جميع فصول : الفصل -الفصل 50

74 فصول

告白①

「──高校入ったとき、俺、ももちゃんをずっと探してた。同じ高校にいるかもしれないし、電車が同じかもしれない。遊びに行った先にもいるかもしれないって」「そうなの?」高校か。私、どうしてたっけ?そうちゃんに会いたいとは思ってたけど、彼がどの高校に行ったのかなんて全く見当つかなくて諦めていた。そもそも日本に帰っているかどうかも……お母さんから聞いたかどうか、覚えていない。会いたいけど、もう遠い人。私にとってそうちゃんは、当時そういう存在だった。「でも見つからなかった」私の目を見つめたり、逸らしたり。斜め下を見たり夜空を見たり。そうちゃんの視線の忙しさは、彼にしては珍しく落ち着かなさを表していた。「ツレにはももちゃんの話はしてた。だから最初はももちゃんを探すのに付き合ってくれてたけど」「……けど?」次の言葉を静かに待っていた。「──やっぱ、やめとく」「へ?」ここまで話して中断って?どゆこと?「また今度にしよう。今日は遅いし、雨降りそうだし」「え、でも……」確かに今はもうすぐ午前1時。話は長くなりそうで、雨の匂いが鼻をついていた。「中途半端でごめん。なあ、今度の金曜はシフト入ってないだろ?」「うん。土曜になってる」本当は最後まで聞きたい話だ。だって気になり過ぎる。こんな中途半端、蛇の生殺しじゃない。「金曜、学校終わったら俺ん家来て。ももちゃんのご飯食べてみたい」「……え、ちょ。ももちゃん?」「今……話しかけないで」ウインナーを慎重に慎重に切っていく。──あ。転がっちゃった。タコさんのはずがよくわからないムンクになりそう。……いいや、胃の中入れば問題無し!キャベツを一枚ずつ剥がして洗って……芯は、まあいいや。食べれるでしょ。ザクザク切る。そうちゃん、私の包丁さばきに見惚れてる……?え?なんでこんな驚いた顔してるんだろう。私そんなに上手いの?「ももちゃん、ここから先は俺が切るよ」「え、何で?」「いや、その……」「焼きそば、すぐ作るから。そうちゃんは座ってスマホでもいじってて?」今日の為に買ってきた可愛いエプロン。この色にして良かった。もしかしてこのエプロンも後から脱がされるとか?いやいや何妄想してんの私。焼きそば作り始めてもう1時間経ってる。早く炒めないと、さっきからそうちゃんのお腹の音が急かしてる。「あっ……つう‼︎」
last updateآخر تحديث : 2026-09-28
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告白②

「んん……そう、ちゃ……」漏れる息とともに彼の名を呼んだ。それを合図に、そうちゃんは素早く手を拭いて私の腰に手を回した。太腿に当たる彼自身はもう準備が出来ていた。その硬さは私を前よりも求めてくれてるような気がした。まだ聞けてない彼の話をなあなあにしてはいけない。それはわかる。でも、この性急な求められ方は初めてだった。一回受け止めて抱かれた方が、彼も話しやすいのかもしれない。簡単な女だって?好きな人に抱かれたいと思うのは当然のことだと思う。その好きな人とは彼氏彼女として付き合っていて、彼自身も私を求めてくれてるなら問題無いじゃない。私の身体に触れて欲しいのはそうちゃんだけ。私の身体に触れていいのもそうちゃんだけ。小さな頃からそうだった。性的な触れ方ではなかったけど、事あるごとにそうちゃんに身体ごとくっつくのは大好きだった。喉奥から聞こえるはしたない声は、まだ耳を塞ぎたくなるぐらいいやらしい。私の中の女の部分は、彼に今すぐ食されることを求めていた。私の声だけが響くこの部屋で、そうちゃんは言葉少なに私をベッドに誘導した。私の手もかろうじて泡を拭えた。あっという間に身に付けていたものを脱がされた。脳の奥が痺れてぼうっとする。働かない頭脳を感じながら、素早く生まれたままの姿になった彼をぼんやりと見ていた。「──ももちゃん」「……ん?」情事を終えて、そうちゃんの腕の中でまどろんでいた微睡《まどろ》んでいた。2度目の行為は初めてのときよりも快楽が強くて、体力をかなり消耗していた。耳元で囁く彼の息がくすぐったい。「今日は……気持ち良かったんだろ?前より」「……っ‼︎」目を見開く私に満足そうにくつくつと笑う彼。そうちゃんは私に羞恥を感じさせて狼狽《うろた》えさせるのが、よっぽど好きらしい。「そ、そんなこと……んあっ!」ちょっと悔しいから否定してやろうと思ったのに。先端を不意に摘《つま》まれて、またやらしい声が出た。「ももちゃん、ここ好きだよな」膨らみを再び揉みしだかれ、また脳の奥が何かに支配されようとしていた。「もうこんなになってる。さっきしたばっかりだよ?ももちゃん、本当に悪い子だな」「んん……あっ……わ、たし……わるいこ……?」「俺も悪い子。ももちゃんよりずっとな」言い終わると同時に彼が覆い被さってきた。間髪入れず、そうちゃんが挿入《
last updateآخر تحديث : 2026-09-29
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視線①

