「すみません、この女性に見覚えはありませんか?」「いいえ」「申し訳ないですけど、見たことないですね」「なんとなく見覚えあるような。でも思い出せないな」3日が経っても、手がかりは何ひとつ掴めなかった。まるで大海原で針を探すような、あるいは迷路に迷い込んだような焦燥と無力感が、日に日に募っていった。夜、駿平は川沿いの小さなバーに足を踏み入れた。薄暗い店内には、ステージでギターを弾きながら懐かしい曲を歌う歌手の姿があった。駿平は隅の席に座り、度数の強い酒を頼んだが、ほとんど口をつけないまま、窓の外の川面と揺れる提灯の光を虚ろな目で見つめていた。ふと、視線が1点に釘付けになった。カウンター席に、白練色の上品なワンピースをまとった女性が座っており、その横顔がふと目に入った。背を向けて座り、長い髪をシンプルなヘアクリップでゆるくまとめ、すらりとした首筋と白いうなじを覗かせていた。夏生に間違いない!駿平の心臓は、その瞬間、ハンマーで殴られたかのように一度止まり、それから狂ったように早鐘を打ち始めた。血が頭に上り、耳の奥で鼓動が鳴り響く。駿平はほとんど倒れ込むように立ち上がり、目の前の椅子を跳ね飛ばしながら、数歩でカウンターに辿り着いた。手を伸ばし、ペンを握った夏生の手首を掴んだ。夏生の動きが止まり、ゆっくりと顔を上げた。自分を掴んだ相手を見て、その澄んだ瞳にごくわずかな揺らぎが走った。まるで静かな湖面に小石を投げ込んだように。だが波紋はすぐに消え、残ったのは冷たく、底の見えない静けさだけだった。「すみません」夏生は口を開いた。声は小さいが、はっきりと冷たく響いた。「人違いです」夏生は力を込め、手を引き抜こうとした。駿平はさらに強く握った。指先がわずかに震えていた。彼はむさぼるように、その顔を見つめた。肌のきめ、輪郭の細部に至るまで。そのすべてが見知らぬものであるはずなのに、なぜか強く心を揺さぶってくる。苦しみ、後悔、失ったものをようやく見つけた歓喜、そして自分自身にも説明のつかない、もっと深いところにある感情が、胸の内で激しくぶつかり合っていた。「……人違いなんかじゃない」駿平の声は、ひどくかすれていた。「夏生。俺だ。やっと見つけた。一緒に戻ってきてくれ。ちゃんと話し合おう」
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