婚したからそういうことはないけど」けっこん。ケッコン。……結婚だと⁈「……店長
last updateLast Updated : 2026-10-11
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俺の姫⑤

「振ったんだ」出来るだけ感情を込めずに呟いた。動揺を気取られてはいけない。「まあ、そうなるかな」「えっと、白雪、……長かったのか?」「全然長くないですよ。卒業式の日に告られて勢いでOKしちゃったんです」「へえ」つまり、大して好きじゃなかったかもだな。これなら俺が押せばいけるんじゃね?ももちゃん、押しに弱いのかもな。「それ、付き合ったっていうの?」「ちょ、速水」「好きでもない男と付き合って1か月ぐらいで別れたんだろ?お互いの何も知らずに別れてんじゃん」「な、何も知らない訳じゃ」「じゃあ何知ってんの?身体とか?」口からどんどん出てきた言葉。どうでもいい男がももちゃんの彼氏だったかと思うと無性に腹が立った。どうでもいい男にももちゃんの身体を好きにされてたなんて、血液逆流寸前だ。「おい、速水!」「それとも身体すら知らずに別れたとか?」身体すら知らずに別れてくれていたら、どんなに良いか。「──速水くん、ちょっと、どいてくれる?」奥の席に座っていたももちゃんは立ち上がって俺を押しのけるようにボックス席を脱出した。「お疲れさまでした。失礼します」「あ、ああ、白雪。気をつけてな」え。ももちゃん、帰んの?「逃げんのかよ」反射的に立ち上がった俺はももちゃんの手首を掴んだ。「速水、お前はちょっと残れ」へ……?ももちゃんも店長も顔怖いんですけど。俺、もしかして。やらかした?ももちゃんは帰った。俺、店長にこってり絞られた。そしてバレた。「どうしてあんなに絡んだんだ」と問われ、他に言い訳が思いつかなかった。「幼馴染の、初恋の子か……。お前、やり方小学生レベルってわかってる?」「はい……」わかってますよー。小学生男子が好きな子に意地悪して本気で嫌われるやつ。知ってますよ。はい、今の俺だ。「もうちょっと上手いことやれんのかね」「ももちゃんが流されて付き合ったと思うと。血が上りました」だからってやっていいことではない。わかっているけど。けどけどけど。「速水はしばらく頭冷やせ。白雪さんとシフト組むのはしばらく控える」「え」それは困る。ももちゃんに会えないじゃないか。「周りの迷惑考えろ。お前が解決策見つけたら、その時またシフト組むわ」そう言われましても。俺と会っていない間に、ももちゃんはまた、誰か強引な男に流されて付き合って
last updateLast Updated : 2026-10-11
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俺の姫⑥

その日は思ったより早く来た。 「おはようございまーす」 「おお、白雪。ありがとうな、助かったよ」 店の奥からももちゃんの声が聞こえた。今日入る筈だった栗原さんが急用で来られなくなった。店長が電話をかけた1人目がももちゃんだったらしい。 ももちゃんを怒らせたあのバイトの日から2週間程、俺はももちゃんとのシフトを外されていた。ももちゃんの連絡先を知らない俺は、謝る術を持っていなかった。 自宅は知ってても、まだ俺はそうちゃんだと名乗っていない。その状況で突撃訪問って、ただの危ない奴でしかない。だから行けなかった。 背後にももちゃんの気配がした。仕事で組むのに、振り返らないわけにはいかない。 振り返るだけなのに。ギギギ……と錆びた金属が擦れるような音が自分の体中の至る所からした気がした。 「おはようございます」 いつも通り、いつも通り。今はバイト中だ。店内だ。きっと露骨に嫌な顔はしないでくれるだろう。 「おはようございます。……あ、いらっしゃいませー。お客様2名様でよろしいでしょうかー」 うう……。ももちゃん営業スマイルだな。俺には素の顔は見せてくれないのか。 御守りのように、ずっとリュックに入れていた瓶の金平糖を思い出した。ついにあれを、ももちゃんに披露するときが来た──。 「速水くんは……そうちゃん、なの……?」 キタキタキタキタ!キターーー!!! やっぱももちゃんは俺の運命の姫だ!……って俺、ちょっと落ち着け? 「……やっぱり、ももちゃんだったんだな。この家、俺、来たことあるわ」 絶句するももちゃんを前に平静を装い、クールな速水くんを演じる。 「大学の、入学式で私、そうちゃんによく似た人を見つけたの」 まじか!ももちゃんも俺を見つけていたのか! もうこれ運命確定!絶対誰にもやらねえ! 「俺も、一瞬だけど、ももちゃんかな?って人、いたよ」 月明かりの中、微笑みを維持する、俺。どう?ももちゃん。俺、男前になったでしょ? 「声、掛けてくれれば、良かったのに」 「違ってたら、とか、そもそも覚えてないかも、とか考えてたらももちゃんどっか行っちゃったんだよ」 はい、これは本当。声掛けられなかったヘタレはこの俺です。 「そうちゃんが……ロミオに来てくれて、良かった。じゃな
last updateLast Updated : 2026-10-11
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番外編 彼女を護るのは俺の使命①

