Todos os capítulos de 元夫の結婚式を、私が担当することになりました: Capítulo 101 - Capítulo 110

170 Capítulos

第101話 判決より先に

彰人の初公判は、2か月後に決まった。判決までは、さらに時間がかかる見込みだった。紗月はカレンダーを見たが、その日に特別な印をつけなかった。出廷が必要なら弁護士が知らせてくれる。そのとき予定を調整すればいい。判決が出るまで、人生を止めておくつもりはなかった。月曜の朝、高梨美緒が再びルミエールを訪ねてきた。1か月前、結婚を進めるか決められず、契約しなかった客だった。今回は、恋人は一緒ではなかった。「結婚しないことにしました」美緒は笑おうとして、目を赤くした。「お祝いしてもらいに来る場所に、こんな話をしに来ていいのか、迷って」紗月はティッシュを差し出した。「ご自身の決断を確かめにいらしたのなら、構いません」別れた理由を根掘り葉掘り聞きはしなかった。暴力や強要がなかったか、安全のために必要なことだけを慎重に尋ねた。美緒は、危険が理由ではなく、結婚後の子供と仕事への考えが、最後まで合わなかったのだと話した。「どちらかが間違っているわけではないのに、ずっと先延ばしにしていたんです」「では、キャンセルの連絡についても、お2人で合意済みですか?」「はい。でも親たちは、もう一度会ってみなさいって」紗月は相談記録に、『関係の修復』ではなく『仮予約のキャンセル支援』と書いた。プランナーが、2人をより戻しさせる役目まで負うべきではなかった。「私、臆病ですよね。式場まで調べて、親にも話したのに」「準備した時間が惜しいからといって、結婚しなければいけないわけではありません」「社長は、惜しくないですか? 2回も相談に乗ってくださったのに」「相談料はいただいています」美緒は泣きながら笑った。紗月は、押さえてあった撮影スタジオとドレスショップのキャンセル期限を確認した。契約前の相談段階で入れた仮予約なので、損失は大きくなかった。スタジオの予約金は全額返金できたが、ドレスショップは仮縫いの準備費を差し引く必要があった。紗月は領収書と作
last updateÚltima atualização : 2026-10-07
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第102話 初めて会うおばあちゃん

湊がまた雅子に会いたいと言ったのは、運動会の1週間後だった。「しゃしんじゃなくて、ほんとにあいたい」紗月は、すぐには答えなかった。「どうして会いたいの?」「パパとにてるか、みたいの」「それだけ?」「それから、なんでママにわるいことしたのか、きく」子供の目的は単純だった。だが、会ったあとに残る感情まで単純とは限らない。紗月は先に、子供専門のカウンセラーに相談した。事実は隠さない。ただし、子供を仲裁役や、赦す役にしてはいけないと助言された。カウンセラーは、湊が伝えたいことを絵のカードにまとめさせた。『会いたい』『怒っている』『わからない』『帰りたい』の4枚。言葉が出なくなったら、指で示すだけでも面会を終えられるようにした。雅子には、予想される質問と、使ってはいけない表現を前もって伝えた。『家族のため』『あなたを愛しすぎて』『ママが誤解して』といった言葉は禁止した。子供が大人の選択を理解し、慰めなければならなくなる言い方だからだった。紗月と蓮司も、その場で雅子の答えを代わりに直さないと決めた。条件を破ったら説明を続けず、そのまま面会を終えるつもりだった。条件は6つだった。公共の場所で会う。30分。贈り物は禁止。身体に触れるのは、湊が先に望んだときだけ。過去の説明で、紗月のせいにしない。次の約束はしない。蓮司は、そのまま雅子に伝えた。『一ノ瀬代表も来るの?』雅子が尋ねた。「同じ場所にはいますが、話はしないかもしれません」『私が謝る機会は――』「今回は、母さんの謝罪を受け取るための場ではありません。湊が顔を見て、質問するための時間です」雅子は長く黙った。『わかったわ』会う場所は、児童図書館の中にある小さなカフェだった。紗月は湊と同じテーブルに座り、蓮司は端の席を選んだ。雅子は約束より早く着いていたが、ドアの外で待っ
last updateÚltima atualização : 2026-10-07
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第103話 火曜日の約束

