第1話 人類最後の日 地上へ出た者は、もう三日戻ってきていない。 東京地下第七避難区では、その事実を誰も口にしなくなっていた。 以前ならば探索班が予定時刻を一時間過ぎただけで、通信室には家族や友人が集まり、何か連絡はないのかと担当者へ詰め寄ったものだ。しかし今では、帰還予定時刻が過ぎても誰も騒がない。通信機に雑音しか入らず、探索班の位置を示す端末から反応が消えても、人々は顔を伏せて自分の仕事を続けるだけだった。 諦めることに慣れたわけではない。 騒いでも何も変わらないと、全員が知ってしまったのだ。「お母さん、今日もお外には行けないの?」 配給所の列に並んでいた少女が、母親の袖を引きながら尋ねた。 七歳か、八歳くらいだろう。痩せた頬に似合わないほど大きな目をしていて、その目だけは、まだ世界が終わっていない頃の子供と同じだった。 母親は手にしていたプラスチック製の容器を強く握り締めた。「もう少し待っていようね。外は今、危ないから」「でも、この前ももう少しって言ったよ?」「そうだったかな」「言ったよ。ずっと前にも言った。お父さんが帰ってきたら、一緒に外へ行けるって」 母親は答えなかった。 少女の父親は二か月前、地上へ食料を探しに行ったまま帰っていない。 生死は確認されていなかったが、この世界では確認されないということが、ほとんど死と同じ意味になっていた。「東京タワー、まだある?」 少女は無邪気に尋ねた。「あると思うよ」「見たいな。私、ちゃんと見たことないもん。写真だけだから」「そうね」「お父さんが帰ってきたら行こうね」 母親はしばらく俯いていたが、やがて無理に笑顔を作った。「……そうだね」 その会話を少し離れた場所で聞いていた高城宗一郎は、視線を逸らした。 四十六歳。かつて陸上自衛隊で一等陸尉を務めていた男であり、現在は東京地下第七避難区の防衛責任者になっている。 もっとも、避難区と呼ばれてはいるものの、ここは本来、人間が長期間暮らすために作られた場所ではない。 地下鉄の旧保守施設と防災用地下設備、さらに工事途中だった地下空間を無理やり接続し、数千人を押し込めただけの場所だった。 半年前には二千八百人以上いた。 今は六百三十一人しかいない。 感染症。 栄養失調。 探索中の死亡。 そしてAIによる襲撃。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-11 อ่านเพิ่มเติม