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昼は潔癖、夜は淫魔 のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

40 チャプター

21話. 羽織の裾の中の口唇接治

埃が白く積もった書庫の片隅。天井高くそびえる重厚な書棚が迷路のように入り組んだ薄暗い隙間に、重々しい古書の匂いとともに、身も悶えるほど濃密な甘い匂いが立ち込めていた。ドンドンッ――!「久世殿! 中におられるか?! 上様が大広間に御着座あそばされ、御前会議が開かれようという刻限でござるぞ!」書冊閣の分厚い板戸の向こうから、柳沢の催促する鋭い怒号がけたたましく響き渡った。障子がビリビリと震え、戸の外に控える警護の番兵たちや役人たちのざわめきが波のように押し寄せてくる。「早く戸をお開けなされ! 儀礼の主務役たる者が御前会議をすっぽかすなど、大逆罪にござるぞ!」しかし道真は返答どころか、唇を開くことすら叶わず、書棚の柱を爪が砕けんばかりに掻きむしっていた。戸の方へと向けられた道真の首筋が強張った。外から呼ばれる役職名は明瞭だったが、返す言葉を選ぶ間にも息が途切れてしまう。彼は書棚に突いた手に力を込めた。指先が震えて本の背表紙に触れるたび、扉の向こうにその音が漏れ聞こえなかったかと耳を研ぎ澄ませた。道真の広い装束の裾の下、蓮花が膝をついたまま、男の下半身深くに頭をすっぽりと埋めていた。蓮花の小さく赤い唇が、西域の極陽猛毒酒によって煮えたぎる巨大な亀頭を、躊躇うことなく一口に呑み込んでいた。顎が限界まで押し広げられ、唇が縁を越えると同時に、溢れた涎がじゅるりと垂れ落ちた。んむっ、じゅるり……。ひんやりと滑らかな女の口内の柔肌が、怒張した巨根の太く青黒い血管を隙間なく包み込んだ。舌が下から柱を撫で上げ、上唇が亀頭の窪みを擦り上げる。一度には呑み込みきれぬ長さを、手で支えて扱き上げた。「ひあぁっ……んむぅっ……!」道真の背が弓なりに反り返り、白目を剥いた。喘ぎ声を上げれば扉の外の役人や番兵たちに即座に見咎められ、大逆人として八つ裂きに処される絶体絶命の危機。道真は上等な絹の袖と手の甲を血が滲むほど強く噛み締め、顎をガタガタと震わせた。氷水よりも冷たい蓮花の極陰の唾液が、熱い亀頭の先端のスリットから流れ込み、丹田を焼き尽くしていた火魔を猛烈に吸い込み始めた。冷え切った氷水に真っ赤に焼けた鉄を突き刺したかのような、ジュウという音が聞こえてきそうな冷気が全身を貫いた。蓮花の舌先が敏感な縁の窪みを丸く舐め上げ、頬をすぼめて喉の奥深くへと強く吸い寄せる。亀頭が喉の奥
last update最終更新日 : 2026-10-13
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22話. 扉の外の足音と絶頂

ドカンッ――! ドカンッ――!書冊閣の板戸が激しく軋み、天井の埃が白く舞い散った。「番兵どもは何をしておる! 直ちにその斧でかんぬきを叩き割れ!」障子の向こうから響いてくる柳沢の容赦なき怒号に、道真の全身に鳥肌が立った。露見するまで、残された呼吸はせいぜい三つか四つ。しかし道真の股間に頭を埋めた蓮花は退くどころか、かえって道真の腰骨を両手で力いっぱい掴み寄せた。蓮花の細い喉が、巨大な魔物の柱を残さず呑み込み、激しく締め上げた。鼻の頭が根元に押しつけられるほど深く呑み込まれ、息が詰まる音が漏れ出た。ゴクリ、じゅぷ、ちゅるる――ッ!極陰の冷気と魔界の火魔が女の喉の奥で猛烈に渦を巻き、道真の丹田に閉じ込められていた陽気を容赦なく搾り取った。