星をくれたあなたと、ここで会いたい 〜原価30円のコーヒーは、優しく薫る〜 のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

74 チャプター

巡り巡って①

 「ももちゃんはね。俺の彼女になって嫁になる運命なの。わかった?」ここでうっかり「うん」と言うべきか、否か。サイゼリヤ内のお客さんの会話が聞こえなくなったのは気のせいでしょうか。これ、もしかしてみんな聞き耳立ててる?そうちゃんは私にとってはそうちゃん枠の人だ。その枠は、他の誰かに取って代わられることは無い。断言できる。私にとってそうちゃんは、ずっと会いたかった人でもある。そう、私にはディズニーランドのミッキーよりも、もっともっと、会いたかった人だ。ミッキーよりも遥かに、比べられないぐらい。伊沢くんと付き合ってた当時、もしそうちゃんに「そいつと別れて俺と付き合って」って言われたら、頷いていたかもしれない。形ばかりの彼氏じゃなくて、そうちゃんの側にいた方が、私、ずっと楽しい。「ももちゃん、返事は?」「返事って、言われても……」私は何をぐずぐずと、勿体ぶっているのだろうか。「返事?簡単じゃん。YESかはいで答えればいい」「どっちもOKの意味じゃん」駄目だ、思わず笑ってしまう。「あのね、そうちゃん」「YESかはいしか聞かないよ?」すごい自信だな。私がOKするしか無い流れをこんなにスマートに作るって、そうちゃんもしかして手練れ?「そうちゃんは、私でいいのね?」「ももちゃん以外の選択肢は俺には必要無い」「じゃあ……えっと、その」「YESかはいね?」「じゃあ。YESとはい」「へ?」ここまで来て目が点って。そうちゃん、私調子狂うよ?「──そっかあ。結局桃歌はその幼馴染くんとくっついたわけね」「ん、まあ。そう……」そう、なんだけど。なんでだろう。真希にそんなあっさり言われると、何だか訂正したくなる。私とそうちゃんこ物語を、真希にありふれた恋バナの一つにされてしまうのは釈然としない。でも言わない。き
last update最終更新日 : 2026-09-23
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巡り巡って②

「そう。だからいつでもできるの、私達」「できるって、その」「やだ桃歌。経験済みでしょ?男女が部屋に2人きりでいたらすることなんて一つでしょ?」経験済み……。伊沢くんとのあれを、経験済みと言っていいものか。「真希、その……」「何?歯切れ悪いなあ。今の彼氏とは勿論、してるでしょ?」これ言ったらまたマウント取られるかもしれない。でも言わなかったらそれはそれでややこしそう。「まだしてなくて。それに私、元彼とは最後までしてないんだよね」「え。そうなの?何で?桃歌拒否ったの⁈」「ちょ、真希、声が大きいって!」今私達がこの会話をしていたのは生協のカフェテリア。お昼どきで学生が多くいる。今の真希の声に何人かの学生がこちらを見ていた。「真希、ちょっと、デリケートな話だから……」「桃歌、何で今まで黙ってたの?」「黙ってたんじゃなくて、言う機会が無かったから」私が伊沢くんと別れた時、真希が薄ら笑いで「ふーん」と一蹴したの、私忘れてないからね?「前の人とは別れたって話は聞いたけど。だったらこないだの飲み会のときに」「こないだは真希の彼氏の話で盛り上がってたから言う空気じゃなかったじゃん」あの飲み会、みんなそれぞれ恋バナを披露した。でもやっぱり話の主導権は真希が握っていた。「えー?私が悪いの?」あ、まずい。真希の私のせいじゃないアピールが始まった。これ始まるとものすごく面倒くさくなる。「幸せな話の最中に別れた話を掘り返すのは違うって思っただけ。幸せなカップルの話聞いてる方が楽しいじゃん?」「まあ。それはそうだね」真希のご機嫌取り、まだ続くのかな。みんな早く来て。「おはようございまーす」ロミオのキッチンを通ってホールに入る。今日のキッチンは栗原さん。ホールは私とそうちゃんだ。真希とのサシに疲れた私の心にそうちゃん。良かった。私、回復できる。帰りにハグおねだりしよう。「ねぇ、そうちゃん」「白雪さん、お客さん3人来ます。A3で」うっかりそうちゃんと呼んでしまった。何なら今私、彼女モードだった。ダメダメ!私達、ロミオでは白雪さんと速水くんで通すって決めたんだった。職場恋愛が禁止されてるわけでは無い。でもまだスタッフに私達のことをカミングアウトしてない。たまに詮索してくるお客さんもいるから名字呼びの方がい
last update最終更新日 : 2026-09-24
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体温①