湊の予定表では、火曜日が青く塗られていた。蓮司が来る日だった。最初の数週間は、ブロックを組み立てた。そのあとはひらがなの宿題を見て、寒くなってからは一緒にたい焼きを買いに行った。特別な事件のない日のほうが多かった。訪問記録の欄も、だんだん短くなった。『宿題』『夕食』『ブロックの片づけ』。最初は表情まで何かを証明するように書いていた蓮司も、カウンセラーの助言を受け、必要な事実だけを残すようになった。発言を何もかも記録されれば、湊が観察されていると感じるかもしれないからだ。紗月は訪問の時間、事務所に残ることも、買い物に行くこともあった。蓮司がうまくやっているか見張る2時間ではなく、自分も自分の時間を使える2時間になっていった。湊が風邪をひいた火曜日、蓮司は玄関先に薬とおかゆを置いて帰った。訪問を断った子供が申し訳なく思わないよう、ビデオ通話も自分から求めなかった。海外出張に行った火曜日には、空港から20分だけビデオ通話をした。湊は飛行機より、ホテルの部屋のトイレがどんな形かを知りたがった。1度、蓮司が12分遅れたことがあった。会議が長引いたと先に説明せず、子供に謝った。それから、火曜日の最後の会議が30分早く終わるよう、予定そのものを変えた。翌月も、海外出張が火曜日に重なった。蓮司は出張を取りやめるとは言わず、まず紗月と湊に選択肢を尋ねた。月曜に直接会うか、火曜にビデオ通話をして週末に埋め合わせるか。湊は火曜日の青いマスを消したくないと言って、ビデオ通話を選んだ。週末の埋め合わせはいらないと言った。「どうして?」「そのひ、きょうりゅうのはくぶつかんにいくの」蓮司は、自分のいない予定に寂しそうな顔をしなかった。子供の空き時間を全部、父親の時間で埋めないことも、関係の一部だった。紗月は、その変化をわざわざ褒めなかった。湊も何度か確かめるうちに、壁の時計をしょっちゅう見なくなった。冬の初めの、ある火曜日。訪問を終えた蓮司が、玄関でためらった。「何か話がありますか?」
last updateÚltima atualização : 2026-10-07
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第104話 デートに誘わせてください

紗月が選んだのは、会社近くの小さなラーメン店だった。予約は受け付けず、テーブルの間隔も狭い。蓮司が経営してきたホテルのレストランとは、最も遠い場所だった。彼は約束の15分前に着き、外で待っていた。「中で席を取らなかったんですか?」「場所を選んだのは紗月さんなので、席も一緒に選ぶほうがいいかと思って」「並ばないといけませんよ」「構いません」2人は入り口で番号札を取った。前には11組いた。蓮司は近くのカフェに移ろうとも、余分に払って順番を早めようともしなかった。プラスチックの椅子が1脚空くと、先に座るよう紗月に勧め、自分は隣の手すりに寄りかかった。「待つの、嫌いでしたよね」「今も、好きではありません」「でも、ちゃんと待っていますね」「嫌いなのと、できないのとは別なので」紗月は番号札を折っては広げた。以前は、蓮司のせっかちさに、みんなが道を譲らなければならなかった。今日は同じように、数字が減るのを眺めている。待つ間、蓮司は何度も携帯を見なかった。紗月も仕事のメッセージ通知を切った。「緊張していますか?」尋ねられ、蓮司は正直に答えた。「はい」「取締役会より?」「ずっと」「どうして?」「取締役会には資料がありますし、発言を間違えても次の議案があります」「今日は、ない?」「今日、間違えたら、次の食事はないかもしれませんから」紗月は、ふっと笑った。「あまり、うまくやろうとしないでください。そのほうが落ち着かないので」「わかりました」番号が呼ばれ、2人は壁際の小さなテーブルに座った。蓮司は、彼女がよく食べたメニューを覚えていると、知った顔をしなかった。「何にしますか?」「汁なし担々麺にします」「では、私も同じものを」「辛いの、苦手でしょう」蓮司が少し止まった
last updateÚltima atualização : 2026-10-07
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第105話 始まりの場所で

