All Chapters of 声を失った少女を助けたら、冷徹CEOの契約妻になりました ~一年だけの偽装結婚なのに「君とこの子を、もう二度と手放さない: Chapter 41 - Chapter 50

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第41話 家族になれる人間ほど、近くへ入れる

第41話 家族になれる人間ほど、近くへ入れる 村瀬隆臣が死ぬ一週間前に残したという言葉は、聞けば聞くほど意味が分からなかった。『九条家の中で探しても、もう見つからない。家族になる権利を持っている人間を探せ』 通話を終えたあとも、その言葉だけが部屋に残っているようだった。 玲司は腕を組んだままソファへ深く座り、篠崎は端末で七年前の記録を検索している。美佐子は窓際へ立ち、征一郎は目を閉じて何かを思い出そうとしていた。 結衣には一つだけ分かる。「『家族になる権利』って、家族本人じゃないんですよね」 玲司が顔を上げる。「そう読める」「結婚する予定の人とか?」 言った瞬間、玲司の視線が結衣へ向いた。「何です?」「いや」「今、変なこと考えましたよね」「考えていない」「絶対考えた」「話を続けろ」「誤魔化しましたね」 美佐子が小さくため息をついた。「あなたたち、真面目な話を五分以上続けられないの?」「玲司さんが変な顔するからです」「君が結婚と言うからだ」「事件の話でしょう!」「分かっている」 結衣は少し頬を膨らませた。 こんな状況でも、こういうやり取りが挟まると少しだけ息ができる。 たぶん玲司も同じなのだ。 篠崎が顔を上げた。「法律上、『家族になれる立場』と呼べそうな者は複数おります」「具体的には」「婚姻予定者、養親候補、後見人候補。それから、一定の条件下では信託の共同管理人に就任予定の者も含まれます」 結衣が眉を寄せる。
last updateLast Updated : 2026-10-12
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第42話 七年前、エマを連れていこうとした男

第42話 七年前、エマを連れていこうとした男 桐谷正臣という名前を、玲司は覚えていた。 顔も。 声も。 話し方も。 ただし、好意的な記憶ではなかった。「嫌いだったんですか」 翌朝、結衣が尋ねると、玲司はコーヒーを飲みながら眉を寄せた。「嫌いというより、苦手だった」「玲司さんにも苦手な人いるんですね」「いる」「どんな人?」「何を言っても正しい」「褒めてるように聞こえますけど」「違う。正論しか言わない人間だった」 玲司はカップを置いた。「会社を守るため。九条家を守るため。エマを守るため。全部、理由だけ聞けば間違っていない」「でも?」「その理由のためなら、人間の気持ちは後回しでいいと思っているように見えた」 結衣は少し黙った。「……昔の玲司さんに似てません?」「だから苦手だったのかもしれない」 思いのほか素直な返事だった。「自覚あるんですね」「最近かなり増えた」「いいことです」「君に毎日欠点を指摘されていればな」「感謝してください」「している」 即答され、結衣のほうが困った。「そういう素直さ、突然出すのやめてください」「何でだ」「こっちの準備があるからです」「意味が分からない」 玲司は本当に分かっていない顔をする。 結衣はそれ以上説明しなかった。     *
last updateLast Updated : 2026-10-13
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第43話 兄が最後に疑ったのは、桐谷だけではなかった

