All Chapters of 女神様にハイエルフとして長生きする様お願いされました。: Chapter 41 - Chapter 50

65 Chapters

偽りの救い

長い一本道の通路の先にようやく出口となる両開きの扉が見えてきた。 先頭を走っていたクレスとメルティーローズは振り返って後続の皆が到着するのを今か今かとやきもきしながら待っている。そしてマリアリア、キリヤ王子の二人も無事に到達した。 残るはエリスフィーナを抱えたガルドリックだが、彼等の後ろから足場が崩れながら迫っており、ほんの一瞬の油断も許されない状況だ。 だが、ようやくガルドリックがキリヤ王子の目の前まで到達しようかとなったその時 「絶・破裂斬!」 ードガアアアッ!ー キリヤ王子が双剣を抜き迷いなくガルドリック達との間の足場を斬りつけたのだった。 「キリヤ王子! 何を……!」 ガルドリックがキリヤ王子に叫ぶも 「何もクソもねーよ。足場が崩れるのを止めるにはこうするしかねーんでね。わりぃな」 ードガアアアッ!ー キリヤ王子がさらに剣で足場を攻撃し自分の所からガルドリック達を切り離すと ーボゴオッ! ドガアッ!ー ガルドリック達が駆けている足場は限界を迎えるようにその場で崩壊を始めた。 「これで魔王を倒した英雄の称号は俺のモンだ。現地人が転生者様を差し置いて目立つなんざ百年はえーよ」 キリヤ王子は落下していくガルドリック達に向けて吐き捨てる様に自分の願望を口にする。 「くそっ!」 ーダンッ!ー 一方のガルドリックは落ちる瓦礫を足場に思いっきり跳んだがそれでもキリヤ王子の場所まではとても届かず、ガルドリックの身体は瓦礫となった足場と共に奈落へと落下していくのだった。その時 「エリス、歯を食いしばれ」 「え……?」 ガルドリックが抱えているエリスフィーナに声を掛け彼女が言葉の意味を理解する前に 「うおおらああああっ!」 ーブオンッ!ー ガルドリックはエリスフィーナの身体を力任せに思い切りキリヤ王子達の方に向けて放り投げた。 「ガルドリックさん……!」 エリスフィーナが手を伸ばした時にはガルドリックは瓦礫と共に奈落へと落ちていくところだった。 しかし、エリスフィーナもまだ助かった訳では無く、ガルドリックに投げられた勢いは徐々に弱まっていく。このままでは届かないかと思われたが ードシャアッ!ー 「うあっ!」 エリスフィーナはキリヤ王子達が居る足場の縁にどうにか
last updateLast Updated : 2026-09-24
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埋め合わせ

「ガルドリックさん! キリヤ王子は通路を破壊して私達を見捨てるつもりです!」 エリスフィーナは半信半疑ながら、自身が見た未来の結末をガルドリックに叫ぶ。さらに 「私が弓矢で彼の気を引きますからガルドリックさんは駆け続けて下さい!」 何をすれば良いが確証は無いが、とりあえず今すぐにでもキリヤ王子は止めなければガルドリックが助からない。 エリスフィーナは弓矢を手にするとキリヤ王子に向けて狙いを定める。 一方のガルドリックもお姫様抱っこで抱えていたエリスフィーナを持ち上げ、彼女が弓矢を引き絞れる位にまで腕の自由が利く体制へと変える。 (キリヤ王子を止めるには……!) 今のエリスフィーナには彼の暴挙を止められるだけの警告となる正確な一撃を撃たなければならない使命が与えられていた。 (どうしよう……?) 印象最悪とは言ってもキリヤ王子は同じパーティーの仲間である。 まだ犯罪に手を染めていない人間に矢を射掛けるのは若干の抵抗がある。 だが、エリスフィーナが逡巡している間にもキリヤ王子の手は双剣の柄に伸びていく。 (神様……!) ーピュン!ー エリスフィーナは引き絞っていた矢をキリヤ王子に向けて放つ。 ーガツッ! ビイィィィン……ー エリスフィーナが放った矢はキリヤ王子の双剣の片方の柄を正確に射抜いていた。 「な、なにをしやがる!」 今まさに双剣の柄を掴もうと伸ばしていた手を掠める様に射られた矢にキリヤ王子は狼狽してエリスフィーナを怒鳴り散らしてきた。 しかし、エリスフィーナはそれに答えず 「メルさん! クレスさん! キリヤ王子を止めて下さい! 彼が通路を壊そうとしているんです!」 一度目はキリヤ王子が何をするのかなど分からなかったから何も出来なかったが、先が分かっていればいくらでも止めようはある。 既に今の時点でガルドリックが一度目で落とされた地点は越える事が出来ていた。 「くそが! ことごとく俺の邪魔をしやがって!」 キリヤ王子は自身を抑えに掛かろうとしてきたクレスとメルティーローズを振り払い一人でさっさと両扉の向こうへと消えてしまった。 ーガシャン!ー 両開きの大扉が勢いよく閉められる。キリヤ王子の行動はクレスもメルティーローズも唖然とさせていた。そこに 「皆、さっさ
last updateLast Updated : 2026-09-24
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嘘と癖