蓮花は両手で道真の腰をぐっと自分の方へと引き寄せ、一分の隙もなく密着させた。女の喉の奥の温かく濡れた圧迫が、太い柱を搾り上げるように呑み下すたび、道真の背筋を無数の虫が這い回るかのような戦慄が滝のように流れ落ちた。呑み込む仕草のたび、蓮花の頬がすぼまる。「んんっ……はぁっ……蓮花……頼む……っ!」道真は絹の羽織を千切れんばかりに握り締め、顎を後ろへと反らせた。「ん、んんぅっ……! はぁっ……蓮花ぁっ……!」道真は目の前が真っ白に焼き尽くされる幻覚の中で、蓮花の肩を砕けんばかりに掴んだ。喉元までせり上がる快楽の波が、男の背骨をへし折らんばかりに吹き荒れた。声を漏らさぬよう唇を噛み締め、血を滴らせていた道真の腰が、ついに制御を失って虚空へと跳ね上がった。ビュルルルッ――! ドクドクドクッ――!溶岩のように煮えくり返っていた熱い白濁の奔流が、蓮花の喉の奥と食道へ向かって立て続けに噴き込まれた。最初の太い一筋に蓮花の首がゴクリと上下したが、彼女は顎を突き出し、道真の吐き出す魔界の陽気を逃さず呑み干した。呑みきれなかった一筋が、口元から溢れて顎を伝った。ゴクリ、ゴクリ……。女の細い喉が立て続けに上下し、精液を飲み下す音が道真の耳元を引き裂くように響いた。腰がさらに三度激しく痙攣して、ようやく噴出は収まった。「はぁ……あぁ……くっ……」丹田を焼き尽くしていた凶暴な火気が嘘のように抜け落ち、羽織の下の巨根はついに力を失い、大人しく鎮まった。道真はガタガタと震える手で慌てて下着の紐を引き締め、羽織の裾を素早くかき合わ
last update最終更新日 : 2026-10-13
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23話. 濡れた唇と芽生える恋情

道真の鋭い一喝に、柳沢の顔色は土気色に歪んだ。期待していた「淫らな魔物に取り憑かれた狂人」の姿など、どこにもなかった。道真の面差しは青白いほどに落ち着き払い、袴の前は平穏そのものであった。「ならば、先ほど呼んだ時にひと言でも応えられればよかったものを」柳沢が舌打ちをし、不審そうに引き下がろうとすると、道真は広げていた書物を置き、大股に一歩歩み寄った。「貴殿の勧められた西域の薬酒が口に合わず、冷水を口に含んで息を整えていただけのこと。御前会議が始まりましたゆえ、速やかに大広間へ参られよ。貴殿の無礼の是非は、上様の御前で直々に糺すことといたそう」道真が少しの揺らぎもない涼やかな足取りで先頭に立ち、大広間へと大股に歩み出ると、居並ぶ百官や使節たちは、道真の威風堂々たる気概に感嘆を禁じ得なかった。柳沢と番兵たちはすっかり呑まれ、這々の体で退散した。御前会議が続いた二刻ほどの間、道真は完璧な論理で外交文書を報告し、柳沢の息の根を締め上げた。政敵から家名と命を完璧に守り抜いた、圧倒的な勝利であった。***会議がお開きとなり、夕暮れ時になってようやく、道真は再び書庫へと忍び戻った。薄暗い書棚の片隅、蓮花が疲れ果て、本の山に身を預けてすやすやと眠っていた。彼女の赤く艶やかな唇の端には、拭いきれなかった白い精液の跡が白くこびりついていた。己を生かすため、城内の真ん中で、あの恐るべき陽気を喉の奥ですべて受け止めてくれた女。もし蓮花がいなければ、今頃は大広間の御前で血を吐いて八つ裂きに処されていたはずだった。道真は蓮花の小さな手を両手で大切に包み込み、胸に込み上げる感謝の涙をこぼした。道真の胸の奥深くから、言葉に尽くせぬ熱く切ない感情が火山のように込み上げてきた。身分の壁も、儒教の名分も、武士の体面も、この女の献身の前には何の意味もなさなかった。道真は眠る蓮花の隣に慎重に膝をついて座った。本の角に圧迫された彼女の肩が窮屈そうに見えた。彼は安らかに眠る横顔をしみじみと見つめた。月明かりの下に浮かぶ蓮花の白い顔立ちは、一点の曇りもなく清らかで可憐だった。男は懐から、もっとも大切にしていた絹の手拭いを取り出した。手拭いを広げようとして、ふと指先の力を緩めた。眠る蓮花を起こさぬよう、手つきをゆっくりと緩めたのだ。スルスル……。道真の震える手が、蓮花の口元を優しく拭い始め