2度目のデートは、古いホテルだった。桐生の系列ではない。蓮司と紗月が初めてまともに言葉を交わした、ホテル・白鳳の別館。7年前、紗月は下請けのウェディング会社の新人プランナーで、蓮司は買収の検討に来た桐生戦略室の専務だった。「思い出で釣るのはなし、と言ったはずですが」入り口で紗月が言った。「では、やめますか?」蓮司は言い訳しなかった。「まだ入る前です。別の場所に変えられます」紗月は古びた看板を見上げた。ホテルは翌月から閉館し、改装に入る予定だった。別館の小宴会場は、最後の無料展示に開放されていた。展示名は『残された催し』。このホテルで行われた結婚式、1歳のお祝い、企業イベントの小物を寄贈してもらった、小さな記録展だった。入場料も予約も不要だった。蓮司は場所を決めたあと、展示の案内を紗月に送り、気が進まなければ変えると添えていた。紗月は案内を読んでも、もう1日迷った。昔の場所を訪ねることが、癒やしのように仕立てられるのは嫌だった。それでも、あの日プランナーとして何を選んだのか、もう一度見てみたい気持ちはあった。「入りましょう」2人はエレベーターではなく、階段を上がった。小宴会場の天井の隅には、まだ小さな水の跡が残っていた。7年前の結婚式当日、スプリンクラーの配管から水が漏れ、新婦控室が濡れた。ホテルのスタッフは、契約した業者の責任だと押しつけ、蓮司は安全上の理由から中止を命じた。新人だった紗月は、廊下で彼を引き止めた。『中止にするなら、新郎新婦に直接説明してください』それが、2人の最初の会話だった。「あの日の私、ずいぶん失礼でしたね」空っぽのホールを歩きながら、紗月が言った。「私も同じです」「あなたは、失礼どころじゃありませんでした。花嫁の顔も見ずに、『中止だ』のひと言ですから」「配管の事故が拡大するかもしれないと思いました」「判断は正しかったです。説明も選択肢もなく、命令したのが問題だ
last updateÚltima atualização : 2026-10-08
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第106話 私たちが壊した結婚

3度目のデートは、カウンセリングルームだった。提案したのは紗月だった。「もう一度付き合うか考えるなら、結婚がなぜ終わったのか、事件だけでなく、関係そのものも見なければ」蓮司は同意した。カウンセラーは2人を、夫婦ではなく、『過去に婚姻関係があり、現在は共同で子育てをしている成人』と紹介した。「復縁を目標に、いらしたのですか?」紗月が答えた。「まだ、違います」蓮司は反論しなかった。カウンセラーは、最初の結婚式から尋ねた。最初の課題は、同じ出来事をそれぞれ3文で書くことだった。事実、そのとき感じたこと、相手にしてほしかったこと。蓮司はいきなり解釈を長く書き、カウンセラーに『紗月は不安だったはずだ』を消すよう言われた。「相手の感情を代わりに書かないでください。ご自身が見た事実だけを書いてください」蓮司は、『紗月はドレスの袖を変えてほしいと2度言った』と直した。紗月は、『蓮司は、こちらのほうがいいドレスだと答えた』『自分の言葉が消えたようで、苦しかった』『嫌だと言ったところで、止まってほしかった』と書いた。同じ結婚式でも、記憶の中心は違っていた。紗月は、首元の苦しいドレス、知らない招待客、自分の友人が入っていない名簿について話した。蓮司は、それを当時、『家の行事だから仕方ない』と片づけたと言った。「紗月さんは、嫌だと伝えましたか?」カウンセラーが尋ねた。「何度かは。ドレスの袖が嫌だと言いましたし、友達を招きたいとも」「そのとき、蓮司さんはどのように反応しましたか?」「もっといいものを選んだのだから、信じてほしいと言いました」蓮司が答えた。「嫌だという言葉を、情報が足りないせいだと扱いました」「なぜ、そうしたと思いますか?」「自分のほうがよくわかっていると、信じていたからです」カウンセラーは紗月に向いた。「そのあとも、伝え続けましたか?」「だんだん
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第107話 遠足のバッグ

