「奈緒さんから、写真の公開範囲についてお返事が来ました。娘さんの顔が写るものは除いて、ドレスと花飾りの写真だけなら使ってよいそうです」月曜の会議で、杏奈が報告した。紗月はお礼を伝えるよう頼み、続いて真帆に、現場の精算で残っている問題がないか尋ねた。真帆はタブレットを見ていて、少し遅れて顔を上げた。「あ、はい。ありません。追加人員の費用の、最終領収書を待つだけです」「じゃあ、午後に一緒に確認しよう」真帆は画面へ目を戻した。今回も、自分が現場で決めた費用を、社長と改めて確認する仕事が残った。いつからか、業者も真帆が金額を伝えると、最後に必ず尋ねるようになった。『一ノ瀬社長の決裁は、下りているんですよね?』そのひと言のために、同じ電話を2度する日も多かった。いつものことだと思っていたのに、他社の提案書を読んでから、どうしても引っかかる。会議が終わると、紗月が真帆を呼んだ。「顔色がよくないね。今日は早く帰って。残りは私が見るから」「大丈夫です。お昼に外で1件、打ち合わせに行ってきます」「病院なら、午後の予定も空けていいよ。今週は少し休んで」本当に心配してくれていた。だからこそ、話しづらい。疲れているのは確かだったが、休んで戻れば解決することばかりではなかった。「戻ってから、お話しします」真帆はバッグを持った。社長室へ入る紗月の背を見つめ、そのままエレベーターに乗った。***昼12時30分。西麻布のレストランの奥の個室で、御堂英嗣が待っていた。アペリオ・インターナショナルのアジア統括副会長だった。立ち上がり、真帆へ手を差し出す。「お越しいただき、ありがとうございます。どうぞ、楽にしてください」まずメニューを渡された。真帆は注文を終えると、バッグから提案書を取り出した。「条件をもう少し詳しく伺いたくて来ました。入社するとお答えしたわけではありません」「承知しています。今日は、十分に聞いてください」御堂が年俸の項目を開いた。3,000万円という数字が目に入る。
Last Updated : 2026-10-28 Read more