All Chapters of 一夜の相手は、私から奪われた婚約者でした: Chapter 41 - Chapter 50

56 Chapters

41・サンドラ・ウッドとリリアナ・ヴェール

 アルフレッドは予想もしていなかったアドルフからの質問に声を失い、手にしていたロケットに視線を落とす。そこにはあの夜、白檀の女が落としていった銀のロケットが握られている。「……どうしてこれがリリアナのだと?」「だってそれローズ叔母さんのお気に入りで僕も持ってるから。ちょっと待っててください」 それだけ言ってアドルフは席を立ちサロンを出ていく。 しばらくして戻って来たアドルフの手には、確かに銀のロケットが握られていた。「ほら、一緒でしょ? 叔母さんは子どもたちの誕生日にこれを渡してたんです。ちょっと貸してください」「あ、ああ」 アルフレッドがロケットを渡すと、アドルフが手慣れた様子でロケットを開き、ロケットの鎖が繋がった部分のツマミを回した。すると、ロケットの裏側が開いたではないか!「こんな仕掛けがあったのか」「ええ。ああほら、やっぱり」 そう言ってアドルフはロケットの裏側をアルフレッドにも見えるよう掲げてくれる。そこにははっきりと『愛するリリアナへ。十五歳の誕生日に』と書かれている。「……では、あの夜の女はリリアナ……?」 思わず呟くと、正面に座っていたアドルフの顔が険しくなる。「なんです? あの夜って。あんた、もしかしてリリアナに何かしたんじゃないでしょうね?」「何か……そうだな。俺は彼女にとても酷い事をしてしまったんだ。だから謝りたくて彼女をずっと探していたんだが……」 手のひらのロケットを握りしめて視線を伏せたまま言うと、アドルフが大きなため息を落とす。「まぁ彼女は馬鹿みたいにお人好しなんで、別に怒っちゃいないと思いますよ」「……だといいが。とりあえずありがとう。ロケットの秘密を教えてくれて助かった」「どういたしまして。僕もあんたじゃなきゃ話さなかったと思いますよ」「どういう意味だ?」 アドルフの言わんとしている意味が分からなくて尋ねると、アドルフは肩を
last updateLast Updated : 2026-10-13
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42・真実

 目の前に、あの夜落としたロケットがぶら下がっている。 リリアナはその光景をどこかぼんやりした様子で眺めていた。ゆっくりと振り子のように揺れるロケットは、まるで今のリリアナを笑っているかのようだ。「どうして急にそんな事……」 あまりにも突然だった。何もかもが急すぎた。 咄嗟に嘘をつこうと思ったのに、あまりの出来事に声が震え指先から冷たくなっていく。 アルフレッドの顔を見るのが怖くていつまでも視線を上げないリリアナに、彼がどう思ったのかは分からないが、きっともう全てを知ってしまったのだろう。「ここは冷える。リビングへ移動しよう」「……はい」 もう言い逃れは出来ない。アルフレッドの声がそれを物語っていた。 リビングに移動するとアルフレッドがすぐさま暖炉に薪をくべて火をつけ、火かき棒で薪の場所を調整している。その様子はとても手慣れていて、幼い頃から叩き込まれたのだろうという事が伺えた。「こちらへ」 その声に従うとアルフレッドはそのまま暖炉の前の絨毯に直接座り、自分の隣にはクッションを置いてそこを数回叩く。まさかアルフレッドが絨毯の上に直接座るだなんて思ってもいなかったリリアナが固まっていると、アルフレッドが自嘲気味に笑う。「行儀が悪いと思うか?」「いえ」「正直に言っていい。だが部屋が温まるまではここが一番暖かい。それに火を見ると落ち着く」 リリアナは頷いてアルフレッドの隣に座ると、アルフレッドが不意にリリアナの手の甲にロケットを置いた。「もう落とすなよ」「はい」「その子の父親は、俺なんだな」「……はい」「そうか。色々と言いたい事はあるが、その中でもそれが一番嬉しい真実だ。何せ今の俺はすぐにでも産婆に転職出来そうなほど、胎児には詳しい」 このヒリつくような空気が嫌でどうにか場を和らげようとアルフレッドが言うと、リリアナは少しだけ笑ってくれた。「いくつか聞きたい。教えてくれるか?」「はい。もう何も隠す事は無いので」
last updateLast Updated : 2026-10-14
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43・すれ違う心