──その姿が視界に飛び込んだとき。俺は固まるしか術が無かった。ユリがロミオに何度か来ていたらしい。ももちゃんが嫌がるから、また高校のツレに頼んでユリの相手をしてもらった。いい具合にユリはそいつらを気に入った。これでユリがロミオに現れることは、ももちゃんの前に現れることは無いだろう。そう、思っていた。焼き鳥がメインの居酒屋。俺のお気に入りの店にももちゃんを連れて行った。そのときだった。「ドリンクの注文先にお願いします」テーブルの高さまで姿勢を落とした、その店員。嘘だろ……。「そうちゃんどうする?お酒だと私すぐ酔っ払っちゃうかも」愛しいももちゃんの可愛い声が、俺の頭の上を素通りする。「生、2つで」「え。そうちゃん?」駄目だ、頭が働かない。「あと枝豆とすじ煮。だし巻き玉子も」何故だ。あいつは県外の大学行っただろ?ここでバイトしてるなんて……他人の空似か?「ね、そうちゃん。私ビールそんなに飲めないんだけど」ここでようやく、俺がももちゃんの意思に反してビールを注文していたことに気付いた。「あ、ああ……。ごめん」俺としたことが。でもさっきの、他人の空似じゃなかったら。まずいぞ。リカとは高校3年のクラスが同じで、予備校も同じだった。1年を通して特に関わることは無く、風景と同じぐらいの認識だった。そのリカから、バレンタインにチョコを貰った。予備校の帰り、地下鉄の改札で俺を待ち伏せしていた。その日、俺の脳は限界に近い程疲れていた。過去問連続何年分やったのか記憶が無い。チョコ=糖分=脳の栄養。俺にとっては格好の回復アイテムだった。あまりに疲れ過ぎた俺は結構な笑顔で「ありがとう!」とリカに言って受け取った。最低なことに、俺はその時のリカの表情を覚えていない。何ならチョコしか目に入っていなかった。そのチョコは、俺にとってはコンビニで売ってる板チョコと同等だった。家に帰り、部屋でラッピングを解いたとき、自分は相当まずいことをしたと気付いた。そのチョコは明らかに手作りだった。手作りチョコにはトラウマがある。中学のころに貰った手作りチョコには作り手の指紋がくっきりと付いていた。まつ毛が混入していたときには、しばらくチョコレート自体を食べることができなかった。リカからの手作りチョコにはカードが添えられていた。「速水くんがずっと好きでした。
last updateLast Updated : 2026-10-11
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彼女を護るのは俺の使命②

「速水くん」板野の返しを待つ一瞬の間。そいつは俺に声を掛けた。「何?」俺今忙しいんですけど。里香って人にお断りをしないといけないんですけど。でもそいつが誰だかわかんないの。「あの、ボタン……ください」「ボタン……?ああ、これ?」ちょうど手に当たった胸元のボタンをちぎって渡す。「これでいい?」俺忙しいんすよ。早く去ってくれよ。我ながら塩対応だ。でも卒業するんだから、明日から顔合わせないんだから問題無いだろう。「ええっ……!いいの?」「ボタンくれって言ったよな?」何だよこいつ。ボタンくれって言ったくせに「いいの?」ってどういうことだよ。「ありがとう!大事にする」「はいはい」その女子は顔を赤らめて友達ぽい人の所へと去った。「ボタンの風習ってめんどくせえな。で、板野。里香ってどいつ?」「速水……お前、本当にたらしだな」「は?どういうことだよ」呆れ顔の板野に苛立った俺はしかめっ面をお見舞いした。「里香って、今の女子だよ。大沢さん。大沢里香。てかお前、1年あったんだから名前覚えてやれよ」「今の、女子……?」おもむろに胸の辺りのボタンを触る。さっきの女子にあげたから、勿論無い。「なあ、板野。ボタンの場所に意味ってあるのか?」「お前知らずにあげたのかよ。第2ボタンは好きな女子にあげるやつだよ。心臓に近いだろ?」スキナジョシニアゲルヤツダト……?やべぇ。俺。断りたい相手に第2ボタン渡した。詰んだ……?「俺、今の女子からバレンタインにチョコ貰ってたんだよ」「まじか。付き合うの?」「断る気満々だった」「……断る相手に第2ボタン渡したよな?」「ああ……そうらしい」「そうらしいって、お前なあ……」呆れつつも同情を混ぜた板野の声を聞きながら、俺は机に突っ伏した。何故だ。何故なんだ。何故こうなった?俺、国立の試験控えてるんですけど。受験、まだ終わってないんですけど。なのに何で、こんな余計なことで頭を悩まさないといけないんだよ。余計な厄介ごとを起こした里香……名字なんだっけ?……いいや、どうでもいい。里香とやらに、俺は怒りすら覚えていた。俺、受験に集中したいんだよ。どうでもいい女相手に脳使いたくないんだよ。いいや。スルーしよ。向こうは俺にID教えてきたけど、俺は教えてないし。今日で卒業だし。このまま連絡しなければ会うこと
last updateLast Updated : 2026-10-12
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彼女を護るのは俺の使命③