last update最終更新日 : 2026-10-13
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24話. 黒幕の尾行と暗雲

江戸城での毒酒の謀略が水泡に帰した後、柳沢子明の秘密の別邸の奥座敷には、陰惨な殺気が立ち込めていた。柳沢は卓の上に置かれた白磁の湯呑みを板間へと叩きつけ、粉々に砕きながらギリギリと奥歯を噛み鳴らした。陶器の破片が四方へ飛び散って冷たい破裂音を立て、濃い茶が黒々と広がっていった。「拙者が十数年かけて練り上げた大計が、たかが若造の奉行ひとりに足をすくわれて潰えるなど、断じて許されぬ!」「あり得ぬことだ! 換陽の術に極陽の猛毒酒まで飲ませたのだぞ、何故あやつは御前会議で髪ひと筋乱れずにいられたのだ!」彼の向かいに座る黒い道服姿の怪僧が、陰鬱な声で口を開いた。「柳沢様、久世道真の体内の魔気を、何者かが完璧に浄化しているに相違ございませぬ。常の鍼術では到底不可能。尋常ならざる特異な体質を持つ者が、間近に潜んでいるのです」「間近に潜む者だと?」「久世の屋敷を徹底的に監視なされよ。必ずやその背後に、治療を行う者が隠れておりましょう」柳沢の瞳が、極北の氷よりも冷酷な殺意でギラリと光った。「久世の首を獲らねば、今度は拙者が大逆罪に問われて毒杯を賜る番ぞ。手段を選ぶな、その背後を暴き出せ!」柳沢が命を下すと、私設の刺客や密偵たちが一斉に頭を下げ、次の言葉を待った。「直ちに久世家の屋敷に密偵を張り付かせよ。鼠一匹の出入りに至るまで、漏らさず報告いたせ!」命が下されると、刺客たちは闇の中へと散っていった。***その頃、江戸・山の手、久世家の屋敷の西の離れ。濡れ縁の上に夜霧が低く立ち込め、冷たい風が生い茂る竹林をザワザワと不気味に揺らしていた。城での絶体絶命の危機を乗り越えた道真は、蓮花の身が案じられて落ち着かず、そわそわと歩き回っていた。「若様、離れの炉の火が消えかけておりますゆえ、薪を少し割ってまいりますね」蓮花が袖をまくり上げて外へ出ようとした瞬間、道真は雷のような速さで彼女の手首を掴んだ。「ならぬ! 庭へ一歩たりとも出てはならぬ」「はい? 離れの庭へ薪を取りに行くだけでも駄目なのですか?」「あの狡猾な柳沢が、城での出来事を怪しんで我が屋敷を監視しておるはずだ。そなたの存在が見つかれば、拉致されて取り調べを受けるやもしれぬのだぞ」道真の切れ長の瞳には、これまでになかった凄絶な気迫と、並々ならぬ決意が宿っていた。生涯、学問と礼法だけを重んじてきた高
last update最終更新日 : 2026-10-13
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25話. 奥座敷の密やかな同衾