第43話 兄が最後に疑ったのは、桐谷だけではなかった 九条圭司が、事故の直前に桐谷正臣を監査対象へ入れていた。 その事実が分かってから、玲司はすぐ本人へ連絡することをしなかった。 以前の彼なら、相手の自宅まで車を飛ばしていたかもしれない。 けれど今は違う。 兄が何を疑い、何が持ち出されたのか。 そこを先に確かめる。 本人へぶつけるのは、そのあと。「……本当に変わりましたね」 結衣が言うと、玲司は書類から目を上げた。「朝から何回目だ」「数えてません」「俺は数えたいくらい言われてる」「いいことじゃないですか」「子供の成長を見守るみたいに言うな」「じゃあ、大人の成長を見守ってます」「もっと嫌だ」 そんなやり取りをしながらも、玲司の手は止まっていない。 テーブルには七年前の監査資料が並んでいる。 ファミリーオフィスの職員名簿。 機密文書の持ち出し記録。 そして、圭司が監査担当へ送った短い指示書。『桐谷正臣の権限使用履歴を確認。特に医療・信託・航空の三系統』 結衣はそこに何度も目が止まった。「医療」「ああ」「信託」「ああ」「航空」「ああ」「今まで出てきたもの、全部ですね」「兄は事故前に、すでに繋げていた可能性がある」 玲司の声は静かだった。 焦りを抑えている。 でも、その奥では何かが燃えているのが分かる。「こ
last updateLast Updated : 2026-10-14
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第44話 あなたに隠し事をしながら、妻にはなりたくない

第44話 あなたに隠し事をしながら、妻にはなりたくない『結衣。私のことを調べ始めたでしょう。玲司さんにはまだ見せないで。エマちゃんを守りたいなら。白石真帆』 結衣は、その文章を二度読んだ。 もう一度読んでも意味は変わらない。 かつて同じ職場で働いていた白石真帆は、こちらが自分を調べ始めたことを知っている。 しかも、玲司には見せるなと言っている。「結衣?」 玲司の声がした。 すぐ隣にいる。 結衣はほんの数秒だけ迷った。 見せないほうが話を聞けるかもしれない。 真帆が本当にエマを守ろうとしているなら、玲司に知られたことで連絡が途絶える可能性もある。 けれど。 結衣はスマートフォンを差し出した。「これ、見てください」 玲司が受け取る。 画面を読む。 表情が変わった。「……俺には見せるな、と書いてあるが」「はい」「それを俺に見せた?」「はい」「なぜ」 結衣は少しだけ考えた。「私、あなたに全部監視されたいわけじゃありません」「それは分かっている」「自分の友達との話まで全部報告しようとも思ってません」「ああ」「でも、今回はエマちゃんに関係してるでしょう」「ああ」「だったら」 結衣は玲司を見る。「あなたに隠し事をしながら妻になるのは嫌です」 玲司の動きが止まった。 結衣自身も、言ってから少し恥ずかしくなった。「&
last updateLast Updated : 2026-10-15
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第45話 秘書室にいた「裏切り者」

第45話 秘書室にいた「裏切り者」 白石真帆との通話が終わっても、玲司はすぐには立ち上がらなかった。 秘書室にいる。 その言葉だけなら、今まで出てきたどんな人物よりも危険に聞こえる。 玲司の予定を知ることができる。会議相手を知り、国内外の移動を知り、場合によっては家族に関する書類へ触れることもできる。 けれど結衣は、もう「近くにいるから犯人だ」という考え方を信じていなかった。 この家へ来てから、それで何度間違えかけたか分からない。「篠崎さん」 玲司が静かに呼ぶ。「はい」「真帆さんが言った人物に心当たりは?」 篠崎はすぐに答えなかった。 その沈黙だけで、いるのだと分かった。「一名おります」「誰だ」「秘書室第二チームの水瀬紗季です」 玲司の表情が変わった。「水瀬?」「はい」「五年前に入った水瀬か」「その水瀬です」 結衣は知らない名前だった。「どんな人なんですか」 篠崎が説明する。「三十歳。現在は玲司様の国内会議、取締役会資料、対外行事の調整を主に担当しております。海外出張の詳細な経路や、本邸警備の情報へ直接触れる権限はございません」「じゃあ、カナダへ早く出たことは?」「知りません」「本当に?」「実際の出発時刻を知っていたのは、私、玲司様、警備責任者、それから手配担当二名だけです。水瀬には、表向きの三日後の予定を伝えております」 つまり。 水瀬が何かに関わっていたとしても。 カナダまで二人を追った人間とは、まだ直結しない。
last updateLast Updated : 2026-10-16
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第46話 「家族を守るため」という言葉が、いちばん家族を傷つけた