「ももちゃんは、どこまで聞いてるの?」「高校のとき、結構遊んでたって。取っ替え引っ替えで彼女がいたとか……」「……否定はしない」否定、しないんだ!そうちゃん、本当に高校当時遊んでたんだ。その、パリピってやつ?高校の3年間ほぼ彼氏がいなかった私とはだいぶ人種が違ってたんだ。「そう、なんだ……」何か、フォローを入れるべき?この場合のフォローって?大して遊んでこずに今日まで生きてきた私にそんな気の利いた台詞なんて出てくるわけないじゃん。「幻滅、したろ」「幻滅っていうより……驚いた。高校のときの私とはだいぶ違う生活だったんだなって」「ももちゃんが見つからないからって拗ねてたんだよ。ももちゃんがいないなら恋愛なんてどうでもいいって思ってたけど。……その」「性欲はあったって?」彼が目を見開いた。自分でそんな台詞を吐いておきながら、その台詞にメンタル抉《えぐ》られてるのは私だ。目を見開くだけで否定しないってことは、その歴代の彼女達を沢山抱いてきたんだろうな。私を包むこの大きな手が、違う女の人の裸体を撫でてきたなんて。……って、私も伊沢くんに全身触られていたか。「ももちゃんから見たら、俺、汚いよな」「汚い?」汚いって、何だろう。そりゃ、他の女の人を沢山抱いてきたっていうのは受け入れ難いけど。それなら伊沢くんに身体を触らせた私は一体何なんだ?「汚いだろ。性欲に負けて好きでもない女を抱いてきたんだから」絞り出すような声が、とても苦しそうに聞こえる。語ることすら、既に辛そう。そうちゃんは、自分を汚いと思っているのか。それなら私だって──。「これだけ汚れた俺の身体から出る体液でももちゃんを汚すなんて許されない。でも、他の男に渡すのは嫌だ。手放すなんて考えたくない。でも俺、ももちゃんにきっと相応しくない」「待って、そうちゃん」そうちゃんはずっと辛そうにしていた。私を腕の中に閉じ込めながらも、強く歯を食いしばっているように見えた。彼の目を覗き込むと、また逸らされた。「逸らさないで」「でも」「でもじゃなくて」「……嫌に、なったろ。俺のこと。俺はももちゃんを手放したくないけど、でも俺にももちゃんを縛り付ける権利なんて無い」悲しそうに腕を緩めたその時。言うタイミングが合っているのか、相応しいのか。わからないけど。「そうちゃん。その理屈だったら、好
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視線②