 自然と口についた謝罪にリリアナが驚いたように顔を上げ、泣き出しそうな顔で尋ねてくる。「どうしてあなたが謝るんですか?」「どうしてだろうな。俺の意識がしっかりしていれば、君の置かれていた状況は少なくともここまで悪くはならなかったかもしれない」「それはどうでしょうか。多分、妊娠していなかったぐらいじゃないでしょうか」 リリアナが震える声で言って腹部を撫でると、その様子をアルフレッドが何か堪えるような顔をして見ている。「だが君にとってはその方が良かったんじゃないか?」 そもそもリリアナは望んで妊娠をした訳ではない。それはどれほど不幸な事だろう。 男のアルフレッドでもそう思うのだ。きっとリリアナもそうに違いないと思っていたのに、リリアナの表情は思っていたよりも切なげだ。「正直に言うと、最初はそう思った事もありました。でも今はそんな風には思わない……この子が居たから、私は色んな決心が出来たんです」 妊娠をしていたからアルフレッドに隠し通す決心がついたし、心細くなかった。そういう意味ではこの屋敷の中でリリアナの味方はこの子だけだったのだ。「そうか。だがこの屋敷にはその子以外にも仲間は居ただろう? 彼らには打ち明けようとは思わなかったのか?」 とは言うものの、万が一そんな事があればきっとアルフレッドはもっと傷ついていただろう。 いつの間にかアルフレッドは自分がリリアナの一番で居たいと願っているのだと、この時ようやく気付いた。 そんなアルフレッドの心など知らないリリアナは、静かに言う。「そうですね。ラボの皆は今ではまるで家族のような存在です。苦楽を共にした大切な家族……だからこそ言えなかった。私はあの世間を騒がせているリリアナですだなんて」 世間ではリリアナは勝手に結婚発表をすっぽかし、挙句の果てヴェール・ノワールの機密情報を持ち出した最低な長女という事になっているのだから。「そうだったな。ではあれは誤報だったという事か。君が持ち出した機密情報というのは一体何だったんだ? あれがそもそも嘘なのか?」「いいえ。あれは母の
last updateLast Updated : 2026-10-15
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44・婚約破棄と拒否

 淡々としたリリアナの口調にアルフレッドはとうとう怒鳴った。「婚約破棄だと? そんな事はしない! 絶対にだ!」 アルフレッドの思いは何も伝わっていなかったのか。不器用ながらも態度で示してきたつもりだったし、多少ぐらいはリリアナにも伝わっていると思っていたのに、それでもリリアナはアルフレッドを信用出来なかったと言う。 その割にはリリアナの顔は今にも泣き出しそうに歪み、声と指先は震えていた。「ですが、もう私の企みは全てバレてしまいました。これ以上、愛のない生活を続けるのは無理です。それにもうどのみち限界だったんです。だから私は既に新しい家の手配を済ませているので」「聞いていないぞ! では生活費はどうする⁉ 検診は⁉ その子は俺の子だぞ!」「アルフレッド様! 私には夢があります! 私は自分のブランドを持ちたいのです! それが母の夢でした。そして私の夢でもあります!」「ではその肝心の母の事を調べるのはもう止めるのか? 君はその為に偽名まで使ってここに入り込んだのだろう⁉」「それはそうですが……」 リリアナは視線をアルフレッドから外した。アルフレッドの優しさも少し心配性な所も意地悪な所も不器用な所も、全てが本当は愛しく感じていたから。 けれどアルフレッドの為にもリリアナはここを出なくてはならない。リリアナがサンドラだとフィオナ達には既にバレているし、もしそれがハインツに漏れでもしたら、アルフレッドの身が危ないかもしれないのだ。「許さないからな。絶対に」 アルフレッドはもう一度はっきりと言ってリビングを後にした。残されたリリアナがどんな顔をしていたかは分からない。分かったとしても、側を離れたらアルフレッドはその顔を次の瞬間には忘れてしまうのだから。 一方、リビングに残されたリリアナは泣いたりしなかった。悪いのは自分だとよく理解していたからだ。「お父様を怒らせちゃったね」 腹部を撫でながら呟くと、プチプチと腹部の中で何かが弾けるような感覚がする。リリアナは自嘲気味に笑ってさらに話しかけた。「お父様はああ言ったけど、近々ここを出ようね。母様と二人きりになってし
last updateLast Updated : 2026-10-16
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45・振り返りたい。追いかけたい

