LOGINAIが暴走し、核ミサイル、感染症、殺人ロボットによって人類の九割が失われた近未来。滅亡寸前の東京に、七年前に失踪した青年・神崎蓮が帰還する。だが彼にとって過ぎた時間は二十二年。異世界で魔王を倒し、《境界の勇者》となった男だった。さらに世界各地では、魔法使い、賢者、聖女、剣聖、そして魔王となった帰還者たちが次々と出現する。未知の魔法を前に、世界支配AI《プロメテウス》は初めて予測不能へ陥る。しかしAIは敗北するたび学習し、やがて魔法すら解析し始める。科学文明を支配したAIと、異世界を生き抜いた人間たち。地球の未来を懸けた、かつてない最終戦争が始まる。
View More第15話 西東京捜索隊 午前四時半。 東京の空は、まだ夜の色を残していた。 ただし、昔の夜とは違う。 街灯はほとんど消え、高層ビルの窓にも明かりはない。遠くで燃えている建物の赤い光と、時折上空を横切る無人機の赤い識別灯だけが、死んだ都市の輪郭を浮かび上がらせている。 神崎蓮は崩れた地下通路の入口から地上へ出ると、反射的に空を見た。「今のところ、いないな」 高城が後ろから言う。「何が」「ドローン」「見えないだけかもしれない」「朝から嫌なこと言うなよ」「戦場で楽観は死ぬ」「分かってるけど、たまには気分よく出発させてくれ」 高城は答えなかった。 代わりに周囲へ手で合図を送る。 今回の捜索隊は七人。 蓮。 高城。 医師の佐伯美奈。 防衛班から四人。 そのうち二人は、旧自衛隊や警備関係の経験者。残り二人は元会社員と工場勤務だった男だが、この半年で嫌でも銃の扱いを覚えた。 昔なら、寄せ集めと呼ばれただろう。 今では。 これが人類側の現実だった。「行くぞ」 高城が言う。「最初の区間は地上を使わない。旧地下線へ入る」 蓮が眉を寄せる。「ずっと地下?」「途中までだ」「暗いところ飽きた」「観光じゃない」「分かってる」 美奈が小さな医療鞄を背負い直す。「帰るまでに何回そのやり取りするんでしょうね」「高城が冷たいから」
第14話 勇者だって家族を選びたい 神崎蓮が西東京へ妹を探しに行く。 その話が避難区全体へ広まるまで、半日もかからなかった。 誰が最初に話したのかは分からない。 作戦会議に参加していた人間から漏れたのかもしれないし、捜索隊の準備を見た誰かが勝手に推測したのかもしれない。あるいは、蓮自身が大声で「妹を探す」と何度も口にしたせいかもしれなかった。 おそらく全部だ。「俺、この避難区では秘密を持てる気がしない」 蓮は自分の荷物を確認しながら溜息をついた。 剣。 水。 少量の保存食。 応急処置用の薬。 地図。 魔石は異世界から持ち帰ったものが残り十二個。 一つ一つが貴重だ。 この地球で魔石を補充する方法は、今のところ分かっていない。 できるだけ使いたくない。「自分で毎回あんな大声で話してたら、そりゃ広まるでしょう」 天城澪が壁際で腕を組んでいる。「俺、そんなに声大きい?」「大きい」「高城も?」「大きい」「先生は?」「佐伯先生も感情的になると大きい」「じゃあみんなじゃん」「私は静か」「怒ると怖いけどな」「何か言った?」「何も」 蓮は革袋の口を閉じた。 出発は明朝。 夜明け前。 高城、美奈、防衛班から四人。 そして蓮。 人数は少ない。 大部隊で動けばAIに発見されやすい。 それでも、行ける。
第13話 妹の痕跡 破壊した敵を回収するという作業は、神崎蓮が想像していたよりずっと地味で、しかも重労働だった。「せーの!」 高城の掛け声に合わせ、五人が一斉にロープを引く。 道路に横たわっていた重装型機械兵の上半身が、ようやく数十センチ動いた。「重っ……!」 蓮が顔をしかめる。「お前、一人で持てるんじゃなかったのか」 高城が額の汗を拭きながら言った。「持てるけど、魔力使いたくないんだよ」「人力で運んだほうが疲れるだろ」「身体の疲れは飯食って寝れば戻る。でも魔力はこの世界じゃ回復遅い」「なるほど」「納得したならもっと引いて」「隊長に指図するな」「今だけ労働者だろ!」 横でロープを引いていた防衛班の若い男が笑った。 昨日までなら、こんな状況で笑う人間は少なかった。 だが通信施設を奪還してから、避難区の空気は確実に変わっている。 危険が消えたわけではない。 食料も足りない。 医薬品も少ない。 AIの機械兵は今も周辺を巡回している。 それでも。 人間が一度でも敵から何かを奪い返したという事実は大きかった。 逃げる以外にも選択肢がある。 それを知った。「よし、もう一回」 高城が言う。「待って。腰痛い」「勇者が腰痛を訴えるな」「元だし、見た目より年食ってるんだよ」「二十八だろ」「精神年齢四十超えてる」「腰痛と関係ない」
第12話 賢者ノア・ベネット 神崎蓮が剣を腰へ差した時、高城宗一郎は入口を塞ぐように立った。「どけ」「どかない」「妹かもしれないんだぞ」「だから止めてる」 蓮の目つきが変わる。「意味分かってる?」「分かってる。お前より冷静にな」「そういうの、今いらない」「いる」 高城は一歩も退かない。「罠だと分かっていて突っ込むのは勇気じゃない。ただの自殺だ」「罠だと決まったわけじゃない」「本物とも決まってない」「だから確かめに行く」「どうやって」「現地まで行けば分かる」「そこへ何が待ってる」「知らない」「知らないから止めてるんだ!」 高城の声が部屋に響いた。 蓮も言い返そうとした。 だが、その前に天城澪が椅子から立つ。「二人とも、一回やめて」「澪」「神崎、あなたの気持ちは分かる」「分かるなら」「分かるからこそ、今出るのは反対」 蓮が黙る。 澪の家族も生死不明だ。 彼女もまた、帰還したその日から家族を探している。「もし私の弟の名前で通信が来たら」 澪は画面を見る。「私だって走り出したくなると思う」「じゃあ」「でも、プロメテウスは私たちの会話を聞いている」 蓮の表情が僅かに曇る。「あなたが妹を探してることも知ってる」「……