「──で。何を隠してるの?」再び目を逸らそうとしたそうちゃんの顔を両手で挟んで固定した。「逸らさないよ?」「ゔ……」「ここまで白状したなら全部吐こうね?」「……元カノの、ひとりが……」ん?元カノ、だと?「俺のこと忘れられないからって、その」「何?」そうちゃんの周りをうろついてるとか?「色々調べ回っているらしい。その元カノと同じ大学行ったやつが教えてくれた」「調べるって何を?」「この家とか。バイト先とか」ふと、生協で絡んできた2人の姿が目に浮かんだ。「もしかして、そうちゃんを悪く言ってる国際コースの派手な2人って」「元カノの友達」「だからか」あの2人は私に対して、何とかして悪口を言いたそうだった。見た目が地味とか、最早言いがかりだったけど。「何か言われた?」「見た目が地味って」あ、やっぱ言っちゃダメだった。「そうちゃん、顔が怖い」「あいつら……生まれた事を後悔するレベルでマジで息の根を」「ダメだってば」謎に絡んできていたあの2人は、そうちゃんの元カノの1人の友達……。どの元カノだろう?遠距離になった人のことかな。「そうちゃん、その元カノって、遠距離になった人?」「そう。遠距離はしてたけど、入学式でももちゃん見つけたあの日に速攻で別れた」え。別れた原因私だったの?自分の道がナントカって言ってなかった?「自分の道が、とか、言ってなかった?」「勿論それもあるよ。でも、自分の道を追求するのと恋愛の両立って、ももちゃんじゃない人としようとか思わない」この人は……ベッドで何も身に付けずに抱き合っているときでも口説いてくれるのね。彼氏いない歴の長かった私には過多な口説き文句はもう処理しきれない。ん?……さっき、この家とかバイト先とか調べてるって……?「そうちゃん」「ん?」だーかーら!声に色気を無意識に込めるのやめてってば!真面目な話したいのに。「遠距離ってことは、それなりに遠いんだよね?」「ああ。新幹線とまではいかないけど、県2つ跨《また》いでるからそれなりに遠いかな」「遠いのに、この家やバイト先……ロミオとか調べてるの?ちょっと、無理があるんじゃ」その元カノだって、大学通って新生活を送ってるはず。電車乗り継いでそうちゃんの周辺を嗅ぎまわるって、どういう状態?「……ちょっとホラーな話なんだけど」「え、
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視線③

──まただ。最近、視線を感じる。そうちゃんじゃない人の、視線。「ミーサンとツーホット、出まーす」キッチンにいる亜樹がホットを手早く2つ淹れ、カウンターにミックスサンドをさっと置いた。シルバーにそれを載せ、A4まで運んでテーブルに置く。常連の中年カップルに微笑みを向けてカウンターに戻りながら、顔の向きは変えずに窓の外を見た。あの女の子。最近ロミオの前によくいる気がする。「あの人、店に入るんだか入らないんだか、どっちなんだ?」と店長が亜樹と話しているのが聞こえた。あの子、1人で佇んでいるときと男の子と2人でうろうろしているときがある。客なのか、客じゃないのか。実害が恐らく無さそうで、店長は対応を決めかねているようだった。そうちゃんは先週から2週間の短期留学に行っている。私の知らない間にちゃんと自分の道を準備していたことに驚いた。でも、ちゃんと将来の為に動いていたそうちゃんは、やっぱりかっこいいと思った。思えば、そうちゃんが留学してからだ。あの謎の女の子が店先に現れたのは。長い時間いる訳ではない。でも、私がシフトに入っているときは毎回現れた。外暑いんだから店の中入ればいいのに。そう思っていた矢先、ついに彼女は店のドアの鐘を鳴らした。彼女は軽く不審者だ。でも客用ドアを開けて入ってきた以上、客として扱う必要がある。グリーティングはホール担当の私がするしかない。覚悟と気合いを集結させ、今日一番の営業スマイルを浮かべた。「いらっしゃいませー。お客様1名様でよろしいでしょうかー?」無言で頷く彼女。店の中を一瞥して、キッチンの方を見ると一瞬顔が険しくなった。──亜樹か、店長か、何かあるのか?華やかな、というより派手な印象の服装だ。そう、こないだ私に絡んできた、あの国際コースの人達と雰囲気が似ている。でも顔が険しくなる相手が私じゃないということは、そうちゃんの元カノ絡みでは無いのだろう。じゃあ、別件?亜樹か店長、何かあった?少なくとも、ロミオのスタッフの関係者、ということになるのかな。ここはただの客とスタッフという関係性を維持、だな。「お決まりになりましたらお呼びください」お冷とおしぼりを置いてさっさと戻りたかった。カウンター越しに遠巻きに様子を見るつもりでいた。強過ぎる香水に、私の鼻は機能することを拒否していた。「ねえ、ここ。速水蒼って
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私というもの①