「やっと解放されたな」「……わかってたことじゃん?」もっと聞きたいけど、根掘り葉掘り聞きすぎると先の楽しみが無くなるからと、栗原さんと店長は思いの外早めに解放してくれた。それでも現在、午前1時に近い。今日もそうちゃんと自転車を引いて家まで歩く。そうちゃんが現在住んでいる家とは反対方向にはなるけど、それでも一緒にいられる時間が増えるのが嬉しくて、甘えていた。そうちゃんは現在、部屋を借りて一人暮らしをしているらしい。一人暮らしするなら大学の近くに部屋を借りればいいのに。私はまだ、そうちゃんの部屋に行ったことは無い。真希の言葉を思い出す。男女が部屋に2人きりでいたらすることなんて一つでしょ?私とそうちゃんも、そうなるのかな?そうなりたいような、まだ怖いような。どのタイミングなら、そうちゃんに身を任せても軽い女判定されずに済むんだろう?そうだ。私ハグおねだりするんだった。「ねぇそうちゃん」私が足を止めると、そうちゃんも足を止めた。「ん?」「その、私、ね」どした?と言いながら目を細めて私を見つめる彼に、私はハグされたい。「そうちゃん、ちょっと自転車置いて?」「どうした」そうちゃんが自転車を置いて倒れないように安定させたのを確認したと同時に、彼の胸に飛び込んだ。「ももちゃん……?」薄手の長袖越しにじんわりと伝わる、そうちゃんの体温。背中に回された彼の腕からも体温を感じて、そうちゃんに包まれてるみたいだ。「私ね、今日疲れてたの」「……バイト?」「ううん、バイトじゃなくて」「もしかして大学?」「……そう。今日はいまいちウマが合わない子とどうしても長い時間2人きりで」「そっか」「その子といると気が張るっていうか」「うん……」そのまま、言葉が途切れた。そうちゃんも、何も言わなかった。どれくらいの時間が経ったのか。電柱の電灯に照らされた私達は、そのままずっと動かなかった。「そうちゃん」「ん?」「私、ずっとこうしてたい。けど、帰らないとね」「──俺ん家、来る?」そうちゃんの家?行きたいよ。行きたいけど。「今日行っちゃったら、お父さん倒れちゃうかも」「美樹さんにも怒られるだろうな。美樹さん、怒るとめっちゃ怖かったな」一緒に遊んだ子どもの頃、何かをやらかしてお母さん達にすっごい怒られたことがある。「そうちゃんのお
last update最終更新日 : 2026-09-24
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体温②