最後の大扉の前で立ち往生しているパーティーの背後からは崩落が刻一刻と迫ってきていた。 扉の向こうに居るはずのキリヤ王子からの応答は無く、このままでは全員の奈落落ちは確定だった。 「メル、貴女はレビテーションが使えたでしょう? 役に立つ時は今ですよ!」 「あんなん、浮遊落下でしかないもの! 滑落死の先延ばしでしか無いわよ! そんならアンタこそソアーウィングでも使ったらどうなの?」 追い詰められたメルティーローズとクレスはなんとか魔法で打開できないかと口論を始めている。 もっとも口論している時間も手段を選んでいられる余裕も全く無いのだが…… ーガラガラガラガラ……ー もう目と鼻の先まで通路が崩れてしまったその時 「俺が大剣で扉を破壊する! お前達は伏せていろ!」 ガルドリックが物理的な打撃での大扉の破壊を宣言するが 「伏せろってどうやってよ! もうギュウギュウだってば!」 足場は刻一刻と狭まっており全員が伏せて待つスペースすらもう無い。 「仕方ありませんね。メル、私の上で横たわってかまいませんよ?」 「じゃかしいわ! 気色悪い想像すんな! 変態眼鏡!」 割と余裕があるクレスとメルティーローズの二人。だがガルドリックはそんな二人に気を留める事も無く 「マリアリア、ホーリーウォールを足場代わりに出来るか?」 神聖魔法の光の壁を一時的に足場とする方法をマリアリアに提案する。 「え? ええ……。全能なる慈愛と豊穣女神……」 マリアリアは自身の役目を察したのかガルドリックの提案通りに魔法の詠唱を始める。そして 「ホーリーウォール!」 ーパアアアアアッ!ー マリアリアが唱えた光の壁は即席の足場となってパーティーの滑落を防いだ。 ーピシイッ! ガラガラガラ!ー 次の瞬間にはこれまで足場だった場所が瓦礫となって落下していってしまった。 「よし、皆伏せろ!」 大剣を抜いたガルドリックは大剣を構えるとそのまま横薙ぎに一閃 ードカアッ!ー さらに回転の勢いそのままに逆斬り上げからの袈裟斬りを放ち ードガガガアッ!ー 行く手を阻んでいた大扉を事も無げに破壊してしまうのだった。 「よし、急げ! 脱出だ!」 ガルドリックの指示にパーティーの皆が立ち上がり次々と壊れた大扉の隙間
last updateLast Updated : 2026-09-24
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切り開く未来