「──ってことがあったの。そうちゃん。心当たり……ある?」スマホの画面越しに、彼が言葉に詰まったのがわかった。スマホが無かった時代は国際電話ってやつがとっても通話料高かったらしい。LINEだとメールも通話もできて便利でありがたい。世界を狭く感じるのって、こんなとき。「そいつ、名前とか言った?」「名前?……全く言わなかったよ。金髪でブランド物の鞄持っててヒールがやたら高くて香水臭い……」そこまで言って気付いた。私、彼女の悪口しか言ってないじゃん?「あの。その。えっと……顔のつくりは……睫毛が不自然に長かったと言いますか」ああ!フォローになってない!駄目だ、これでは私は元カノの悪口を吹き込む嫉妬に狂った意地悪な今カノになってしまう。「ももちゃん、フォロー下手だな」「誰のせいよ。で、特定出来そう?」一瞬考え込むと、やたらと爽やかに彼は言い放った。「無理だな」「へ?」「俺の高校の元カノ、そういう人種ばっかだったから」「そうちゃん……?私とタイプだいぶ違うよね?」そうちゃんはまさか、そういう人種の方々を好む人だったの?それじゃ私じゃ物足りないんじゃ……。ていうかばっかって。何人いたの?「ももちゃんに寄せてくと、そいつがももちゃんじゃないっていう現実がより際立つじゃん」「……えっと、どゆこと?」「ももちゃんじゃない人にももちゃんの面影見つけたら、そいつを大事にしたくなっちゃうでしょ」真顔で当然の様に語っておりますけども。……でも、そうちゃんが私じゃない人を大事にするとか。正直考えるだけでもちょっと不快だ。「ももちゃんに会えないなら恋愛なんてどうでも良かった。でも高校生男子には性欲ってものがあってだなあ」「うん、わかった。それ以上の説明はいいや」好きでもない女抱いてたって話を二度も聞かされるのは御免だ。そうちゃんにとっては性欲解消要員だったのかもしれないけど、今日来たあの人にとってはそういう認識ではなかったのだろう。「そうちゃん、元カノ……達と別れるときって、どういう感じで別れてたの?」「可能な限り嫌われるように振る舞ったよ。未練残されてもお互いしんどいだけだからな」うーん、なんてドライ。恋愛感情を伴わないと人ってこんなに冷たくなれるのか。お互いしんどいって、しんどいの種類はだいぶ違っただろう。「恨まれてない?」「俺
last updateآخر تحديث : 2026-10-01
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私というもの②

「──いい。やっぱやめとく」「何だよ」「喧嘩したくない」「言えよ。気になるじゃん」画面越しでの喧嘩は良くない。だって直接会ってるわけじゃないから仲直りに持っていくのは困難だ。そうちゃんが帰国するまでまた1週間もある。「帰ってきたら言うよ。今頑張ってる人に喧嘩売りたくない」「なあ、俺、怒らないから」「……もう、夜遅いから寝るね」「ももちゃん……」軽く青ざめた表情。今頑張ってる人を不安にさせるのと喧嘩売るのと、どっちが罪深いのだろう。「頑張ってね、そうちゃん。おやすみ」「ももちゃん、待って」通話ボタンをOFFにした。きっと、不安にさせた。でもこうするしか無かった。お風呂入って寝よう。眠れる気は全くしないけど、通常のルーティンはこなさなきゃ。そうちゃんのやらかしについては、帰国してから直接話すしかない。あと何度通話してもメールしても、すっきりしないのは確実だ。あと1週間、私はずっとモヤモヤしないといけないのか。あの元カノのせいで。私もそうちゃんも、振り回されなきゃいけないの?でもそうちゃんは自業自得か。迷惑被ってるのは私、だよね?私だけじゃない。亜樹は睨まれたし、店長だって営業妨害されてる。元カノのことはそうちゃんに任せよう。そうちゃんにしかできない。私がしゃしゃり出たところできっと逆効果だ。今はただ、この煩わしさから解放されたい。──私も何か、見つけたい。あれから、そうちゃんからは何度か着信があった。話す気にはなれなくて、その都度LINEのメールだけを返していた。「ねぇピーチ、おんぶして」「はーい……よっ!」ピーチとは、私のボランティアネームだ。名前が桃歌だから、そのまんまだ。このサークルでは活動時は本名は呼び合わない。不特定多数の子どもたちを相手にする為、個人情報保護と、子どもたちが私達ボランティアの名前を呼びやすくする為というのがその理由だ。私の背中でおんぶされているかなちゃんは、この児童館の常連の小学1年生だった。この児童館には私達ボランティアが定期的に来る為、その日を狙ってお子さんを児童館に遊びに行かせるお母さんが多い。お母さんは我が子を児童館に預けて自由を得て、私達は経験を積める。職員さんは事務作業が捗《はかど》るという、三方《さんぽう》よしの関係が築かれていた。感染症が流行る前は
last updateآخر تحديث : 2026-10-01
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私というもの③

