結婚式の3日前、気象警報の内容が変わった。予想雨量は2倍になり、午後には瞬間風速が秒速20メートルを超える可能性があるという通知が出た。蒼葉紡績文化館の会議室に集まった人たちは、同じ画面を見ながら、違うことを言った。璃子の父は、ホテルへ移せと言った。施設チームは、仮設の防水シートが持ちこたえる可能性は高いと言った。圭介は構造上の危険はないと説明した。だが、『危険がない』ことと、『雨が漏れない』ことは別だった。紗月はホワイトボードに、3つの案を書いた。1.予定どおり行い、挙式時刻を午前に早める。2.同じ会場で、屋内の動線だけを使う。3.全面的にホテルへ移す。それぞれの下に、費用、招待客への案内、安全性、装飾への影響を分けて書いた。最終判断の期限も記した。今夜9時の気象情報を基準に案を確定し、その後、風速がさらに上がれば、自動的に代替ホテルへ移る。新郎新婦の気が変わることを禁じる期限ではなく、招待客と業者に間に合うよう知らせるための基準だった。代替ホテルは、仮押さえだけした。使わなくても手数料はかかるが、安全のために残す選択肢の費用として、予算に組み込んだ。「社長は、どれを勧めますか?」璃子が尋ねた。「2つ目です」「そんなに雨が降っても?」「屋外は諦めて、新しく作った染色室のレセプションと挙式会場をつなぎます。防水シートも、もう1度補強します。ホテルへの移動は安全ですが、これまでお2人が選んできた、この場所の意味をほとんど失います」朝比奈隆之会長が鼻で笑った。「意味が、人の安全より大事だと言うのか?」「だから、屋外を諦めるんです」紗月は視線をそらさなかった。「ホテルへ移す場合、今日の午前0時までに120名全員へ、会場変更を案内しなければなりません。飲食と音響も、新規契約になります。可能ですが、費用は約1,800万円増えます」隆之が腕を組んだ。「私が出せばいいだろう」璃子が
Last Updated : 2026-09-26 Read more