冬の遠足の前日、湊はリビングの床にバッグを広げた。水筒、ハンカチ、替えの靴下、おやつ。紗月が確認するたびに、湊が指で1つずつ示した。蓮司の担当は、弁当箱のふただった。「今度は、全部ある」自信たっぷりに言った。紗月が弁当箱を確かめた。おかずの容器も、太巻きの容器も、ふたはある。その代わり、カトラリーケースが空だった。「スプーンは?」蓮司の顔が固まった。湊がため息をついた。「パパは、まだまだだね」「箸は入れたんだけど」「ぼく、おはしはにがて」蓮司はコンビニへ走らなかった。台所の引き出しから子供用のスプーンを探して洗い、湊の目の前でケースに入れた。「これでいい?」「うん。シール、はって」湊は持ち物ごとに、恐竜のシールを貼った。蓮司の手の甲にも、1枚貼った。「どうして、ここにも?」「わすれないように」翌日、保護者たちは子供と一緒に、森の体験施設へ向かった。出発前、先生は保護者に、1人の子ばかり追わず、担当の班全体を見るよう伝えた。紗月と蓮司も湊の班から外れた。親が2人来たからといって、湊だけ特別扱いにならないようにした配置だった。蓮司は救急バッグの中身を3度確認し、先生に止められた。「もう確認済みです。子供たちの名前を覚えてあげてください」彼は名簿を畳み、まず4人の子の帽子の色を覚えた。準備を重ねることと、目の前で助けを必要とする人を見ることは、違う場合もあった。紗月と蓮司も別の班だった。幼稚園が保護者を分けて配置したからだ。紗月は5歳の子4人と葉の色を探し、蓮司はおやつの箱と救急バッグを受け持った。桐生の社員研修より緊張した顔をしていた。昼食の時間、湊は友達の隣に座ると言った。3人で食べるつもりだった蓮司は、一瞬止まったが、子供を引き留めなかった。「じゃあ、お弁当はそこへ持ってい
last updateÚltima atualização : 2026-10-08
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第108話 優しい人の去り際

悠真は、シンガポールの新しいホテルの開業を任されることになった。少なくとも2年はかかるプロジェクトだった。「おめでとう」紗月が言っても、悠真は笑わなかった。「そんなにあっさり送り出されると、寂しいな」2人はホテル・オルヴィエの屋上庭園に座っていた。ルミエールとの長期提携契約を更新したあとだった。新しい担当者はすでに決まり、悠真がいなくても契約はそのまま続く。契約には、悠真個人の承認なしで動ける実務の連絡系統を付けた。以前は問題が起きると、紗月がすぐ悠真に電話し、彼が自分の権限で解決した。便利だったが、2社の関係が1人の好意に頼る仕組みだった。新しい契約には、紛争時の手順、担当者交代の基準、緊急費用の上限を記した。悠真が去ったあともルミエールが不利にならないよう、通常の単価も明示した。「もう、俺がいなくても回るんだな」「それが更新の条件だったでしょう」「わかっていても、寂しいのは別だよ」「行かないこともできるの?」「行くよ」「じゃあ、お祝いしなくちゃ」悠真は温かいコーヒーカップを回した。「蓮司と会ってるんだって?」「誰から聞いたの?」「湊」紗月は額を押さえた。「あの子、どこまで話した?」「ママとパパがご飯を食べたのに、自分は置いていかれたって」「それだけよ」「それだけじゃないだろう」悠真はしばらく庭を見た。「前なら、待ってるって言ったと思う」「待ってほしいとは、言ってない」「知ってる。だから、余計に長く待ったんだ」紗月は答えなかった。悠真は離婚後、最も苦しかった時期にそばにいた。湊が具合を悪くすれば一緒に病院へ行き、ルミエールに最初の投資家を紹介した。蓮司が現れてからも、紗月の代わりに決めようとはしなかった。優しい人だった。だからこそ、曖昧な希望を残してはいけなかった。
last updateÚltima atualização : 2026-10-08
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第109話 それぞれの次のイベント