「……俺の知っている優しいマリアリアはもう記憶の中だけの様だ」 ガルドリックは自嘲気味に呟くとマリアリアを無視して大扉の向こうに進もうとする。そんなガルドリックの行動がマリアリアには解らず 「嘘じゃないわ! エリスフィーナさんは助からないし扉の向こうはもう危険なの!」 さっきと同じ話を繰り返すがガルドリックは深く深呼吸すると 「……俺は嘘が顔に出ると言っただけで君の何が嘘のサインかは言ってない。でも君は同じ事を皆に話すのに仕草を明らかに変えてきた……それが答えだ」 ガルドリックは悲しそうな哀れみの目でマリアリアを見る。それは深い憐憫の情を込めたやるせない彼の偽らざる本心だった。そして 「メルティーローズ、エリスを助ける。手を貸してくれ! クレスはマリアリアを見張っていてくれ!」 二人に指示を出し、扉の向こうへと戻っていくのだった。彼のその背中に 「待って! それはたまたまなの! あなたの勘違いよ!」 マリアリアの叫ぶような懇願の声が投げかけられるがガルドリックがそれに応える事は無かった。 「ガルドリック! 貴方はあのエルフに惑わされてるの! エルフは人を不幸にするって言われてるもの! 私の話を聞いて!」 マリアリアはさらにガルドリックに叫ぶがその声はただ洞窟内に響くのみだった。 「く、うぅ……!」 瓦礫を手で掴み落下しないよう抵抗するエリスフィーナの体力も限界に近付いてきた。 その姿は上から覗き込んだガルドリックからもしっかり見える。ガルドリックはすぐ後ろに居るメルティーローズに 「メルティーローズ、レビテーションは使えるか?」 「出来るけど……ただゆっくり落下するだけよ? 飛べないわよ?」 レビテーションの魔法が使えるかを確認する。メルティーローズの答えにガルドリックは 「それで良い。直ぐに俺達に掛けといてくれ」 そう言うとガルドリックは迷う事無く瓦礫を伝ってエリスフィーナの元へと降り始めた。 「ちょっと……! まだ魔法掛けてないのに……!」 メルティーローズがガルドリックの行動に信じられないと言った態度で呆れつつも魔法の詠唱を始める。 (ガルドリックさん……!) 必死に耐えるエリスフィーナの目にガルドリックの姿が映り、彼女の顔に初めて安堵の表情が生まれた。 終わりの無
last updateLast Updated : 2026-09-24
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掃討戦。そして……

魔王城を出たガルドリック達勇者パーティーは魔族領を横切ってホワイトクラウン王国へ攻め入っているはずの魔王軍の後方を突く作戦を立てていた。 その旅の間、一行は姿を消したキリヤ王子を気に掛けてはいたのだが、彼が魔王城の地下洞窟の砂地で何者かに襲われ砂地に引きずり込まれていた事など知る由も無かった。 また、事あるごとにエリスフィーナに嫉妬の感情を露わにしていたマリアリアだが、彼女は遂にはガルドリックに見限られていた。 実際、二人の間には精神的なものだけでは無くパーティー内の隊列としても明確な距離が生まれていた。 そして、彼女のその嫉妬の感情は長い付き合いがあるはずのメルティーローズやクレスですら一歩引かせてしまう程の明確な距離感を作ってしまっていたのだった。 魔族領からホワイトクラウン王国内に入った頃、草原の遥か向こうに地平を埋め尽くす多数の黒い影が見えてきた。 どうやらそれは魔王軍の殿である様だ。最前線がどうなっているかはここからは推し量れない。 だが、彼等の注意は後方から近付いているガルドリック達には向いておらず、進行方向となるホワイトクラウン王国王都の方角を向いていた。 そこで、敵との間に距離がある事と敵から気付かれていない事を利用しガルドリック達は作戦会議を立てる事にするのだった。 「さて、皆からは何か提案はあるか?」 ガルドリックが皆に意見を求める。 「挟撃は考えていましたが……これほど敵の数が多いとなると、ちゃんと作戦を立てなければこちらが全滅ですね」 賢者クレスが中指で眼鏡のズレを直しながら現状を確認する。 「んな事言われなくても分かるわよ。問題はどう攻めるかなんだから! しっかり考えなさいよね頭脳労働担当!」 メルティーローズからクレスにツッコミが入れられる。 「私とメルで可能な限り大魔法で敵を漸減するしかないでしょうね」 クレスの意見は遠距離からひたすら大魔法をブッパという賢者と呼ばれる彼の呼び名に疑問符が付く脳筋丸出しな意見だった。その意見を聞いて少し考えたガルドリックが 「……ファイアーボールを間断無く撃つ事は出来るか?」 クレスに大魔法では無く通常魔法を速射する事が出来るかどうか尋ねる。彼はメルティーローズに視線を移してファイアーボールの速射が可能か問う。 「最初の詠唱は長
last updateLast Updated : 2026-09-26
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王国からの逃亡

