一か月後。東京・有明、国際展示場のグランドオーディトリアム。NASDAQ上場予備審査通過後、注目を集めていた星雲グローバルと恵仁堂の合同基調講演。企業広報が力を入れた巨大なステージ中央には、金色の文字が浮かんでいた。【KEYNOTE SPEAKERAYAKA SAKAKIBARACEO, SEIUN GLOBAL / KEIJINDO FOUNDATION】臨月を迎えた綾香が壇上へ歩いてくる。濃紺のシルクケープドレス。髪には宗家から受け継いだ翡翠の簪。歩みは以前よりゆっくり。それでも視線は真っ直ぐだった。二千人を超える聴衆が静まる。「星雲グローバルと恵仁堂が、これから何を検証し、何に責任を持つのか。その話をします」スクリーンへ研究パイプラインが映し出される。恵仁堂に伝わる天然物資料を、現代の標準化工程と前臨床・臨床試験へ載せる計画。綾香は成功例だけを選ばなかった。前臨床で中止した候補。期待を下回った有効性指標。安全性の理由で修正した試験計画。「『伝統』という名前だけでは、データの代わりになりません」聴衆の研究者たちがメモを取る。「効果がなければ、ないと言います。副作用が見つかれば公開します。星雲グローバルが長く生き残る方法は、神秘的に見せることではなく、検証に耐えることです」質疑応答。海外研究者が質問した。「伝統医学のブランドが科学的評価を曖昧にする危険については?」綾香は英語で答える。「あります。だから仮説と結論を分けます。伝統は研究候補を与えてくれますが、効果を決めるのはデータです。間違っていれば捨てます」短い回答。一瞬の静寂のあと、拍手が起きた。「善意が、良い薬を保証するわけではありません。データ、透明性、患者安全で評価されます」客席の遼真が静かに笑っていた。綾香がここまで来るまでの多くを、自分自身で選んできたことを誰より知っている。その時、舞台袖で待っていた秘書がタブレットを持って近づいた。【速報 旧鷹城グループ親族役員十名に実刑判決。鷹城治臣元副会長、懲役十年】秘書が小声で尋ねる。「代表、記者向けコメントを出しますか?」綾香は少し考え、首を横へ振った。「今日は研究の話をしに来た日です。判決については法務部名義で、司法判断を尊重するという原則的なコメントだけ出してください」「承知
Last Updated : 2026-10-05 Read more