「帰ってくれ。俺は受験終わってない。お願いだから邪魔しないでくれ」窓の鍵は開けちゃいけない。本能がそう叫んでいた。「ええー。速水くん頭良いから余裕で受かってると思ってた。ていうかここ開けてよ」コイツは人の神経を逆撫でする天才か?だからお前のせいで水無瀬大落ちたと心の声では言っただろうが!「とにかく、帰ってくれ」「私ね、受験終わったの」だから何だよ。帰ってくれよお願いだから。「でも遠距離になっちゃうから、引越す前にデートしたかったの。でも速水くんが受験終わってないならしょうがないね。待っててあげる」神様仏様受験の神様。誰でもいいからこいつを追っ払ってください。マジでホントにお願いします。ああもう、首とか傾げなくていいから。俺には全く可愛く見えないからやらなくていいから。「……帰ってくれ!警察呼ぶぞ!」「そんな怒んなくてもいいじゃん」目を潤ませても無駄だっつの。「そっか、受験終わってないんだもんね。しょうがないなあ。ここは私が大人になって帰ってあげる。でも速水くん。受験終わったら絶対LINEしてね?」するわけねえだろ。「ああ。するから帰ってくれ。部屋に戻りたいんだ」絶対LINEなんかしないけどな!「じゃあ待ってるからね。頑張ってね」その上目遣いに、俺はしばらく睡眠中にうなされた。何だコレ。呪いか?水無瀬市立大に受かったのは奇跡だと思う。後期日程の前日以外は睡眠が取れた気がしなかった。前日に睡眠が取れたのは、前日に俺ん家に来てたゆかさんと顔を合わせたからかもしれない。「お、そうちゃん。明日後期だって?」「はい」「そうちゃんなら大丈夫だね。あ。そうだ」玄関で遭遇した、おかんの友達のゆかさんはももちゃんのお母上だ。ゆかさんじゃなくてももちゃんに会えたらいいのに。「これ、あげる」「……パインアメ?」ゆかさんが鞄からごそごそと取り出したのは、3粒のパインアメだった。「桃歌、試験の直前にこれ食べて受かったって。縁起物だから、そうちゃんも」ももちゃんは、どこの大学に行くんだろう。尋ねようとしたけど、逆に気になって集中出来なくなるのも困るから聞かなかった。最悪おかんに聞けば多分知ってそうだし。その日の夜、パインアメを食べた。夜、ぐっすり眠れた。パインアメ、まさかの熟睡できます効果。まじか。当日直前、当然食べた。テストが終わっ
last updateLast Updated : 2026-10-12
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彼女を護るのは俺の使命④

ところが。里香だけでなく、ユリまで現れた。俺がロミオでバイトしてるのをどこで聞きつけたのか。タイミングが良いのか悪いのか、ユリがロミオに来たのは俺が短期留学をしている最中だった。ももちゃんにユリの話をさせるなんて。ユリは高校のときに性欲を満たす為だけに付き合うことを承諾した相手だった。俺にとってはセフレだった。でもユリにとってはそうでは無かったらしい。「それでもいい」って言い切ったのはユリなんだけどな。帰国後、スマホに辛うじて残っていたユリの連絡先をタップした。会うことになったが、ただひたすら面倒くさい。結論から言うと、上手い具合に嫌われた。「俺の彼女は、小学校に入る前から惚れていた相手だ。お前の入る隙は無い。だから言ったろ?身体だけならいいけど付き合う気は無いって。お前、理由を全く聞こうとしなかっただろ」「で、でも……!私、蒼が初めてだったし、やっぱり好きだし……」「そんなこと言われても困る。何回でも言うけど、俺は今付き合ってる彼女を愛してるんだよ。好きとか、そういうレベルじゃない」愛してるとか。歯の浮くような台詞を本気で言うようになったか俺。女取っ替え引っ替えしてた速水蒼が。成長したな、俺。大粒の涙で化粧が崩れまくったユリに刺されなかったのは奇跡だったかもしれない。刃物を持参しないでくれて本当にありがとうだな。何だかんだ疲労感MAXで家に着いた。万が一、俺が刺された時のためにももちゃんに待機してもらっていた。命に関わるからな。今日はももちゃんに甘えよう。もう、ベッタベタに。ベッタベタに甘えよう。俺頑張ったから、きっとももちゃんは優しくしてくれる。ももちゃんのあの、柔らかい胸に今夜は顔を埋めたい。その希望はあっさりと打ち砕かれた。「──反省してんの?」「してます」やべぇ。今日のももちゃん、怖い。「じゃあ今日の晩御飯、居酒屋行こうか」「え。まさか……」続き、聞きたくな
last updateLast Updated : 2026-10-13
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