挙式を終えても、雨はやまなかった。招待客は染色室の披露宴会場へ移り、スタッフは濡れた傘を番号札と引き換えに預かった。停電に気づいた人は、それほど多くない。問題が起きたのは、ネット上だった。【独占入手――朝比奈グループ、朝比奈璃子専務の非公開結婚式・招待客名簿】記事には、招待した120人の氏名と肩書がそのまま載っていた。携帯電話番号の一部に、席次まで。宮瀬真帆の顔から血の気が引いた。「このファイル、社内の共有フォルダにしか置いてません」紗月は記事を最後までスクロールした。朝比奈隆之会長が追加しようとした78人の名はない。流出したのは、最終承認版だった。「共有権限を全部切って。社員の個人端末からの接続履歴も保存」「誰がやったんでしょう」「今は、わからないと言って」紗月は、まず璃子と圭介に知らせた。璃子はスマートフォンを見下ろし、それから父に顔を向けた。「お父さんが渡したの?」隆之は不快そうに答えた。「なぜ私が、自分の客でもない連中の名簿を記者に渡すんだ」「じゃあ、誰が友達の番号まで――」「今、私を疑っている場合か。まず一ノ瀬代表の会社の情報管理を問うべきだろう」紗月が間に入った。「ルミエールの共有アカウントから流出したものか、確認中です。責任の所在が判明しましたら、契約に従って対応いたします」隆之は待っていたように言った。「だから最初から、実績のある大手ホテルにしろと言ったんだ」圭介が硬い声で口を開いた。「今日の結婚式は、無事に終わりました」「これが無事に終わったように見えるのか?」「はい。僕たちが選んだ人の前で、僕たちが選んだ形で挙げられたので」隆之は婿をにらみつけ、先に立ち去った。璃子は記事のコメント欄を開こうとして、指を止めた。「友達には、私から直接謝ります」「謝る前に、まず状況を知らせ
Last Updated : 2026-09-27 Read more