 その後、ホワイトクラウン王国軍と合流したガルドリック達は魔王討伐の報告をホワイトクラウン国王に行う事になった。  吉報を携えて国王の天幕にやってきたガルドリックを待っていたのは…… 「勇者ガルドリック殿、魔王討伐の栄誉……我が愚息キリヤに譲っては貰えないだろうか?」  ホワイトクラウン国王天幕での会合の第一声は、当のガルドリックすら国王に対し疑念を抱くものだった。 「無論、それなりの見返りは用意する。何なら田舎でゆっくり余生を送れる様に全ての準備を約束しよう」  ホワイトクラウン国王は我が身と引き換えに世界を救った第七王子という民衆を納得させるに十分な英雄譚を欲している様だった。  そして、キリヤ王子に魔王討伐の栄誉を受ける代わりとしてキリヤ王子行方不明の責はガルドリック達に問わない事とするというものだった。 「……承知致しました」  ガルドリックは国王からの提案をそのまま受け入れる事でホワイトクラウン国王との会合と魔王討伐の報告を終了するのだった。  一方のエリスフィーナは魔王を倒した勇者パーティーの一員として、とりわけアトレイス連邦からの援軍のエルフ達から羨望と歓迎の持て成しを受けていた。 「ねぇ、貴女が魔王を倒した一員だって言うハイエルフ?」 「やっぱり私達と髪の色違うのね〜。お婆ちゃんが言ってたの、本当だったんだ〜!」 「ところで魔王ってどんな悪い敵だったんだ? どんな形してた?」  周りをエルフ達に囲まれたエリスフィーナはすっかり質問攻めにされていた。 「魔王は身体の大きい魔族の壮年の人でとても強い相手でした。でも、私は特にそれほどの貢献は……」  質問攻めを受けるエリスフィーナはひたすら実際に即した話に訂正するが 「魔王ってのはとんでもなく強かったんだってよ!」 「でも、ハイエルフからしたら取るに足らない相手だったらしいぜ!」 「ホントに? さすがはハイエルフね〜、それに魔王と戦って無事に帰ってくるなんてさすがぁ〜!」 「魔王軍を潰走させたのも精霊魔法の力だって話よね〜」  次から次へと話に尾鰭が付いてエリスフィーナだけでは収拾がつかなくなっていた。そこへ 「エリスフィーナ、少し良いか?」  ガルドリックが深刻そうな表情で話し掛けてきた。 「どうか……されたんですか?」  エリスフィーナが首を傾げながら尋
last updateLast Updated : 2026-09-26
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東の国へ

 夜中のうちに王国軍野営地を出たガルドリック達勇者パーティーは、街道を避け人家や集落も避けながらアトレイス連邦への旅路を急いでいた。 ホワイトクラウン国境までは数日の予定だが、国境が封鎖されるより先にアトレイス連邦との緩衝地帯に入れるハズだ。 そこからはエリスフィーナの故郷のあるエルフの里の森を通り過ぎればアトレイス連邦まで一直線だ。 しかし、魔王との戦いから魔王軍との戦いを経て更にここにきて他国への強行軍となっている。 ここまでの無理のある旅というのは、パーティーメンバー皆に肉体的精神的……かなりの負担を強いていた。 ほぼ休みなく歩き続けホワイトクラウン王国の国境を越え、ようやくエリスフィーナの故郷の里がある森をパーティーが通り掛かったその時「あの……私の故郷に寄っていきませんか? 近くで野営するのでしたら里の方が安全ですし……」 既に日は沈み流石にそろそろ野営池を考えなければならない時間である。 そんな状況ならせっかく近くに来てるのだから里で休んだ方が安心出来るというのがエリスフィーナの主張だ。「しかし、俺達は人間だ。エルフ達は人間にあまり良い印象は持っていないと聞いてる」 ガルドリックが種族の違いから、アポ無しで厄介になる事は避けたい本音を漏らす。「里の人達はそうかもしれませんが……うちの両親は外の世界で冒険者として過ごしていたと聞いています。だから、大丈夫ですよ……?」 エリスフィーナが両親の過去を説明し、種族の違いによる軋轢は心配しなくて大丈夫と説得する。「まぁ、当のエリスフィーナが人当たり良いんだから大丈夫そうよね?」 メルティーローズが普段のエリスフィーナを参考に両親の人と成りを推察する。「しかし、ご厄介になるとして……食事はどうなるのでしょう? 私は菜食主義では無いのですが……」 クレスは既に止まるつもりで今日の晩ごはんの心配をしている。「私達の食事は森の恵みに依存していますが、決して植物のみと言う訳ではないですよ……」 エリスフィーナが苦笑しながらエルフの里での食事事情を説明する。 エルフの里では農耕は行われておらず、狩猟採集が食材の基本となる。 木の実や野草を食べるのはともかく、野生の鹿など子供や親子連れは避けるが、弓矢で狩りをするのも日常ではあるのだ。 もし放置すれば森の恵みを彼等に食い尽くされてしま
last updateLast Updated : 2026-09-28
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ちょっとした帰郷