江戸・山の手、久世家の屋敷の奥書斎。障子の桟の隙間から忍び込む夜風が、今宵は一段と不気味に冷え込んでいた。道真は書物を広げたまま眉根を固く寄せ、じっと庭の方角を睨み据えていた。先ほど、西の離れの裏手の竹林で、ガサリと擦れ合う不穏な足音を確かに耳にしたからだ。風に揺れる笹の音ではない。足音を極限まで殺した、刺客か密偵の忍び足の気配だった。『柳沢……とうとう我が私邸に犬どもを放ちおったか』道真は硯を握る手にぐっと力を込めた。毒酒の邪術が失敗に終わると、黒幕どもは道真がどうやって火魔を鎮めたのかを暴こうと血眼になっていた。もしあの闇に潜む者たちが離れを急襲し、蓮花の存在を嗅ぎつけたらどうなるか。極陰の体質を持つ鍼医が、夜な夜な奉行の陽気を吸い出しているという事実が暴かれた瞬間、蓮花は牢屋へ引きずり出されて無残な拷問を受け、命を落とすことになる。想像するだけでも、胸の奥で血が逆流するような恐怖と激怒が沸き上がった。単に己の家名や換陽の術の秘密が露見することを恐れているのではなかった。あの町娘――ふてぶてしく笑いながら己の命綱を握って弄んでいた蓮花が無残に傷つくかもしれないという事実が、道真の心臓を締め上げていた。道真は席を蹴立てて立ち上がり、離れへと通じる隠し戸を荒っぽく開け放った。ガラリ。離れの畳の上で、独り寝具を敷いていた蓮花が目を丸くして振り返った。「若様? 夜も更けましたのに、いかがなされたのです。また股間が燃え上がってまいりましたか?」「無駄口を叩くな、荷物をまとめよ」「はい? 荷物をまとめる、ですって? 毎月三十両分の銀払うと仰ったくせに、夜逃げ同然に追い出すおつもりですか?」蓮花が眉尻を吊り上げ、小袖の襟元をぎゅっと掻き合わせた。道真は耳の付け根が赤くなるのを必死に抑え、わざとらしく咳払いを放った。「誰が追い出すと言った! 部屋を移れと申しておるのだ」「部屋を? 離れより良い部屋が、この屋敷のどこにあるというのです……」「奥座敷だ。私の寝所である」蓮花が手にしていた枕が、手から滑り落ちてトスンと畳の上に落ちた。「……はい? 奥座敷ですって? 若様がお休みになられる、あの奥座敷ですか?」「そうだ」道真は視線を虚空へ泳がせながら、この上なく厳格で堅苦しい口調で、苦しい言い訳を並べ立て始めた。「この離れは隙間風が酷く、冷え
last update最終更新日 : 2026-10-13
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26話. ひとつの夜具の中の濃密な接治

パチッ、と行灯の灯心が消され、奥座敷は深い闇の中に沈んだ。障子の桟を通して差し込む青白い有明の月明かりだけが、畳の上に敷かれた広い絹の夜具をかすかに照らしていた。ひとつの掛け布団の下、道真と蓮花は並んで横たわっていた。道真は背筋をピンと伸ばして天井を見つめたまま、指先ひとつ動かせずに丸太のように硬直していた。隣からほのかに漂ってくる蓮花の甘い肌の匂いと、柔らかな体温。生娘の吐息が耳元をくすぐるたび、道真の心臓は今にも肋骨を突き破って飛び出さんばかりに激しく脈打った。蓮花に出会う前は、女の手に触れるどころか、着物の裾すら擦れ合わせたことのなかった潔癖な武士にとって、この妖しい同衾は拷問にも等しかった。隣で夜具がカサリと音を立てた。道真は顔を向けず、目だけを動かした。蓮花が身を横たえる姿を見届けた後も、肩の力は抜けなかった。自分から共に過ごそうと言い出しておきながら、今さら気まずそうな態度を取るわけにもいかず、唇を固く引き結んだ。カッ――!案の定、緊張と興奮が極限に達すると、股間から凄まじい炎が噴き上がった。「くっ……! はっ……!」道真の唇の隙間から、押し殺した呻きが漏れ出た。羽織を脱ぎ捨て、薄い肌着一枚だけをまとった下半身で、巨大な魔物が恐るべき勢いで膨張し、絹の掛け布団を山のように押し上げた。丹田が煮えたぎり、硬く反り立った剛直が、横を向いて眠っていた蓮花の内太ももの柔肌をズシリと突いた。「ん……若様?」眠りの中で寝返りを打っていた蓮花が、太ももに触れた熱く太い棍棒にハッと目を覚ました。「ち、近づくな……そ、そこを退け……ひっ! くぅっ……!」