怜奈のチャリティーイベントは、結婚式より小規模だった。それでも、決めることは多かった。寄付金はどこへ行くのか。企業のロゴをどれだけ出すか。支援者の席を、作品の価格と結びつけるか。最初の打ち合わせで、怜奈は言った。「藤堂の名前で募れば、金額は大きくなります」「その代わり、会長の宣伝に見えるかもしれません」紗月が答えた。「それが嫌で、ルミエールにお願いしたんです」2人は支援者名簿より先に、基金の執行委員会を決めた。自立支援を受ける当事者2人と外部会計士を委員に加え、当日は集まった額をリアルタイムで公開することにした。当事者の名前だけを借りないよう、会議の出席手当と決定権も保障した。委員の1人が、『自立する若者の感動的な体験談』をステージで紹介する案を消した。「寄付を受けるために、不幸を証明しなければならないイベントは嫌です」怜奈は反論しなかった。本人が望んだ場合に限り、作品の説明に自分の経験を添え、身元は終了後も公表しないことにした。紗月は撮影同意書を、成人用と未成年者用に分けた。保護者や機関が同意していても、本人が嫌だと言えば顔を撮らない条件だった。「お父様は、嫌がりそうですね」真帆が遠慮がちに言うと、怜奈は笑った。「だから、いいんです」会場は藤堂のホテルではなく、廃駅を改装した展示場にした。作品の隣には、作家の名前だけを掲げた。支援企業のロゴは、入り口の案内板の下、1列に抑えた。前日、ある大企業が、ロゴを3倍にすれば目標額の半分を出すと申し出た。怜奈は執行委員会に諮り、委員たちは断った。「金額が減っても、大丈夫ですか?」紗月が確かめると、怜奈は答えた。「大丈夫ではありません。でも、今日決めた基準を、次の支援者にも説明できます」足りない分は終了後に公開募集で補い、事業規模を縮小する場合の優先順位も、あらかじめ決めた。璃子と圭介も来場した。璃子は、結婚式のときの白いジャケットを着ていた。
last updateÚltima atualização : 2026-10-09
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第110話 尋ねてからのキス

映画は、30年前に作られた恋愛ものだった。劇場には12人しかいなかった。2人は最後列ではなく、画面を見やすい中央の席を選んだ。以前の蓮司は人目を避けるため、いつもいちばん高い専用シアターを貸し切った。今回はほかの観客と同じ列に座り、広告が終わるのを待った。上映直前、秘書室から緊急の表示がついた電話が来た。蓮司は画面を紗月に見せ、尋ねた。「監査委員会からです。出てもいいですか?」「どうぞ。始まるまで4分あります」蓮司は廊下へ出て、2分で通話を終えた。内容を説明しようとはせず、携帯を無音にして収納ボックスに入れた。仕事をすべて投げ出して愛を証明しようとしないことに、紗月はかえって気が楽だった。ポップコーンを買っていいか尋ねられ、紗月は上映中に音を立てなければいいと答えた。「ポップコーンで、どう音を立てるんですか?」「あなた、袋をずっと折っているでしょう」「覚えているんですか?」「結婚していたとき、1度だけ映画を見ました」「1度だけでしたか?」「あなたは途中で会社の電話に出て、そのまま外へ行きました」売店の前で、蓮司のカードを持つ手が止まった。「今日は、切っておきます」「急ぎの用があったら、出てください。ひと言言って、出ればいいんです」「はい」映画は、主人公たちが何十年もすれ違い、最後に再会する話だった。以前の紗月なら、じれったいと言っただろう。今もじれったかったが、言えない理由がそれぞれにあったとわかる場面では、少し泣いた。中盤、相手を守るためだと言って別れを告げる場面で、紗月は小さくため息をついた。隣で、蓮司がこちらを見かけてやめる気配がした。手を握ることも、大丈夫かと尋ねることもなかった。終わるまで、それぞれ画面を見た。明かりがついてから、紗月が言った。「あれを、どうしてロマンチックに撮るのかわかりません」「相手の代わりに、決める場面ですか?」「はい。話せば、一緒に解
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