第21話 この家の中に、敵がいる 本邸へ戻るまでの車内で、結衣と玲司はほとんど会話をしなかった。 篠崎から届いた写真は、玲司のスマートフォンにも転送されていた。 そこに写っているのはエマだった。 昨日の午後、庭の温室近くで一人、しゃがんで花を見ている。 ごく普通の姿だった。 だからこそ怖い。 エマが泣いているわけでも、誰かに連れ去られようとしているわけでもない。ただいつもの家で、いつものように過ごしているだけなのに、その日常を誰かが無断で覗き、撮影し、送りつけてきた。「これ、外から撮れます?」 結衣が画面を拡大しながら尋ねた。「難しい」 玲司の声は硬かった。「温室の東側には高い塀がある。外からこの角度は無理だ」「じゃあ敷地の中」「ああ」「使用人さんとか、警備の人とか」「まだ決めつけるな」「分かってます」 結衣は唇を噛んだ。 分かってはいる。 誰かを疑い始めればきりがない。 この数日、自分にもよくしてくれた人たちがいる。食事を用意してくれる料理人、部屋を整えてくれる使用人、エマが学校へ行けない間も笑顔で付き添ってくれていた人たち。 その中に一人、敵がいるかもしれない。 そう考えるだけで胸が重くなった。「エマちゃんには?」「まだ言っていない」「そのほうがいいと思います」「ああ」 玲司が短く答えた。 しかし数秒後。「結衣」「はい」「君は今夜、別の場所へ移れ」 結衣はゆっくり顔を向
最終更新日 : 2026-09-22 続きを読む