「西野っち、どしたの? んな怖い顔して」 会社のオフィスでパソコンの画面を睨みながらキーボードを打っていたら、斜め向かいに座っていた伊藤さんに声を掛けられた。「え……私、そんな怖い顔してました?」 画面から顔を上げて伊藤さんを見ると、彼女は笑いながら自分の眉間を人差し指で擦った。「うん。画面の中に、親の仇でもいるんじゃないかってくらい怖いよ。 ほら、まだ眉間にシワ寄ってる」 言われて私が自分の眉間を触ると、確かに無意識に力が入っていたようだ。「そんな難しい仕様だった? ……それとも、旦那と喧嘩でもしたかな?」 含み笑いをされて、私の頭がかっとなる。 伊藤さんに対してではない。 “旦那”と呼ばれた存在に対しての怒りだ。「旦那なんかじゃないですってば……。 それに、別に喧嘩をしたわけでもないし……」 感情が表に出ないよう声を落としたのだが、逆に伊藤さんには妙な勘ぐりをされたようだ。 頬杖をつきながら大仰にため息を漏らす。「あーあ、若いって羨ましいわぁ。 うちの元・旦那も、西野っちの旦那くんみたいにイケメンで優しかったら、離婚なんてしなかったのになぁ」「伊藤さん……」「ふふ、冗談よ。 クソ旦那と結婚したのは、私の見る目がなかったからで。離婚するって決めたのも私だしね」 伊藤さんが私の“旦那”と言っているのは、もちろんコウヤのことだ。 前に一度、残業で帰りが遅くなった私を迎えに会社の前まで来たコウヤを伊藤さんも目撃している。 それ以来、社内では、コウヤのことを私の公認旦那扱いされているのだ。「ね。今晩、久しぶりに飲みに行かない? 女同士でさ」「いえ、私は……」 いつもの調子で
Last Updated : 2026-09-29 Read more