 「今日は大人しく帰るよ。また今度、な」「今度って。いつ?」そうちゃんの体温が離れるのが名残惜しくて。彼の服の裾を掴んだまま、目を潤ませたまま彼を見上げた。「ももちゃん、その顔、だめだって……」「だめって。何が」続く言葉を吸い取るように。噛み付くような口付けが降ってきた。「ん……そ、うちゃ……」さっきよりも激しい口付けの応酬に、反射的に彼の背中にしがみつく。息が上手くできなくて呼吸が苦しくなってきた。このまま続けていたいけど、本当に呼吸が苦しい。「そう、ちゃ……」息が、苦しい。でも口付けは止まらなくて。彼の胸にを力いっぱい押した。「ももちゃん?」肩で息をする私を呆気に取られた顔で見る彼も、顔が若干赤くなっていた。「そうちゃ……息が苦しい」「そうか、呼吸……。ごめん、がっついて」「がっつい……て。そうちゃん、がっついてたんだ」「そうだよ。がっついてたよ。もう押し倒したい」「そうちゃん、ここ外」「だから我慢してんの。今日はもう帰ろう。この調子だとずるずる帰れなくなる」そう、だよね。くすくす笑うと目を細めた彼と目が合った。いい加減私も、欲に支配されないで頭を冷やさないと。「おやすみ」「うん。おやすみなさい」自転車のグリップを握ったまま、背伸びしてそうちゃんの唇を奪った。「ももちゃん……っ!」「へへ。おやすみ」──できるだけ音を立てずに玄関の鍵を開ける。静かにドアを開け、慎重に閉めた。鍵を掛けたとき、思いの外音が響いてちょっとびっくりした。今のでお母さん達、起きないよね?すぐお風呂に入って寝よう。鏡を見なくても、自分の顔が、全身が火照っているのが感じられた。そうちゃんのせいだ。シャワーを浴びて髪を洗い終わり、身体を洗っていた。ボディソープの泡だらけの全身が浴室の姿見に映った。私の胸も、お尻も、それなりに形も大きさも程良いと思う。伊沢くんにはそれはそれはしつこく胸を揉まれた。それなりに気持ち良かった。でも、本当に好きだと思えるそうちゃんが相手だったら、私の身体はどうなってしまうんだろう?本当は、キスだけじゃ足りなかった。そのまま私の身体の何もかも、隅々まで触れて欲しかった。そうちゃんが理性を保ってくれなかったら、あのまま服を脱ぐぎりぎりまでしていたかもしれない。でもやめてくれた。私が欲に支配されていたというのに。
last update最終更新日 : 2026-09-25
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体温③

部屋のドアの、無機質な鍵の音に、身体が少し跳ねた。気付かれなかったかな。そうちゃんの後ろにいたんだから、大丈夫だよね。直前まで手を繋いでいた。そうちゃんが鍵を手に取る際に離した。「どうぞ」「おじゃま、します」そうちゃんに続いて中に入る。しまった。何か手土産とか持ってきた方が良かったかな。飲み物とか、ちょっとしたお菓子ぐらい。どうして思いつかなかったのだろう。これじゃ私、完全に盛ってるだけの女じゃん。幻滅されちゃう。「そのへん座ってて。何か飲み物……」「あ、そうちゃん。私やるよ」手土産も無く部屋に押しかけたんだ。飲み物出すぐらい、手伝わないと。「いいよ。ももちゃんはお客なんだから」「そんなわけには」バッグを置いてそうちゃんと並んでキッチンに立った。ロミオのキッチンとは違って、一人暮らしの学生の部屋のキッチンは狭い。一瞬、互いの肩が触れた。反射的に身を固くした。「ももちゃん、何か緊張してない?」「…………んっ⁈」そうちゃん!耳元で囁くの禁止!息が耳にかかって変な声漏れちゃったじゃない。「何?今の声」「な、何でも無い!」じりじりと肩が、二の腕が彼のそれと密着していく。それを私が離すつもりは、無い。右頬にそうちゃんの感触があった。油の差していない錆びたロボットのように、右に顔を向けられない。無理に向けるとギギギギ……って音がしそう。左頬に長い指が添えられ、顔を右に向かされた。そっと、唇が重なった。柔らかさを確認するように、啄むように何度も重なる。唇が離れるときの音が部屋中に響いた。そのまま力強く口を吸われ、力が抜けそうになった。反射的にそうちゃんの背中にしがみつく。太ももに当たる彼は、もう硬かった。「そう、ちゃ……」「もう、我慢しなくていい?」うん、と頷くと同時に服の上から大きな手が膨らみを忙しく弄《まさぐ》った。カシュクールタイプのワンピースを着ていたから、彼の指がだんだんと直接肌に触れた。あっという間に下着の中にそうちゃんの手が侵入した。先端を摘まれ、弾かれ、脳の奥がぼんやりとしてきた。喉の奥からあられもない声が漏れ出る。その間も口付けは止まらない。彼の舌が咥内に侵入すると、ざらざらとした感触が私の知能指数を下げていった。もう、何も考えられない。この人にただ触れられたい。隅々まで。私の知らないところまでも。それだけだ。
last update最終更新日 : 2026-09-25
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わたしたちの①

