18時を少し過ぎたところだった。ここから黒川までは車なら10分もかからないだろう。「桃歌ちゃん、何飲む?」コンビニでドリンク買って、名城公園をぶらぶらしようとしてるのかな。バイトに間に合うとはとても思えない。「私、これで」ドールのグレープジュースを手に取った。これなら秒で飲み終わって出発できるだろう。「そんな少ないやつでいいの?」「バイト前なんで」コンビニの通路を2人強引に横並びになろうとしてるのが気配でわかった。この狭い通路で横並びって密着じゃん。通行の邪魔だし。そうはさせない。先輩の位置から一歩下がった。よし、これで距離が保てる。私の手からグレープジュースを奪った先輩は、自分のペットボトルのコーヒーと共にレジに向かった。「あの、それぐらい私」「いいから。これぐらい奢るよ」奢るってね。そのグレープジュースはギリ100円するかしないかですけどね。後輩に奢る優しい俺を演出したいみたいだからそのままにしてみようか。「ちょっと歩く?ベンチ探そうか?」車の中に戻って2人きりとベンチに座るか。より安全なのはどっちだ?車の中だと何かされそう。ベンチ座ったらバイト間に合わないかも。何この究極の選択。他の選択肢を探さないと。流されちゃダメだ。伊沢くんに流されて身体を許した私自身が気持ち悪くて、嫌で嫌で。自分を上書きしようと必死だったじゃない。新しい自分になろうとしていたんじゃない。ここは、きっぱり断らないと。ちゃんと時間通りに、私はロミオに行くんだ。19時に入ると告げた以上、私が19時より遅くなったら店長と今日シフト入ってる誰かを困らせる事になる。そうはさせない。流される女は、もうおしまい。「ここで良くないです?バイトの時間近づいてるんで。入り口避ければ邪魔になりませんよね?」ロミオのバイトでようやく出来上がってきた、渾身の営業スマイルで対抗してみる。ここで北山先輩に隙を見せたら流される展開が始まってしまう。「でも桃歌ちゃんずっと立ってると疲れるだろ?」「あと30分ぐらいでホールに入るのに、疲れるとかありませんから」「30分…?まだ時間あるだろ」「私、15分ぐらい早く着かないと落ち着かないんです。すぐバイトモードにはなれないんで」嘘だ。いつもは10分前に着いている。「何バイトモードって。桃歌ちゃん、真面目だな」バイトモード
最終更新日 : 2026-09-16 続きを読む