瑞城コンサルティングは、書類の上にしか存在しない会社だった。登記上の住所は多摩地区の郊外の古い商業ビル。事業目的は経営コンサルティングとイベント代行だった。従業員はおらず、5年前、数か月にわたって巨額の金が動いた後、廃業していた。神谷直人が、資金の流れを画面に映した。「瑞城の口座に5億2,000万円が入り、2日後、一ノ瀬代表名義の口座に5億円が振り込まれています。残りの2,000万円は、現金と複数の個人口座へ分散されました」「5億2,000万円の出どころは?」「桐生リゾートの海外イベント業務委託費です。当時の契約決裁者は、桐生彰人専務でした」蓮司は1枚ずつ書類をめくった。紗月名義の口座は入金当日に開設され、身分証の写しと委任状が使われていた。出金はない。1か月後には取引停止になっていた。「俺が見たのは、残高証明書だけだった」「当時の法務室も、実際の口座履歴は確認できていません」「見ようとしなかったからだ」外部の会計事務所は、資金の流れを3つに分けた。桐生リゾートから瑞城へ入った5億2,000万円、紗月名義の口座に残った5億円、現金化された2,000万円。同じ日に作成された契約書には、開催地は『東南アジアの主要都市』としか書かれておらず、参加者名簿も実施報告書も空欄だった。「この金額なら、取締役会への報告対象ではなかったか?」「契約を4件に分割しています。1件ごとの金額は専決限度額未満で、決裁時刻も10分ずつずれています」「実務担当は?」「当時の財務チーム課長、石崎雅人です。半年後、桐生彰人専務の直属部署に異動し、昨年退職しています」蓮司は人事記録と決裁ログを、証拠保全の対象に加えた。瑞城という幽霊会社だけを追えば、実際に書類を作った者たちが逃げおおせる。蓮司の言葉に、神谷室長は口を閉じた。その日の午後、紗月に関する古い記事が、再び拡散された。【独占:桐生蓮司の元妻、離婚の対価として5億円受領か】記事には残高証明書の写しが添えられていた。5年前、雅
Last Updated : 2026-09-21 Read more