静かにTシャツとインナーを脱いだそうちゃんの身体は、適度に筋肉がついていた。何かスポーツやってたのかな。「ほら、ももちゃんも脱いで」そっと押し倒される。ショーツに手を掛けられたとき、茂みの奥がかつてない程潤っていることに気付いた。「あ、待って」「待たない……え?」「……あんっ!……あ、指、動かしちゃ、だめぇっ!」「すっごい濡れてる……」「ああああっ!……言っちゃ、やだってばあっ!」湧き出る蜜を蕾に小刻みに擦り付けられ、腰から上半身がびくびく跳ねた。ショーツを脱がされ、そうちゃんも身に付けていたものを全て脱いだ。え、ちょ……。「こんな……大きいの、入るの……?」 「入るよ。……え、ももちゃん、もしかして」一瞬眉を上げたそうちゃんは意外そうに言った。「入れたことは、無いの」「え?元彼とは?」「最後まではしてないの」口角を上げた彼は手早く四角い包装を切って中身を出した。「じゃあももちゃんの本当の初めては、俺が貰うんだな」「そう、だよ」「良かった。俺、ももちゃんの元彼にめちゃくちゃ嫉妬してた。でも最後までしてないならちょっと許す。……でも、途中まではしたのか」「あ、えっと……」しまった!エッチの最中に他の男の人の話は御法度だろうに……!「最初しか、優しく出来ないかもよ?」「お、お手柔らかに」「──ももちゃん、力抜いて」「む……む、り……」「これじゃ入らないよ?脚がガードしてる」きっと少しあてがっただけだろう。それでも初めての痛みは予想を遥かに上回って無意識に脚にもそこにも力が入った。「今日はやめとく?」「や、やだ」「でも嫌がってるのに無理矢理挿入《い》れるなんてできないよ」「嫌がってなあい。ね、私は今、挿入れて欲しいの」「でも痛そうだし」「ねぇ。お願い。頑張る、から」さっきよりも強めの刺激が全身を襲う。正直、痛い。痛いです。無理です。でもこれを越えられないとそうちゃんに抱かれるなんて一生無理。痛みに耐えて耐えて「んっ!んっ!」としか出なかった声は、いつしか「あっ……!」に変わっていた。それを合図にそうちゃんの動きが速くなった。「そ、うちゃん……き、もちぃ、かも……」そうちゃんは何も言わない。彼の肩から、腕から滴り落ちる汗が愛おしい。互いの身体から発せられる液体が互いの身体に絡みついて幸せだ。こんな
last update最終更新日 : 2026-09-26
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わたしたちの②

「──晩ごはん、どうする?」窓の外はすっかり暗くなっていた。一日の大半をベッドの上で過ごした私達は、やっと起き上がって電気を点けた。唐突な光が目に眩しい。蛍光灯の光に照らされた私達は、生々しく裸だった。「なんで隠すの?」「だって……明るいし」ベッドの上の隅に無造作に置かれていた夏用の掛け布団に包《くる》まった私を見下ろしたそうちゃんは、強引にそれを剥がした。「あっ……ちょっと」「もう隠す仲じゃ無いだろ?」隠す物を奪われ、またしても組み敷かれた。「ねえ。晩ごはん食べよう?」「もっかいももちゃん食べてから」「十分食べたでしょ?」「食べ足りない」「私はお腹空いたの。お昼ごはんだって食べてないじゃない」不満げな彼を何とか説き伏せて、やっと下着を手に取った。「……もっかい外したくなるな」ブラのホックを付けた直後、そうちゃんはブラのホックの近くに指を滑らせた。「そうちゃん?私お腹空いたってば」「わ。怒ったももちゃんも可愛い」「だからホック外さないでってば」「無理」締めつけが外された。またふり出しに戻った。いつになったら私達は晩ごはんを食べられるのだろうか?深い口付けの最中に私じゃない音が聞こえた。そうちゃんのお腹だ。「そうちゃん……お腹空いてるんでしょ?」「終わったらご飯食べよう。今は無理」「無理って……はあんっ!」食欲よりも快楽に負け続けるわたしたち。人間としての活動に本当に戻れるのか少し不安になった。でも幸せだからやめられない。「何か作ろうか?」言ってみたかった、この台詞。ただ、自宅でぬくぬくとお母さんのご飯を日々食べている私にレパートリーなんてほぼ無い。焼きそばぐらいなら……作れるかな?「ももちゃん、作ってくれるの?」そうちゃんの目が輝いている。はい、もうレパートリーが無いなんて言えません。現在、軽くピンチ。「冷蔵庫に何か、入ってる?」入ってませんように。食材が無ければ作らずに済む。そうちゃんと一緒に冷蔵庫を覗く。中にはケチャップとマヨネーズとチーズ……だけ?「そうちゃん……これは」「スーパー行かないとだな」「まだやってる?」陽はとっくに落ちていた。「コンビニだったら」「コンビニじゃ割高じゃん?」スーパーよりコンビニの方が高いことぐらいはわかる。「……食べに行くか。ももちゃんの手料理、食べた
last update最終更新日 : 2026-09-26
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モヤモヤっとしたもの①

