個室に響いていた囃し立てる声が、ぴたりと止んだ。その場にいた全員の視線が、朋花の手元のスマホに集まった。朋花は慌てて画面を操作したが、指が震えて何度も失敗した。電話の向こうでは、子どもが甘えた声でせがんでいた。「パパ、いつママを迎えに来るの?先生が、今日は家族みんなでごはんを食べる日だって言ってたよ」朋花の顔がみるみる青ざめていった。彼女はようやく通話を切った。私は朋花を見つめ、思いのほか落ち着いた声で尋ねた。「亮介とは、いつ結婚したの?」朋花の目から、涙が一気にこぼれた。唇を噛みしめ、しばらくしてようやく答えた。「7年前……」耳鳴りがした。7年前、亮介は私の誕生日にプロポーズしてくれた。大学の池のほとりで片膝をつき、手のひらに指輪の箱をのせた彼は、緊張のあまり言葉もろくに出てこなかった。彼は言った。「乃絵、今回の海外プロジェクトが終わって帰国したら、すぐに婚姻届を出そう」あのとき、朋花は人混みの中で、私以上に泣いていた。彼女は私を抱きしめて言った。「乃絵、絶対に幸せになってね」あの婚約指輪は、今も薬指にはめたままだ。もうすぐ結婚できると思っていたのに、彼はすでに朋花の夫になっていた。そのとき、朋花のスマホが再び鳴った。着信画面を見た彼女は、慌てて通話を切ろうとした。けれど、その前に私は彼女の手を押さえ、スマホを取り上げて応答ボタンを押した。電話の向こうから、亮介の声がした。「ママ、子どもと一緒に下まで来たよ。早く降りてきて、一緒に帰ろう」喉が詰まり、私はかすれた声で彼の名を呼んだ。「亮介……」電話の向こうが、急に静まり返った。少しして、通話は一方的に切られた。朋花の表情がこわばった。「乃絵、話を聞いて、説明させて……」私はスマホを彼女に返し、個室を飛び出した。エレベーターがなかなか来ず、ハイヒールのまま非常階段を駆け下りた。ホテルのドアを押し開けると、冷たい風が正面から吹きつけてきた。歩道脇には、見覚えのある黒い車が停まっていた。亮介が車のそばに立っていた。後部座席には子どもが座り、その隣には小さなリュックと恐竜のおもちゃが置かれていた。私が追いかけてくると分かっていたのか、亮介は驚きもせず、黙って子どもの座っている側の窓
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