「……そうか」 この数日間、アルフレッドはずっと考えていた。リリアナにとって自分の存在は一体何だったのだろうかと。 けれどいくら考えてもリリアナにとってアルフレッドは媚薬に侵された身勝手な男で、挙句の果てに妊娠させたような最低の相手でしかないのだ。 それでも母親の事を調べたくて身分を偽りアルフレッドと契約婚約をし、挙句の果てには自分のではないブランドなど立ち上げさせられて……。 アルフレッドはフォークを静かに置くと、小切手をテーブルの上に置いてリリアナの方へ滑らせた。「使え。金があって困る事はないし、無くなったらすぐに知らせてくれ。君の生活費は俺が出す」「そ、そんな事出来ません!」 てっきり出ていく事を反対されるだろうと身構えていたのに、アルフレッドはどうしようかと思っていた生活費まで出してくれるという。 それでは何の為にアルフレッドの元を去るのか分からないし、去った後もリリアナとアルフレッドが繋がっているというのがフィオナ達に知られてしまうかもしれない。「ではこれは給料だ。働き口が見つかるまでは、君には今まで通りメロウ・ブルーの代表調香師で居てほしい」「……でも」「でもじゃない。君がヴェール家から何を守ろうとしているのかは分からないが、俺だって君とその子を守りたいんだ。頼むから、せめて産まれるまでは目の届く所に居てくれ」 これが最後のアルフレッドからのリリアナへの願いだ。アルフレッドの事を許せなくても、せめて生活の基盤だけは支えさせてほしい。 今までアルフレッドは無意味に権力を振りかざしたりはしなかったけれど、生まれて初めて誰かの為に自分の力を使いたいと思っている。「期限はそうだな……俺がエバンズ家の正式な後継者になるまでだ」「……分かりました」「あと、ルークを近くに潜ませる。君は友人と住むんだろう?」「はい」 そんな事まで調べていたのかと思い目を丸くすると、アルフレッドは苦笑いを浮かべて続ける。
last updateLast Updated : 2026-10-17
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46・自分の心と向き合う時、ようやく見えたもの

「またか……今度は何する気なんだ?」「さあ? ただ、最近アイリーンは以前ラボに居た人たちにしつこく会いに行ってるみたいなんだ。大体が門前払いを食らってるみたいだけどね」「そりゃそうだろう。リリアナの従兄弟の話ではアイリーンとその母フィオナは相当嫌われてるぞ」 あの時のアドルフの声は未だにアルフレッドの耳に残っている。特にフィオナに対する嫌悪は酷かった。「何にしてもあちらはまた何かするつもりなんじゃないかなって。奇しくも、もうすぐあちらの周年記念だし?」「そう言えばそうだな。するとしたらそこで何かを発表するとかだろうか」 今、ヴェール・ノワールは相次ぐ失態に評判が地に落ちている。この周年で盛り返す事が出来なければ、きっともう後が無い。「この事、リリアナの耳には入れるなよ。ただでさえ彼女は体調を崩しているんだ。これ以上心労を増やしてやりたくない」「分かった」 それだけ言ってルークは執務室を出ていく。 アルフレッドは検診結果を見てため息を落とす。「また体重が落ちてるじゃないか。アイスは食べていないのか?」 リリアナがこの屋敷に居た時は毎日アイスは一つだけという約束を忠実に守り、夕食後にデザートに出たアイスを暖炉の前で美味しそうに食べていた。『これ凄く美味しいです! この子も喜んでます!』 なんて、いつも言い訳をしながら。 いつもアルフレッドはそんなリリアナを見て目を細め頷いていた。そんな些細な事がアルフレッドにとっていつの間にか代えがたい幸せになっていたのだ。「どうして疑ってしまったんだろうな。叔父絡みの疑惑が晴れた時点で、ありのままのサンドラを受け入れるべきだったのに」 それなのに、いつまでもあの白檀の女とサンドラを重ねようとしてしまった。 結果としては同一人物だった訳だが、アルフレッドが傷ついたように、リリアナにとってもアルフレッドの行動はずっと疑われているような気分だったに違いない。「俺はずっと、自分の事ばかりだったんだな……」 ただでさえリリアナはヴェール家から身を隠
last updateLast Updated : 2026-10-18
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47・互いの本音。近づく距離

