私は枕元のナースコールを押し、看護師に点滴を入れ直してもらうよう頼んだ。晃人は怖がって目を閉じると、ちゃっかり私の手まで握りしめ、静かに話し始めた。「晴音の父親がいなかったら、大学にも行けなかったし、今の俺もなかった。ずっと世話になってきた人なんだ。だから、晴音を送ってくれと言われたら、断れなかった」私は手を引き抜いた。「断れなかったのは茅島社長の頼みだから?それとも、晴音を送りたかったから?二人の恋愛話、今でも社内で噂になってるそうね。ずいぶんロマンチックな話みたいじゃない」晃人は慌てた。「そんなの全部嘘だ!誰がそんなこと言ったんだよ!3年前、晴音は俺の酒に薬を盛ろうとしたんだ。結局、未遂に終わったけど、それがきっかけで茅島社長に海外へ追いやられた。ところが、向こうでも遊び歩いてたらしくてな。見かねた父親に呼び戻されて、今度は政略結婚させられそうになった。それが嫌で、また俺に近づいてきたんだ。紗世、これだけは信じてくれ。お前は誰の代わりでもない。晴音が言ってることは、全部でたらめなんだ。おばあちゃんのことだってそうだ。俺がいない間に、晴音が勝手に家に来て、自分が俺の恋人だなんて嘘を吹き込んだんだ。そのうち認知症が進んで、顔も名前も分からなくなってしまった。それなのに、俺の恋人の名前だけは晴音だと思い込んでて……何度違うって言っても、分かってもらえなかった。俺と晴音の間には、何もない。あいつはこの3年間、ずっと海外にいたし、もう関わることもないと思ってた。だから、わざわざ話さなくてもいいって……でも、隠してたことに変わりはないよな。夫婦なのに、ちゃんと話そうともしなかった。そこは俺が悪かった。本当にごめん。もう二度と、こんな思いはさせない。だから……もう一度だけ、俺を信じてくれないか」私はスープジャーの蓋を開け、スプーンを晃人へ差し出した。「考えておく。茅島さんから結構な額をもらってるしね」晃人が怪訝そうに眉を寄せる。私は軽く眉を上げた。「離婚協議書にサインした日に、茅島さんから手切れ金が全額振り込まれたの。私がただで引き下がるような女じゃないって、知ってるでしょ?お金か晃人か、どっちかはもらわないとね」晃人は絶望したような顔をした。「いくらもらった?俺が倍出す。これからの給料だって、全部紗世に
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