道真は己の下腹部を掻きむしりながら、壁際へと身を縮めようとした。暗闇の中でも、男の白玉のような頬が羞恥と高熱で真っ赤に染まっているのが見て取れた。蓮花はため息をつき、掛け布団を乱暴に跳ね除けると、道真の腰の上へと跨がった。「部屋をひとつにした途端、見せつけるように突き立ててくださいますね。大人しくしていらっしゃい、文句を言わずに」「れ、蓮花……っ! ここは奥座敷だ……ならぬ……!」「奥座敷だろうが離れだろうが、何が違うというのです。私が今弄って差し上げなければ、若様は明日の朝の登城すら叶いませんよ」蓮花の容赦のない手が、道真の肌着の紐を乱暴に引き解いた。暗闇の中で解放された魔物が、白い湯気をも
last update最終更新日 : 2026-10-13
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27話. 赤い傷痕と医師の汚名

朝霧がゆっくりと晴れ渡り、柔らかな朝の光が障子を白く照らし出した。蓮花は道真の逞しい腕の中に閉じ込められたまま、そっと目を開けた。一晩中、嵐のような接治を繰り広げて力尽きた奉行は、依然として蓮花の腰を強く抱きしめたまま、すやすやと眠りについていた。いつもの威厳ある厳しさは微塵もなかった。汗に濡れた長い睫毛をかすかに震わせ、規則正しく寝息を立てる道真は、甘える幼子のようであった。蓮花はフッと小さく微笑み、男の安らかな寝顔をしみじみと見つめた。普段は針を刺しても血の一滴すら出ぬほど冷徹に見える武士が、己の胸に抱かれて安息を見出している姿が、何とも言えず胸をくすぐった。蓮花はそっと手を伸ばし、男のはだけた胸元を改めた。道真の左の鎖骨の下、心臓のすぐ傍らにくっきりと刻まれた、赤く荒々しい傷跡。単なる刀傷ではなかった。毒気を抜き去るため、火で焼いた針を数十回も突き刺し、肉を削ぎ落とした凄惨な施術の痕跡だった。スルスル……。蓮花の冷たい指先が傷跡の上を優しく撫で下ろすと、道真は眉根を寄せ、ゆっくりと目を開けた。「うぅむ……」道真は自らの腕の中に抱かれている蓮花の顔を認めるや否や、飛び起きるように上半身を起こそうとした。しかし手足に力が入らず、再び敷布団の上へと身を沈めた。「な、何故そなたが私の腕の中に……!」「若様が一晩中、私を窒息死させる勢いで抱きしめて寝ていらしたのでしょうに、何を仰るのです?」道真の顔が一瞬にして熟れた柿のように真っ赤に染まった。昨晩、ひとつの夜具の下で繰り広げられたあの恥知らずな情炎の記憶が、雷のように頭をよぎった。蓮花は赤くなった道真の顔の代わりに、彼の胸元の傷跡を指差した。「この傷……五年前に城内で起こった『端午の毒殺未遂事件』の時のものですね?」道真の切れ長の瞳が、一瞬にして鋭く強張った。「それを……何故そなたが知っている?」「この傷は、並の医師の腕前では残せませぬ。心臓へと回り込む毒を遮断するため、『七星逆穴鍼(しちせいぎゃくけつしん)』を用いた痕跡です。その鍼術を振るえる者は、この国にただ一人しかおりませんでした」蓮花の声が微かに震えを帯びた。道真の瞳が大きく揺れ動いた。五年前、初めて幕府に出仕した頃、怪しげな毒茶を口にして血を吐き、生死の境をさまよった記憶が鮮明に蘇った。誰もが諦めかけたあの夜、一晩中付き添っ
last update最終更新日 : 2026-10-13
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28話. 武士の真摯なる誓い