「じゃ、乾杯」生のジョッキを手にそうちゃんは私に傾けた。「何に?」「俺たちの……言っていいの?」「乾杯!」重たい生のジョッキを強引にそうちゃんのそれにぶつけてコン!と固い音を立てた。口につける。……やっぱり、苦い。「苦い?ももちゃん」「……私、ビールを美味しいと思ったこと無いの」あ、この台詞、可愛くない。でもこれ以外の言葉が出てこない。強引に生を頼んだのはそうちゃんであって私じゃないもの。「ごめんな。ももちゃん、違うやつ頼んでもいいよ?」「でもまだこんなに残ってるよ?」「俺が飲む。貸して」早くも一杯目の生を飲み切っていた彼にジョッキを渡した。喉を鳴らして私のビールを飲む彼の首筋に口付けたい衝動に駆られたけど我慢した。「そうちゃん、さっきどうしたの?」「どうって?」一瞬目が泳いだ。やっぱり何かあった。こんな短い間に何が?私、ずっと一緒にいたよね?「いつも私にドリンク何が良いか聞いてくれるじゃん?」今まで私と出かけるときのそうちゃんは、いつも紳士を絵に描いたような対応をしてくれた。私に好みを聞かずに勝手に注文するなんて初めてだった。「あ……えーと。友達と飲むときって大抵一杯目は生だから」「私の一杯目は生じゃないよ?」「だからごめんって。ほら、この生搾りオレンジサワーとかどうよ?」頭を撫でられ低くて甘い声で囁かれ。私は口の上手いそうちゃんに誤魔化されていたことに気付かなかった。あの日の違和感は、その後は無かった。気付かなかったことにすれば、何も問題無い。そうちゃんは変わらず優しいし、私をすごく大事にしてくれている。その実感も自覚もあった。大したことじゃ無かったのかもしれない。違和感の一つひとつ全てに向き合ってたらキリがない無い。見ないふりをすることだって、時には大事なのかもしれない。「ねぇ、桃歌……」「どしたの花音?」花音が言おうか言うまいか迷っている、という表情を顔いっぱいに出している。スパンとモノを言う傾向のある花音には珍しいことだ。「あの、ね。私、ちょっと聞いちゃったんだけど。でも桃歌が聞いたら嫌な思いをするかもしれないんだけど。でも他の、遠い人から聞かされるよりはまだ私から聞いた方がマシかなーなんて」「だから、どうしたの?」相当言いにくいことなんだろうな。私が聞いたら嫌な思いをするとか、私に対する悪口とか
last update最終更新日 : 2026-09-27
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モヤモヤっとしたもの②

