家に戻るやいなや、スカーレットはそのままバスルームへ直行し、シャワーを浴びた。ドレスを脱ぎ捨てて鏡に向かい合った瞬間、胸元一面に残されたダリアスのキスマークが嫌でも目に入った。彼女は唇を噛み締め、頬に再びじわじわと熱が上るのを感じた。冷たい水を何度も顔に叩きつけ、胸の中で乱れ打つ鼓動を鎮めようとした。自分に強く言い聞かせた。しっかりしなきゃダメ。ダリアスとの間に何が起きようと、全部忘れるべきなんだ。頭の中で何度も反芻したり、二人の間にあった記憶の破片をいちいち反芻して余韻に浸るなんて、絶対にしてはいけないのだと。それからの数日間、彼女は体調不良のフリをし続けた。ある日はお腹が痛いと言い、次の日は歯が痛いと言い、その翌日はメリディアン・インベストメント・パートナーズでの会議を避けるためだけに頭痛を訴えた。ダリアスと顔を合わせる心の準備が、まだどうしても整っていなかったのだ。彼から何を言われるかもしれないと考えるだけで、生きた心地がしなかった。ようやく職場に復帰してからも、彼女は必死で仕事に没頭しようとしたが、気づけば思考が自分でも認めたくない場所へと漂い、スプレッドシートをぼんやりと見つめてしまっていた。あとほんの少しストレスが重なれば、本当に精神がおかしくなってしまいそうだった。デスクを叩く軽い音が、彼女の意識を現実に呼び戻した。顔を上げると、同僚の一人が側に立っていた。「スカーレット、サンティバニェス様がお office でお呼びですよ」スカーレットはノートを手に取ると、急ぎ足でアルフォンソのオフィスへと向かった。道中、彼女は密かに溜息をついた。ダリアスと顔を合わせたくないがために言い訳ばかりしていたことが、そろそろアルフォンソにもバレ始めているのかもしれない。オフィスに入ると、アルフォンソはまるで彼女を待ちわびていたかのように扉の方へ視線を向けていた。彼女は微笑みを浮かべて挨拶をした。「お腹の具合はどうだい?」彼が尋ねた。「少し良くなりました、サンティバニェス様」スカーレットはお腹をさすりながら、小さく頷いた。……次はどんな言い訳を考え出せばいいのだろう。アルフォンソは引き出しから5冊のフォルダを取り出し、デスクの上に置いた。「四半期の数字がまだ全部揃っていなくてね。時間ができた時に、残りの集計を完成させてほしいんだ」「承知いたし
Last Updated : 2026-10-05 Read more