石崎のスマートフォンからは、直近の通話履歴が消されていた。復元できたボイスメモは、1つだけだった。『全部話したら、死ぬのは俺だけだ』。音声は8秒で途切れていた。誘拐の痕跡は確認できず、出国記録もなかった。捜査官は、自ら身を隠した可能性と、誰かに脅されている可能性の両方を調べた。蓮司は雅子に、再び書面で質問を送った。5年前、石崎はどんな役割を担っていたのか。紗月の署名を複写すると、知っていたのか。彰人が瑞城コンサルティングの口座を用意したと、聞いていたのか。雅子の返事は遅かった。『石崎が書類を整えると聞いた』。『署名の方法は知らなかった』。『口座が本当に一ノ瀬紗月名義かは確認しなかった』。最後の一文を読み、蓮司は直接会いにいった。「疑っていたと、書きましたね」雅子は疲れた顔で、ソファに座っていた。「あのときは、確かではなかったの」「確認は、できましたか?」「銀行に聞けば、わかったでしょうね」「なぜ、聞かなかったんですか」雅子は窓の外を見た。「知りたくなかったのだと思うわ」蓮司は、その言葉に手を握りしめた。「私も、同じでした」「あなたと私は違う。私は初めから、紗月を追い出そうと――」「だからこそ、違わないんです」蓮司の声が低くなった。「欲しい結論があって、それに合う話だけを聞いた」雅子は長く黙っていた。「彰人は、あの子がお金を欲しがっていると言った。石崎が書類を見せた。私は……本当なら、都合がいいと思ったの」「嘘かもしれないと、わかっていながら」「ええ」初めて、雅子は理由を付け足さなかった。「わかっていて、知らないふりをした」雅子は、当時受け取った報告書の保管場所も明かした。辞任に際して個人の書庫へ移し
Última atualização : 2026-10-02 Ler mais