国語科の皆にはその話はしていない。先生になりたくてこの大学に来た子が大半だからだ。先生にならないつもりであることをオープンにしているのは花音と亜樹の2人だけだ。私?私は何となく話を合わせている。皆、人のエピソードを聞くよりも自分語りをしたがる人が多いから問題無い。そもそも喋りが必須の職業だ。自分語りが出来ないようでは務まらないものなんだろう。じゃ私は?自分語りが出来る程、私って自分が出来上がってるの?「──そんなの、人によりけり、じゃん?」「まあ、そうなんだけど……。花音、身も蓋も無いね」図書館司書教諭の資格の講座が夏休み中に開講していた。大して興味も無いのに「司書に興味がある」と言い訳した私と進路未定な花音、そして亜樹は終わった後のお喋りを楽しみに暑い中大学まではるばる来ていた。亜樹は通常の講義よりも熱心だった。亜樹が言うには「意外な人が意外な本を読んでるのをわかるのが面白い」らしい。それを見ていられるのは図書館司書だと。亜樹はてっきり部活ついでに受講しているのかと思っていた。インカレが近いらしく、今日は授業の後は練習に行くらしい。暑いのに。倒れるんじゃない?この子。「そんなヤワじゃないよ?桃歌も今から剣道部入っちゃう?」「え」突拍子も無く言われて、ただ固まるしかできない。「桃歌の為に私、スペシャルな練習メニュー考えたげるよ?」「い、いいです……」亜樹の目の奥が光っている。これ、絶対断らないとヤバいやつ。そうちゃんが帰国した。空港まで出迎えようとしたら「深夜の便だからいいよ」と言われ、ちょっとホッとしてしまった。あの一件以来、そうちゃんとはLINEのメールでしかやり取りをしていなかった。帰国して早々責めるのは嫌だ。でも作り笑いがいつまで保てるのか自信が無かった。元カノのせいでロミオの皆に迷惑を掛けていたことをそうちゃんが深刻に捉えていないことを更に実感するのも嫌だった。私、どんな顔してそうちゃんに会えばいいんだろう?あの電話以来、1日か2日おきに例の元カノはロミオに来ていた。そうちゃんの不在を知るとすぐに帰った。勿論、おしぼりは使用済みだしお冷はきっちり飲み干していた。注文なんて一度もしていない。店が空いているときならまだしも、ピーク時に来られたときには参った。こちらの余裕がいつもより無いときにモンスター客の図鑑に
last updateآخر تحديث : 2026-10-02
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けじめ①