 エルフの里に入った勇者パーティーはエリスフィーナ先導の元彼女の自宅に向かった。 魔王討伐に出て以来数ヶ月ぶりの帰宅となるが千年単位で生きるエルフ達にとっては数ヶ月など取るに足らない長さなのだが……ーコンコンー 「パパ、ママ、ただいま帰りました〜」 大木の空洞を利用して作られた自宅の玄関ドアをノックして返答を待つ。すると「あらぁ〜、エリィちゃん! おかえり〜♪ あら、勇者さん達もいらっしゃい!」 満面の笑みの母、エルウィンドが出迎えてくれた。「あの、すぐに旅にでなくちゃならないんだけど……休んでいっても良い?」 エリスフィーナが遠慮がちに母に尋ねると「あらあら、いつからエリィちゃんは他人行儀になっちゃったのかしら。ママ悲しいわ〜」ーグイッ!ー「ひゃっ!」 エルウィンドは入り口で遠慮がちに話す愛娘をガッチリ掴むとミミックが獲物を丸呑みするかの様にエリスフィーナを自宅に引き込んだ。「あなた達も遠慮しないで〜。さ、入って〜♪」 エルウィンドがエリスフィーナを拉致しながら後ろのガルドリック達に声を掛ける。「そ、それじゃ……お邪魔するか……?」 ガルドリックがやや引きながら家の中に入っていくと「あの子も……苦労してそうね」 メルティーローズが感想を口にしながら後に続く。「中々面白いお母様ですね。エルフらしからぬ性格をしておいでだ。実に興味深い」 クレスがいつも通りに中指で眼鏡のズレを直しながら最後尾を進む。 こうしてエリスフィーナ達は彼女の自宅にてしばしの休息を取る事になるのであった。 エリスフィーナの自宅では早速食事と入浴の準備が始められた。食事は木の実や野草、狩りをした獲物の肉などを調理したエルフ特有の郷土料理。 それに加え、森の外の街道を行く行商人から買い取った材料で作成したパンがカゴいっぱいに準備されたていた。 これは両親が冒険者時代に感銘を受けた外の世界の白パンに由来となる。 また、お風呂に関してはウンディーネにお願いして集めた綺麗な水を浴槽に張り、サラマンダーにお願いしてお湯を沸かして貰ったものとなる。 勇者パーティーの力関係もあり最初は女性陣からの入浴、その後男性陣、さっぱりとした後でそれから皆で食事という運びとなった。「いや〜、まさかエルフの里でお風呂に入れるなんて思わなかったわ〜♪」 身体をしっかり洗
last updateLast Updated : 2026-10-02
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束の間の休息

