ーーークソ野郎。私は心の中でそう吐き捨て、煌びやかな扉を睨みつけた。あの扉の向こうで、もうまもなく結婚披露宴が行われる。それも数ヶ月前まで結婚を考えていた私の元恋人と、かつて親友だった女の、だ。あんなやつらと、間違っても関係が続かなくて本当によかったと心から思える。…が、傍から見ると私は26歳にして、親友に恋人を寝取られた負け犬だった。そんな状況、誰が受け入れるものか。だから私は元恋人よりもうんと素敵な男を用意した。全てはこの状況を覆す為に。*****人生最悪の日。それは何の変哲もないとある休日のことだった。ジュエリーショップに勤務する私、須藤真波(すどうまなみ)には、5年付き合っている2歳年上の恋人がいる。彼の名は三嶋太一(みしまたいち)。彼は親の持つ会社の一つを任されている、いわゆる社長だ。忙しい太一と予定を合わせることはなかなか難しい。その為、私は彼との時間を少しでも作るために、時間ができるとよく彼に電話をかけていた。「太一?今日休みだし、買い物でも行かない?私、今、太一の会社の近くにいて…」『…あー』スマホ越しに聞こえてきた太一の声は、明らかにテンションが低い。それだけで、今日は難しいのかも、と察してしまう。『ごめん。ちょっと今、トラブルが起きてて…。離れられそうにないんだ』残念そうな太一の声音に、わかっていても胸が締め付けられる。太一は悪くない。ただ一生懸命、社長として仕事をしているだけだ。わがままを言っているのは私の方なのだ。そうなんとか自分に言い聞かせていると、ふとスマホの向こうから人々のざわめきのようなものが耳に届いた。まるで私と同じように、人混みの中にいるような音が。「後ろすごく騒がしいね?大丈夫なの?」『あ、ああ。そのトラブルについて、ちょうど今、白熱してて…。これ以上は…』歯切れの悪い太一の返答と背後の騒がしさに、何となく会社内の混乱が伝わる。心配だが、これ以上は迷惑になるだろう。「わかった。無理はしないでね。また行こう」こうして私は名残惜しく思いながらも、早々に太一との電話を切り、スマホを鞄へと入れた。太一と一緒ではないのは残念だが、こればかりは仕方ない。買い物なら1人でもできる。私は目的地だった太一の会社のすぐ近くにあるデパートに着くと、早速化粧品売り場へと向かった。
Last Updated : 2026-10-15 Read more