 アルフレッドが病院に駆けつけると、そこにはセレスティアと思われる人物とフィンが居た。「君がセレスティアか?」「ええ。思ったよりも早く来たのね。びっくりしたわ」 腕を組んで金色の長い髪を編み込んだ気の強そうな美人にアルフレッドは怖気づくこともなく言う。「全ての仕事をキャンセルしてきたからな。そしてフィン、久しぶりだな」 彼は今日も『霧の果て』をつけているのですぐに分かる。「どうも。で、今更何の用です? ティア、どうして呼んだんだよ?」 調香委員会の仕事ではないからか、今日のフィンはやけに攻撃的だ。「どうもこうも、リリーが呼んでくれって言ったからよ」「そうなのか?」「ええ。呼んだと言うよりは、うわ言を言ったってだけなんだけど」 セレスティアの言葉にフィンは苦々しい顔をしているが、それを聞いたアルフレッドにとっては微かな希望のようにも思えた。「知らせてくれてありがとう。状況を教えてくれるか?」「朝、私が仕事に行くときは普通だったの。でも帰ってきたらあの子、キッチンで倒れてて……だから私、慌ててルークを呼びに行って、それで……」 そう言ってセレスティアは俯いた。組んだ両手は細かく震え、声が上ずっている。気丈に振る舞いはしていても、やはり怖いのだろう。「そうか。それで彼女は?」「まだ眠ってる。でもあなたが来たなら私たちは退散するわ。リリーをよろしくね」「ああ」 セレスティアはまだ何か言いたげなフィンの腕を引っ張り、病院を出ていく。 一人になったアルフレッドは目の前の病室に静かに入室した。 白い簡易のパーテーションを避けると、久しぶりに見た青白いリリアナに息を飲む。 髪の色は変わっているし化粧もしていないが、その美しさは少しも失われていない。「それが君の本当の姿なのか。やはり君はアドルフの言う通り美しいんだな」 アルフレッドはそっとリリアナの髪を撫で、頬を撫でた。 するとリリアナは小さな声を漏らし、ゆっくりと目を開けアルフレッドを見
last updateLast Updated : 2026-10-19
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48・足りなかったもの

 微笑みながら言うアルフレッドに、リリアナは少しだけ心を明け渡してみようと思った。この人を心の底から信じたかったからだ。「最初の夜、あの時は私もアルフレッド様を利用したんです。身体と引き換えにヴェール家から逃げられるならって思って……」「それはお互い様だろう? 俺はあの時おかしな薬のせいで完全に理性を失っていた。本音で言うと処理さえ出来れば誰でも良かった訳だが、今は抱いたのが君で良かったと心の底から思っている。もしあの夜の女がアイリーンだったら、俺は今頃牢獄で暮らしているような気分だったと思うぞ」「それに私は母がエバンズ家と繋がりがあったと分かって、あなたの秘書に応募しました。その秘密を探るためだけに」「今だから話すが、そもそもあれも俺が募集した訳じゃなかったんだ。全ては叔父の差し金だった。俺が気付いた時には既に新聞に告知されてしまっていてな、面接だけはどうにか自分でやると言って君を採用した。けれど君に叔父の息がかかっていないとは言い切れないだろう? だから最初に試すような事をしたんだよ」「そうだったんですか?」 そんな裏話など全く知らなかったリリアナは、ようやくアルフレッドが自分を疑っていた理由を理解した。アルフレッドとガストンの仲はリリアナから見ても険悪だ。「ああ。だが途中から、もしかしたら君こそがあの白檀の女なのではないかと思いだしてな。ここからは完全に俺のただの興味だったんだ」「そもそもどうしてあんなにもあの夜の事を尋ねてきたんです? だって、たった一夜の事なのに……」 リリアナには未だに分からなかった。どうしてあんなにも執拗にあの夜の事をアルフレッドが蒸し返してきたのか。あの時は絶対にバレてはいけないという思いから慣れない嘘に嘘を重ねる羽目になり、息が詰まりそうだった。 その質問にアルフレッドは言いにくそうに少しだけ視線を逸らす。「香りが……」「香り?」「ああ。知らない香りだったんだ。正直に言うと、薬のせいでおかしくなっていたのは最初の一度だけだ。二回目からは理性も戻っていたが、あの酔うような白檀の香りをどうしても
last updateLast Updated : 2026-10-20
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49・全てを手に入れる覚悟