第46話 「家族を守るため」という言葉が、いちばん家族を傷つけた 水瀬紗季は、解雇されるつもりでいたらしい。 事情聴取が一段落したあとも帰ろうとせず、本邸の小応接室で背筋を伸ばしたまま座っていた。膝の上に置かれた両手はきれいに揃えられていたが、指先だけが白くなるほど強く握られている。「社長」「何だ」「処分についてですが」 玲司が顔を上げる。「まだ決めていない」「ですが私は、会社の規則に反しました。業務上必要のない機密資料へアクセスし、匿名で届いたリンクを社用端末から開き、その結果として認証情報まで利用された可能性があります」「ああ」「ですから」「水瀬」 玲司が遮った。「自分で自分を解雇するな」 紗季が言葉を失う。「でも」「処分はする」 玲司は甘やかさなかった。「アクセス権限は一時停止。情報管理部門の調査が終わるまで秘書業務からも外す。始末書も必要だ」「……はい」「ただし、今の時点で退職を命じるつもりはない」 紗季が顔を上げた。「なぜですか」「あなたが規則を破ったことと、俺たちを裏切ったことは同じじゃない」 結衣は黙って玲司を見た。 少し前なら。 おそらく全部まとめて切っていた。 危険がある。 なら排除する。 それが一番早く、一番合理的だったからだ。「調査の結果、故意に情報を流したと分かれば話は別だ」 玲司は続ける。「でも、父親の名前を使われて判断を誤った人間を、今この場
last updateLast Updated : 2026-10-17
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第47話 結婚する日を、今度は自分たちで決める

第47話 結婚する日を、今度は自分たちで決める 圭司が桐谷正臣を監査し、桐谷もまた圭司を内部告発していた。 そこだけ切り取れば、二人は完全に敵同士だったように見える。 だが翌朝、篠崎が持ってきた追加資料は、その分かりやすい構図を簡単に壊した。「桐谷氏の内部告発書ですが、事故の三日前に取り下げられています」 玲司が書類から顔を上げた。「取り下げ?」「はい。本人署名があります」「理由は」 篠崎が紙を一枚めくる。「『当事者本人と直接確認し、事実認識に誤りがあったため』」 結衣は玲司を見る。「圭司さんと話したってこと?」「そう読める」「いつ会った」「事故の四日前、午後十一時十八分から翌午前零時四十一分まで。旧本社地下の記録室へ、圭司様と桐谷氏が同時に入室しております」「また地下記録室か」 高城と圭司が黒いノートを見ていた場所も、そこだった。 玲司が腕を組む。「兄貴は桐谷に何を見せた」「分かりません。ただし、その翌朝」 篠崎は別の記録を示した。「桐谷氏が、自分の監査権限の一部を外部監査法人へ移すよう申請しています」 結衣は首を傾げる。「自分で調べるのをやめた?」「逆かもしれません」 篠崎が答える。「自分たちの内部権限では、調査していることそのものが漏れると判断した可能性があります」 玲司の目が細くなる。「兄貴と桐谷は、途中から協力していた?」「可能性があります」「じゃあ」 結衣は黒いノートに残された文を思い
last updateLast Updated : 2026-10-18
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第48話 兄と桐谷は、互いを疑うふりをしていた

