オーディションの翌日、番組では『職業交換』のミッションが行われた。怜奈は神崎とペアだった。「今日は一ノ瀬怜奈さんに神崎蓮さんの1日トレーニングを、神崎さんには俳優のカメラテストを体験していただきます」担当プロデューサーの説明に、神崎の顔がこわばった。「芝居しろって?」「台詞は三行です」「嫌なんだけど」怜奈は笑った。「私にはサンドバッグを殴れって言ったのに」「それとは違うだろ」「どう違うんですか?」「カメラ向けられると固まる」初めて聞く弱点に、怜奈は目を丸くした。「本当ですか?」「試合のカメラは平気。芝居のカメラは嫌だ」「なんで?」「うまくやらなきゃって思うじゃん」怜奈は笑いかけて、やめた。昨日のオーディションで、自分も同じ気持ちだった。「じゃあ、私が教えます」***まずはジム。怜奈は縄跳びを三分しただけで息が上がった。「これ、何セットやるんですか?」「5セット」「人間が?」神崎が笑った。「女優だって人間だろ」番組用に負荷は下げてくれたが、基本のステップを真似するだけでも汗が出た。ミット打ちの最中、怜奈が足を踏み外した。神崎は反射的に腰を支えようとして、手を止めた。「つかんでいい?」怜奈はもう体勢を立て直していた。「今回は遅かったですね」「くっそ」二人で笑った。撮影スタッフも笑った。以前なら大げさなスキンシップに仕立てられた場面が、今は救助未遂で終わった。***午後は小さなスタジオへ移動した。神崎に渡された台詞は単純だった。「大丈夫か?」「けがしてない?」「俺が悪かった」最初のテイクでは、三つとも点呼のような棒読みだった。怜奈は我慢できずに吹き出した。「なんで笑うんだよ」「神崎さん、本当に演技下手ですね」「知ってる」「でも、直せばいいんです」怜奈は黒崎に教わった方法を、そのまま使わなかった。神崎には別の入り口が必要だ。「試合中にセコンドがけがしたと思ってみてください」神崎の表情が変わった。「自分がミスしたせいで」「うん」「その人に言うんです」二度目のテイク。「大丈夫か?」声が低くなった。「けがしてない?」先に視線が相手の手と顔を確かめた。「俺が悪かった」今度は本物だった。担当プロデューサーがカットをかけ、拍手した。神崎は照れくさそうに怜奈を見た。「これが
Huling Na-update : 2026-10-09 Magbasa pa