「そうちゃん、遠距離になるから元カノと別れたって言ってたけど」「それ多分別の元カノじゃない?」別の元カノ……花音が聞いた話が本当であれば、そうちゃんには複数人元カノが存在することになる。一体何人いるんだ?「ちょっと想像がつかない……」「私は速水くんと直接会話したこと無いから何とも言えないけど。私だったら速水くんに直接聞くかな」「直接⁈」「だって聞かなかったらモヤモヤしたままこれからずっと会うことになるよ?」「ゔ……」モヤモヤしたまま会う。そんなの、そうちゃんに見抜かれるに決まってる。でもこないだの居酒屋の一件は、まだ気になってる。気にしなくていいのなら気にしないんだけど。でも何かあるのは間違いないと、私は思う。カフェテラスの外から蝉の鳴き声が遠く聴こえる。外に出たら湿度も高くて不快指数MAXなんだろうな。その上モヤモヤしてたらもうやってられない。「その……速水くんと今付き合ってるのは桃歌じゃん?その元カノは割と派手な感じの子みたいで、今カノである桃歌ってどんな子なの?って聞かれてたんだ」噂の的のそうちゃんの今カノ。興味の対象にはなるよね。いい気分には全くなれないけど。「いい子だよって言っておいたよ。眉顰《ひそ》めてたけど」「どういうこと?」「国際コースでの速水くんのキャラと合ってるとか合わないとかいう問題……かも」「やほー」「お、真希」真希の声に花音が振り返った。この話題の最中に、真希か。表情、変えちゃダメだよ?私。「何か難しい話してた?桃歌の眉間に皺よってそうだったけど」余計なお世話だ。眉間の皺の原因の一つは真希本人なんだけどね。「んー……ちょっとね」微笑んで誤魔化す。真希にこの話題でイジられるのは、ちょっと嫌だ。「気になるじゃん。ねぇ、もうお昼買いに行かない?」「みんなまだ来てないけどいいかなあ?」花音さん……気になると言いつつ別の話題を出した真希の言う通りにした方が私には都合が良いんだけれども。「場所だけキープしてれば良くない?もうすぐ混むだろうし、行っちゃおう?」言葉を続けた真希に私が賛同すればお昼を買いに行く流れになるよね?うーん、と花音が思案している間に生協の入り口が騒がしくなった。2限を取ってる学生の授業が終わったのだろう。「混んできたみたいよ?」入り口を一瞥した真希が花音に視線を送った。花音
last update最終更新日 : 2026-09-27
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モヤモヤっとしたもの③

「真希も花音も……ありがとう」支払いを終えてテーブルに戻ってきた私達。さっき聞いていた花音の話の通りだった上に、ちょっとまずいことになっていると気付いたその時に真希が成敗してくれるとは。真希……嫌なやつ、とか苦手とか、思ってて今までほんとごめん。「ちょっと前に聞いちゃってたんだよね。桃歌の彼氏の話」一瞬私と目を逸らして、さっきの花音と同じく言葉を探すように続けた。「高校の時にブイブイいわせてたってやつ?」「花音、ブイブイって」「ブイブイいわせてた相手が速水くんと別れたことに納得してないらしくて。その取り巻きが速水くんと同じ国際コースにいるんだって」「で、コソコソ悪口言っていると。全然コソコソしてないじゃん。中途半端に桃歌に絡んでたし。ウザすぎ」サラダうどんを勢いよく啜《すす》る花音は珍しく怒ったまま言葉を続けた。「私、こういうの大っ嫌いでさ。本人に直接対決しないでじわじわ嫌がらせするやつ」「わかるー。でもそういう輩《やから》ってほっといても潰れてくから、ちょっと突いただけで総崩れ。その過程を見てくの楽しいよね」「真希……。もう、おねえさまと呼ばせてくださいな」私、本当にこの2人の一部しか知らなかったんだな。深く付き合っていくと色んな面が見えるよね。「学内は私らがいるから何とかなるかもだけどさ。問題はその元カノじゃない?取り巻きがこんな感じじゃ、結構執着強いんじゃないかな」この暑い日にカツ丼の大盛りを早くも平らげた真希は、眉を顰めていた。──ロミオでのバイト帰り。今日のシフトのペアはそうちゃんだった。彼の態度はいつもと変わらない。でもたまに目を逸らされているのはきっと気のせいじゃないと思う。「そうちゃん」「ん?」「何か、あったでしょ」どうやって聞き出そうか、ずっと迷っていた。どんな風に聞いてもはぐらかされるのは目に見えていた。そうちゃんは相手を煙に巻くのが上手い。でも今日はそうはいかない。直球勝負だ。あの居酒屋の夜以降、LINEはいつもと変わらないけど、そうちゃんの視線は何かがあったことを物語っていた。「何も、無いけど」また、目を逸らされた。そうちゃんが私から目を逸らすことは滅多にないことだ。彼はそれを自覚していないのかもしれない。「最近私といるときに、目を逸らすことが多いんだけど。気がついてる?」「え……
last update最終更新日 : 2026-09-28
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