第48話 兄と桐谷は、互いを疑うふりをしていた 旧九条本社は、七年前に本社機能を移してから、ほとんど使われていなかった。 都心の一等地に建つ二十階建てのビルは今も九条グループの所有だが、入っているのは資料保管部門と一部の関連会社だけで、夜になると人の気配が急に薄くなる。 桐谷正臣が指定した地下記録室は、そのさらに奥だった。「結衣はここで待っていてもいい」 地下へ下りるエレベーターの前で玲司が言った。「どうしてです?」「何が出るか分からない」「だから行くんです」「危険かもしれない」「桐谷さん一人でしょう」「そう聞いているだけだ」 結衣は玲司の顔を見る。「それ、命令ですか」「……違う」「お願い?」「半分は」「残り半分は?」「怖い」 思っていなかった答えだった。 結衣は少し黙る。「私が何かに巻き込まれるのが?」「ああ」「じゃあ、なおさら一緒に行きます」「理屈がおかしいだろ」「一人で待ってたら、もっと怖いです」 玲司が困った顔をする。「それに」 結衣は続けた。「前にも言いましたよね。守るために、私の選択肢を勝手に減らさないでって」「ああ」「私は行くって選びました」 玲司はしばらく何も言わなかった。 やがて。「分かった」「はい」「ただし俺から離れないでくれ」「そ
last updateLast Updated : 2026-10-19
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第49話 七年前、玲司には「偽の花嫁」が用意されていた

第49話 七年前、玲司には「偽の花嫁」が用意されていた 古い録音機から聞こえてきた兄の声は、玲司が先日聞いた留守番電話よりもずっと生々しかった。 雑音がある。 椅子を引く音。 紙を机へ置く音。 そして何より。 死ぬ数日前の人間とは思えないほど、九条圭司の声は普通だった。『それで桐谷さん。俺を内部告発した感想は?』『怒っていらっしゃるなら謝罪いたします』『怒ってないよ。俺もあなたを監査してるんだから、お互い様だ』『笑い事ではございません』『笑わないとやってられないだろ。俺たち、お互いを犯人かもしれないと思って一週間探ってたんだから』 玲司の口元が、ほんの少しだけ動いた。「兄貴だ」 結衣が隣を見る。「どのあたりが?」「こういうときに無駄口を叩くところ」「玲司さんと違いますね」「悪かったな」「でも最近は似てきましたよ」「それは褒めてる?」「最大限に」「……もういい」 桐谷は黙って録音機を見ていた。 七年前。 この部屋で。 今より若い自分と圭司が話している。 おそらく彼にとっても、簡単に聞けるものではないのだろう。 録音の中で、紙がめくられる音がした。『これを見てください』 若い桐谷の声。『俺の婚姻適格資料? 趣味悪いなあ』『私が閲覧したのではありません』『分かってる。桐谷さんが見たなら、もっと堂々と見ただろ』『それは信用されてい
last updateLast Updated : 2026-10-20
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第50話 家族を守る人は、誰が家族になるかまで決めていた

第50話 家族を守る人は、誰が家族になるかまで決めていた「ファミリー・キーパーというのは、人の名前ではありません」 旧九条本社の地下記録室で、桐谷はそう言った。 玲司は古い組織図を手にしたまま、露骨に嫌そうな顔をしている。「それくらいは分かる」「では、役割までは?」「知らない」「私も七年前、圭司様と調べるまで詳しくは知りませんでした」 結衣は組織図を横から覗き込んだ。 Family Continuity Division。 家族継続部門。 その責任者として置かれている、Family Keeper。 文字だけなら、子供向けの絵本にでも出てきそうな優しい響きだ。 けれど、ここ数週間で「守る」という言葉にろくな思い出がない。「何をする人なんですか」「欧州の古い富裕家や資産家一族を対象に、家族関係の危機を管理する役職です」「家族関係の危機?」「相続争い、後見問題、離婚、婚姻、未成年者の資産管理。誘拐や脅迫が起きた場合の保護計画まで」 結衣は眉を寄せる。「何でもありですね」「それだけなら、専門の弁護士や信託管理人と大きく変わりません」「じゃあ問題は?」 桐谷は一枚の資料を取り出した。「彼らは、依頼人個人ではなく」 一度言葉を切る。「家族という単位を依頼人として扱います」 結衣にはすぐ意味が分からなかった。「どう違うんです?」「例えば」 桐谷は玲司を見る。「玲司様が『この女性と結婚したい』と希望したとします」「なぜ俺で例える」
last updateLast Updated : 2026-10-21
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