柳沢子明。そのおぞましい名が蓮花の赤い唇の間から漏れ出た瞬間、道真の全身が総毛立った。すべての疑念の破片が、一瞬にしてひとつに組み合わさっていく。五年前、江田泰秀の命がけの施術によって九死に一生を得た己。そして、その名医の不当な濡れ衣の裏に潜んでいた、柳沢の暗い陰謀。道真は蓮花の小さな手を見下ろした。深川の裏長屋の薄暗い庵で蔑まれながら、泥臭く薬草を刻み、針を打っていた娘。彼女が汗水垂らして搾り取るように稼ぎ出していた銀塊は、贅沢や遊興のためのものではなかった。廃人となって横たわる父親の薬代と、飢えを凌ぐための血の滲むような生存の対価だったのだ。その華奢な肩の上にのしかかっていた過酷な年月の重みが、道真の胸の奥を錐で刺すように抉った。体面ばかりを振りかざし、冷たく当たっていたこれまでの己が、たまらなく恥ずかしく、申し訳なくなった。「愚かな娘め……」道真の唇から、低く掠れた嘆息が漏れ出た。蓮花は涙を拭い、赤くなった目で道真を睨み返した。「ええ、愚かですよ。父の仇を知りながら何もできず、ただ生き延びるために若様のモノを握って弄んでいたのですから、大馬鹿者です」「そのような意味で申したのではない!」道真は不意に手を伸ばし、蓮花の肩を抱き寄せた。常の潔癖な武士であれば考えられぬ、力強く男らしい手つきだった。「若様……?」驚く蓮花の頬に、道真の長い指先がそっと触れた。男は絹の袖で、蓮花の目元に溜まった大粒の涙を、この上なく慎重に、優しく拭い始めた。道真の黒曜石のような瞳の奥で、かつて見たこともない猛烈な炎が燃え上がっていた。「そなたの父上は忠義篤き名医であり、私の命を救ってくださった恩人だ。罪人はただひとり、あの柳沢という奸臣だけだ」道真の声は、巨岩のように揺らぎがなかった。「私が誰だと思う。一国の儀礼と法度を司る、礼参奉行ぞ」男は蓮花の冷たく小さな手を己の胸元、古傷が深く刻まれた心臓の上へと、そっと重ね合わせた。はだけた肌着の内側、逞しい生肌の上へと、女の柔らかな掌が深く密着した。ドクン、ドクン、ドクン……。力強く脈打つ道真の熱い心臓の鼓動が、蓮花の掌を通してありありと伝わってきた。「我が命と久世家の名誉、そして奉行の職印にかけてそなたに誓おう。必ずや柳沢のすべての罪状を白日の下に晒し、相応の報いを受けさせてみせる」道真の切れ長の瞳が
last update最終更新日 : 2026-10-13
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29話. 大奥様の急襲

翌日の早朝、冷たい朝露が江戸・山の手の久世家の屋敷の瓦屋根をしっとりと濡らしていた。奥座敷の中は、外の肌寒い気候とは打って変わり、濃密な熱気でぽかぽかと温もっていた。絹の夜具の下で、道真は蓮花を己の腕の中に閉じ込めたまま、遅まきながらハッと跳ね起きるように目を覚ました。生涯、卯の刻に几帳面に起き上がり、身なりを整えていた潔癖な男が、普段と異なり朝の光が部屋に差し込むまで寝過ごしてしまったのだ。「うぅん……」道真の胸元に顔を埋めていた蓮花が目を擦りながら、男の鎖骨に鼻先を擦り付けた。その無防備で妖しい吐息が触れた瞬間、道真の股間で眠っていた魔物が、再びピクピクと頭をもたげようとした。「お、起きよ! 夜が明けた……使用人どもに見られでもしたら……!」道真が耳の付け根まで真っ赤になり、蓮花の肩を押し退けようとした、まさにその刹那だった。ドンドンッ――!「道真! 中におるか!」庭先を揺るがす厳格で重々しい女の声が、障子を突き破って飛び込んできた。道真の全身に雷が落ちた。大奥様――。道真の実母であり、久世家の規律と名門の家道を厳格に取り仕切る新井夫人であった。「は、母上……?!」普段、母は息子の清廉潔白を誰よりも誇りに思い、寝所の世話すら使用人に任せていたお方だった。道真は聞き慣れた声を耳にしながらも、咄嗟に返事ができなかった。