 お風呂から上がった女性陣と入れ替わりで男性陣がお風呂で汗を洗い流す最中、女性陣のエルウィンドは引き継いだ料理の仕上げを行いエリスフィーナはその手伝いをしていた。ーボオオオオッ……ー お風呂場に引き続き未だに働かされている竈門の中のサラマンダーを見たメルティーローズは「あなたも大変なのね……。さっきは疑っちゃってゴメンね〜」 ほんの少しの憐憫の情を火の精霊に抱いていた。「あぎゃ……」 サラマンダーは少し達観した面持ちでメルティーローズに返事を返すと諦めた様に竈門の中で丸まっていく。 森の民であるエルフは火を忌み嫌うものとばかり思っていたメルティーローズには、ブラックな環境で懸命に生きるサラマンダーの姿は意外そのものだった。「あの〜すいません。エルフの方達って火が苦手なのかな〜って思ってたんですけど……」 疑問は直ぐに口に出す系女子のメルティーローズがサラマンダーについてエルウィンドに尋ねてみると「そうね。確かに火は使い方を誤れば一夜で森を焼き尽くしてしまいかねない。でも、恐れるばかりでは何も変わらないわ」 エルウィンドはそう言うと竈門に手を伸ばしサラマンダーを招き寄せる。そして腕を伝わせて肩にサラマンダーを乗せながら言葉を続ける。「こうして接点を増やして互いに分かり合おうとすれば……お互いにその気持ちがあれば分かり合えるもの」「あぎゃ!」 エルウィンドとサラマンダーの心はメルティーローズの目にも確かに通じ合っている様に見えた。 先程のお風呂でも今のキッチンでもサラマンダーは使役されているのでは無く、自発的にお手伝いをしている……そんな微笑ましい光景に見えてきていた。「サラちゃん、ご飯出来たから男共をお風呂から上がらせてきてちょうだい」「あぎゃ!」 エルウィンドの依頼にサラマンダーは即答で浴室の方へと飛んで行った。そして「あちゃちゃちゃちゃ〜!」「あづっ!」 クレスとアスタルの悲鳴が直ぐに飛んできたのだった。「いやいや、参りましたよ。お父様と親睦を深めていたらお風呂がグツグツ言い出すとは思いませんでした」 未だに身体から湯気を漂わせている賢者クレスがさっきのお風呂場での惨状を語り始めた。「まったくだ。お風呂終了にはまだ時間があったはずなんだが」 父親のアスタルも腑に落ちない様子でエルウィンドに尋ねるが「お料理が出来
last updateLast Updated : 2026-10-04
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晒し上げ大会

 本心では早く別の話題に移ってほしいと必死に願っているエリスフィーナを他所に彼女の話題は続く。「エリスフィーナさんには普段からお世話になりっぱなしでした。彼女は感覚が鋭敏なのか敵をいち早く察知出来る様なんです」 ガルドリックが精霊魔法以外のエリスフィーナ自身の特技について語り始めた。 索敵役の居ないガルドリック達にとっていかに重宝していたかを語るが「はぁ……そうなんですか?」「ん〜、うちの子その辺りは普通だと思ってたんだけど……」 アスタルもエルウィンドも二人共全くピンと来ていない。それくらい普通だろ?と、いわんばかりの某小説投稿サイトで散見される無自覚系主人公みたいなリアクションのソレだ。 まぁ、アスタルもエルウィンドも共にエルフであるせいか、自分達の常識でしか物事を測れていないのだろう。 二人からすれば人間の聴力の限界などは想像も出来ないに違いない。「エリスフィーナさんはオールラウンダーに戦えるのは非常に助かっているのですが……」 ガルドリックによるエリスフィーナ評はそのまま続けられる。「エリスフィーナさんの接近戦はお母様譲りの戦い方かとお見受けしましたが……今の彼女には合っていない様に感じます」 ガルドリックはリーダーとしての意見を率直に述べていく。要は体躯に優れているエルウィンドの戦い方は、華奢なエリスフィーナには合っていないというものだった。「速さや鋭さは見事なのですが、どうしても一撃が軽くなってしまい、体重を乗せるにも限界があります」 ガルドリックは高原の村でエリスフィーナと手合わせをした時の事を思い出しながら話している様だった。「ですから、今の彼女には攻撃の後の引きの動作を素早くこなせた方が良いように思います」 すっかり駄目出し気味になってしまったガルドリックによるエリスフィーナ評だが、彼の話は両親が見落としていた着眼点であったらしい。「あらあら、そうなのね。やっぱり実際に戦ってみると違うものなのね」「エリスフィーナ、これからは射撃戦を心掛けなさい。無理して近付く事は無いんだからな」 両親がそれぞれガルドリックの話に感想を述べると「すみません……。もっと頑張ります……」 当のエリスフィーナはションボリと長い耳を垂れ下げて肩を落としてしまっている。そんな彼女の気の落とし具合に「いや、ゴブリンやそこら辺の普通
last updateLast Updated : 2026-10-04
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