「おはようございます」渾身の営業スマイルを大集結させて声を掛けた。「お、おはようございます」振り返った彼は緊張感を漂わせながらも何か言いたげだった。たった2週間。されど2週間。会いたかった。触れたかった。目の前にいる今この瞬間だって触れたくてしょうがない。そうちゃんが目の前にいるのに触れないなんて、すごくすごく落ち着かない。今がロミオのバイト中じゃなかったら。その胸に飛び込んで、きっとそのまま流された。何度も抱かれて、肝心な話はきっと出来なかった。バイトを再会の場にして良かった──周りには迷惑な話かもしれないけど。それでも、冷静に私がそうちゃんと向き合うには、ロミオバイトスタッフの白雪さんと速水くんである必要があった。「じゃ、お疲れさまです」「あれ?亜樹は今日朝からだったの?」カウンターから少し疲れた様子の亜樹が私とすれ違おうとしていた。「栗原さん、選考落ちた会社から面接に急遽呼ばれたらしくて。本命なんだって」就職活動も佳境に入っているらしい。落ち着いたら栗原さんから就活の話を聞いてみたい。「あ……それは。行かないとだね」「また明日ね。大学で」「うん。お疲れさま」「白雪さん」速水くんの声に振り返るとお客さんがドアから入ってきたところだった。4名。シルバーにおしぼりとお冷をすぐにセットした。──その人は、今日もやって来た。今日はそうちゃんがシフトに入っている。彼女の目的はこれで達成されるはず。彼女が店内に入った瞬間、私と店長の空気はピリついた。まただ。また、あのモンスターカスタマーだ。店長と顔を合わさずとも、感じたことが同じであると互いにわかった。「速水くん」グリーティング後、カウンターで隣に立つ彼に声を掛けた。あなたのせいで店に迷惑が掛かっているの。あなたが解決するしか無いの。あなたにしか出来ないの。私と目を合わせた彼は、静かにお冷とおしぼりをセットし、彼女の座るB1に向かった。「失礼します」言うと同時にお冷とおしぼりを置いた。B1はレジとカウンターから近く、会話が丸聞こえだ。「蒼。私、ずっとここに通ってたんだよ?」「ああ。注文もしないでな。注文しない客は客じゃない」そうちゃん!いきなり塩がキツすぎるよ⁈んで目が冷た過ぎる!怖過ぎ!「私、蒼に会いたくて……」「店に迷惑掛けるのはやめてくれないか。注文し
last updateآخر تحديث : 2026-10-02
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けじめ②

「迷惑掛けてすみませんでした!」閉店後。いつも通りにB6でお喋りをしようと私と店長が自分用のドリンクを作っていた。その私達に向かって、そうちゃんは深々と頭を下げた。その角度、たぶん90°ぐらい。「……ん、まあ。詳しい話、聞いてもいいか?大体想像は付くのだが」「はい!勿論です!」「まあ、座ろうか。白雪さんも、座ろう?」そうちゃんは手早くグラスに氷とコーラを入れた。レモンの薄切りも当然入れた。私はコーラを飲まないからわからないけど。コーラにレモンの薄切りを入れると美味しくなるらしい。何かの化学反応が起きているのだろう。「──で、つまりだ。あのサマジューさんは速水の元カノなんだな?」サマージュースを注文したからサマジューさんと呼ぶことにしたらしい。今日も何も注文してなかったら何て呼ばれてたんだろう?モンスターとか?ストーカーとか?どっちにしろ酷い呼び名だ。彼女は今日注文して本当に良かったかもしれない。「はい……高校のときの」「例の、遠距離になった彼女?」「じゃないです」「「えっ⁈」」違うんかーい!「その人より前の、えっと……2人ぐらい前に付き合った人で」「2人ぐらい前って……」店長が溜め息と共に頭を抱えた。しばらく沈黙した後、店長は真剣な顔で私に向き直った。「白雪さん。こいつ、やめといた方が」「て、店長!そんなこと言わないでくださいよ!」「ウチの可愛い娘を、女取っ替え引っ替えしてた奴にやるわけにいかんだろう」「そこを何とか、お父さん」背筋を伸ばし腕を組む店長。縋《すが》り付くそうちゃん。何このコント。結構真剣な話してたんじゃないの?「……しかしだ。あのサマジューさんが速水に冷たくされただけであっさり諦めるかな」「サマジューには俺からきっぱり言っておきます。これ以上店に迷惑掛けるわけにいきませんから」店長と同じく、私もあのサマジューさんが潔く諦めるだなんて思えない。そうちゃんが帰国するまで、本当に頻繁にロミオに訪れていたのだから。ドリンクすら注文しないで。「そうちゃん、あのね。サマジューさん、本当に頻繁に来てたの。その度に私も亜樹も栗原さんも絡まれていたの」そうちゃんが目を見開いた。「あんまり言いたくないんだけど……」「じゃあ俺が言うよ、白雪さん。サマジューさんはな、来る度にウチの女性スタッフに《《蒼の彼女って誰?》
last updateآخر تحديث : 2026-10-03
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