己の腕の中には、まだ蓮花が横たわっていたからだ。そんな母が、朝一番から女中や用人たちを引き連れ、奥座敷の敷居を直々に踏んできたのだ。息子の不例が尋常ではないという不穏な噂に、使用人に様子を尋ねるだけでは安心できなかったのである。「昨晩、熱が酷く登城も叶わぬほどだと聞き及んだ。母が直々に貴重な薬湯を煎じてまいったゆえ、早く戸を開けなさい」足音が縁側を軋ませながら、戸口へと迫ってきた。残された時間は、せいぜい息をひとつ、ふたつ吸う間。道真は慌てふためき、畳の上を転がるように起き上がった。「れ、蓮花! 早く隠れろ! 早く!」「どこへ隠れるのです! この狭い部屋のどこに隠れる場所が……きゃっ!」道真は有無を言わさず蓮花を抱き上げると、寝床の奥深くにある大きな押入れの中へと押し込んだ。着物と分厚い夜具の隙間に蓮花を押し込むようにねじ込んだ道真は、震える手で戸をピシャリと閉ざした。そして肌着の紐をガタガタと震えながら結び、脱ぎ
last update最終更新日 : 2026-10-13
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30話. ひざまずく奉行と涙の懇願

カツン――ッ!母の持つ杖が、畳を鋭く打ち据えた。落ちていた浅葱色の髪飾りを杖の先で指し示す母の手は、怒りでワナワナと震えていた。「これは一体、何であるか!」母の鋭い一喝が、奥座敷を激しく揺るがした。「一国の礼参奉行が起居する清廉なる寝所に、何ゆえ賤しい女の髪飾りなどが転がっておるのだ!」道真は背筋に氷水を浴びせられたように身を固くした。昨晩、蓮花の髪をかき抱くうちに、布団の脇へと落ちてしまった結び紐だった。「は、母上……それは……」「女中どもは何をしておる! 直ちにその押入れを開け放ちなさい!」母の怒号に、屈強な女中たちが押入れへと駆け寄った。「なりませぬ! 母上、おやめください!」道真が遮ろうとしたが、ガラリと音を立てて押入れの戸が無残に開け放たれた。布団の山の間で身を縮めていた蓮花が、ついにその姿を現した。暗がりから這い出てきた蓮花は小袖の襟元が乱れ、白玉のような鎖骨のあたりが覗いていた。さらに、一晩中道真の激しい口づけを受け止めていた赤い唇は、水気を帯びてふっくらと腫れ上がっており、一目見ただけで情事を終えたばかりであることが明白だった。「なんということ……お釈迦様……!」母が首筋を押さえてよろめいた。「深川の裏長屋から雇い入れたという、あの賤しい鍼医の小娘ではないか! よくもこの久世家の寝所に忍び込み、淫らな真似を……!」母の瞳に、激しい怒りの炎が燃え盛った。「女中ども、直ちにその女を庭へ引きずり出しなさい! 簀巻きにして骨をへし折り、町奉行所へ破廉恥罪で突き出して石抱きの刑に処してやりましょう!」屈強な女中たちが雪崩れ込み、蓮花の華奢な腕を乱暴に掴み取ろうとした。蓮花が唇を噛み締め、諦めたように目を閉じかけた、まさにその刹那だった。ドガンッ――!鈍く重い衝撃音が、床板を激しく揺らした。「……道真?」母の息が止まった。広間でも、上様の御前でも一本気で毅然としていた息子・久世道真が、板間に両膝をつき、額を床へと叩きつけていたのだ。男は白玉のような額を硬い床に何度も打ちつけ、血を滲ませていた。「母上! どうか……息子の命をお助けください!」「み、道真! お前は今、何を血迷うておるのだ! 早く立ち上がりなさい! 一国の高官が、あろうことか賤しい町娘の足元で額を擦り付けるなど、久世家の先祖代々がお嘆きになるぞ!」「こ
last update最終更新日 : 2026-10-13
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