「当然だ。君に借り物の名は相応しくない。何か必要な事があればルークに伝えてくれ。君はまだ戻らないんだろう?」 本当は今すぐにでも戻って来て欲しいと言いたいが、きっとリリアナはそれを良しとしない。穏やかな見た目に反して意志の強い女性なのだ。「はい。今戻ったら、アルフレッド様まで危険に晒される可能性があるので」「さっきも言っていたが、それはどういう意味なんだ? アイリーンやフィオナの事を言っているのか?」「いえ。ハインリヒさんです」 フィオナやアイリーンに知られるのは別にもう構わない。彼女たちはサンドラがリリアナだと知っているし、この子の父親がアルフレッドだという事も知っているからだ。 けれどハインリヒにだけは知られる訳にはいかない。まだ直接的に何かをされた訳ではないが、フィンからの情報を思えば決して油断出来ない相手だ。「ハインリヒ? 彼に何かあるのか?」「実はハインリヒさんは今までに12回も結婚していて、その12人の妻は既に亡くなっているそうなんです……」「それは……本当なのか?」 アルフレッドが思わずリリアナを凝視すると、リリアナがコクリと頷いた。「元々はフィンからの情報だけだったんですけど、調香師の伝を使って調べたらどうやら本当らしくて」「だがそれだと余計に戻ってきた方が安心じゃないか? アイリーンとフィオナは既に君の正体を知っているんだぞ?」「最初は私もそう思ったんですけど、よく考えればあの二人が私の情報をハインリヒさんに流すとしたら、それはもう後が無くなった時だと思うんです」「それはつまり、ハインリヒに君の情報を渡すのは最後の切り札だという事か?」「はい。それまではどうにかして私とアルフレッド様を離そうとしてくるかなって」 フィオナはどうか分からないが、アイリーンは少なくともリリアナがアルフレッドの婚約者で居る事が気に入らないというだけだ。「なるほどな。それで君は屋敷を出ようと思った訳か」「はい。こうしておけばあの二人の溜飲も少しは下がるかと思って」 本当はこれ以上アルフレッ
last updateLast Updated : 2026-10-21
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50・偽物のレシピと本物のレシピ

 アルフレッドは新聞の広告を見るなり、新聞を机に叩きつけた。「白檀だと⁉ あの女、またリリアナの功績を盗む気か⁉」 あの夜の白檀の香りはリリアナが作ったものの中でも群を抜いて出来が良い。 こんな言い方をしたくはないが、あの香りはリリアナ自身の為に作られた物だと言っても良いほど、彼女によく合っていた。「アル、落ち着いて。リリアナ嬢達は冷静だ。まるでこうなる事が最初から分かっていたみたいに」「どういう事だ?」「これを君に、だってさ。この広告を見るなり彼女達は早速動き出したようだ」 笑みを浮かべてそんな事を言うルークの手には分厚い大きな封筒が持たれている。「これは?」「フィンから入手したアイリーンが提出した新レシピ。フィンはもちろんこのレシピがリリアナ嬢の物だって知ってるから、委員会に通す前に写して僕に持ってきてくれたんだ」「お前、やけにあの二人と仲が良いな。一体どうやって取り入ったんだ?」 フィンがそんな事をするなんて信じられなくてルークを問い詰めると、彼は両手を上げて話し出す。「リリアナ嬢を守るにはエバンズ家の後ろ盾は無くてはならない。かと言って直接君が匿うことも出来ないから僕が橋渡しをする。怪しまれないようにテイアの恋人って事にしておこうって提案したんだよ」「なんて奴だ」 幼馴染でもあるルークの大胆さに呆れながらもアルフレッドは渡された資料を読み込んだ。封筒の中にはリリアナが保存していたと思われるあの白檀の調香資料も含まれている。「流石だな。この試験回数は異常だ」「全くだよ。僕もこの資料を読んで自分の目を疑ったんだ。彼女は調香する為に生まれてきたような人だ」「ああ、全くだ」 もちろん彼女の魅力はそれだけではないが、それはアルフレッドだけが知っていれば良い事だ。「これでアイリーンは終わりだ。ルーク、反撃の準備を。彼女の名を取り戻す」「了解」 アルフレッドの言葉にルークは資料を持って部屋を出ていく。 リリアナはまだ入院しているので発表会には参加出来ないが、リリアナがこうしてアルフレッドに資料を渡してきたと
last updateLast Updated : 2026-10-22
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