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Todos os capítulos de 外傷センター ドクターE: Capítulo 21 - Capítulo 30

38 Capítulos

21話. 見守る人たち

「様子を見ていて、対応が遅れたらどうするんですか?」明子の夫が尋ねた。手術する人がいないから先延ばしにしているのではないと説明されても、その疑問は残っているようだった。絵里はペンを置いた。「変化を見逃してしまうことが心配なんですね?」「家では普通に歩いて出てきたんです。それなのに、今は血がたまっていると言われて……」「だから、一般病棟よりも近くで状態を確認できる場所へ移します。お腹をもう一度診察し、脈拍や血圧、血液検査の結果がどう推移するかを見ます」夫は廊下の奥へ視線を向けた。「それでも、最初から縫ってもらったほうが安心できそうですが」明子が腹部に置いていた手を引っ込めた。「あなたが安心するために、私のお腹を切るの?」「そういう意味じゃない」「わかってる。私だって怖いんだから」絵里は2人が話し終えるまで待った。手術をしないという説明を聞いて、夫は治療を受けられない状況を、明子は体にメスを入れずに済む可能性を、先に思い浮かべていた。「手術にも危険があります。今は、その危険を引き受けて得られる利益のほうが大きいとは考えていません。ただ、出血が続いたり、別の問題が見つかったりすれば、判断は変わります」「そのときは、先生も変わるんですか?」今度は明子が尋ねた。「治療法が変わっても、外科チームが引き続き診ます。血管の処置が必要になれば、放射線科の先生と一緒に対応します」明子は説明を聞いてうなずいた。手術をすると聞くことよりも、誰がずっと自分を診てくれるのかを知るほうが、助けになるようだった。入室の準備が整ったと連絡が来た。絵里は集中して観察する必要がある理由と現在の方針を記録し、患者を受け入れるチームへ直接伝えた。日中の変化と、まだ行っていない処置が混ざらないようにした。明子は輸血を受けたことがなかった。血圧を保つために支援を増やし続けている状況でもなかった。ベッドが動き出すと、夫も隣で歩調を合わせた。明子は手を伸ばして、彼の袖をつかんだ。「バッグに私の眼鏡が入ってる。携帯の文字が見えないの」「持ってきたよ」「自転車の鍵もね」「今は必要ないだろ」「なくしたら、退院してからまた探さなきゃいけないじゃない」言い終えたあと、彼女は顔をしかめた。ベッドの車輪が床の継ぎ目を越えていた。絵里は移動を一度止め、状態を確認した。姿勢を安定
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22話. 数値が下がったあと

明子は、まず手のひらを開いて見せた。「ほかに痛いところはありません」医師がまた来た理由には、もう気づいているようだった。絵里は明子の顔色を見た。長い返事を聞く前に、まず自分の目で確認する必要があった。「めまいや冷や汗はありませんか?」「ありません。ここが痛いだけです」左上腹部だった。最初より痛みが広がったとは言わなかった。意識ははっきりしており、指先が新たに冷たくなった様子もない。絵里は腹部を診察し、呼吸を確認してからモニターの推移を見た。入室直後より、脈拍は少し落ち着いていた。血圧を維持するために輸液やほかの補助を増やし続けている状態でもない。検査結果だけを見れば、悪くなったように見えた。患者の様子は変わっていなかった。都合のいいほうだけを選ぶことはできない。絵里は担当看護師に採血の時刻と、それまでに投与された輸液の量を確認した。検査室にも、検体に問題がなかったか尋ねた。最初の出血から時間がたって血液の数値が変わることもあり、輸液の影響も考慮しなければならない。だからといって、今回の変化がすべてそのせいだと断定できる根拠もなかった。高瀬が入ってきて、同じ患者をもう一度診察した。「診察所見は、さっきとあまり変わらないわね」「循環も保たれています。今のところ輸血はしていません」「腹部超音波も一緒に見ましょう」ベッドサイドで確認した液体は、前より明らかに増えたとは言い切れなかった。その結果だけで、小さな血管の問題まで否定することはできない。高瀬は絵里と現時点の判断をすり合わせ、検査の間隔を調整しながら観察を続けることにした。出血が増えたと判断すれば、方針を切り替える準備は変わらず整えておく。明子は2人を交互に見た。「血が減ったって聞いたんですけど。輸血はしないんですか?」絵里は今度は椅子に座った。「血液検査の数値が下がりました。ただ、今の結果1つだけで輸血や手術を決めるわけではありません。さらに下がっていくのか、体にほかの反応が出ていないかも、一緒に見る必要があります」「じゃあ、私はよくなっているんですか、悪くなっているんですか?」簡単な答えを求めている。絵里にはその気持ちがわかったが、どちらか一方を選ぶことはできなかった。「いい点は、血圧と意識が保たれていることです。もう少し確認しなければならない点は、血液検査の数値が下が
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23話. 決めておいた約束

明子のメモには、同じ時刻が2回書かれていた。1つは鎮痛薬を使った時刻で、もう1つは夫と電話で話した時刻だった。どちらの行にも、痛みが和らいだと記されていた。「こんなことまで書いていいんですか?」彼女が尋ねた。「話すときに役立つなら。ただ、書くのに夢中で呼び出しを遅らせないでくださいね」「記録をきちんとつけたら、早く退院できるわけじゃないですよね?」絵里が笑うと、明子もつられて笑った。前日よりも、言葉が長くなっていた。絵里は夜から朝までの診察と検査結果を説明した。集中して観察する必要はまだある。ベッドの上で姿勢を変えることと、もっと大きく体を動かし始めることは別だと説明した。食事も痛みや胃の不快感を見ながら、少しずつ進めることになっていた。明子は、水曜日にもう一度画像検査を検討すると言われたことを覚えていた。「血液検査がよくなっても、画像を見るんですか?」「最初ははっきりしなかった血管の変化が、あとから確認されることもあります。明子さんの損傷では、その点も確認する計画です」「それまで何もなくても?」「はい。状態が悪くなれば、その前にもう一度確認します」明子は紙の空いているところに「水曜日」と書いた。絵里はその横に「退院」とは書き足さなかった。廊下へ出ると、夫が着替えの入った袋を持って待っていた。面会の案内を受けるあいだに、絵里に1つだけ聞きたいことがあると言った。「昨日は、同じことばかり言ってしまいましたよね」「心配だったんでしょう」「手術をしないことが気に入らなかったわけじゃないんです。何かが終わったって言葉を聞いて、安心したかったんだと思います」彼は袋の持ち手を見下ろした。「家に帰って考えたら、早く安心したかっただけなんだと気づきました」絵里は彼が顔を上げるのを待ち、今日確認できたことと、水曜日に調べることを分けて話した。彼は袋を片手で持ち直し、最後まで耳を傾けた。「それなら、水曜日の検査の説明も妻と一緒に聞きます」彼は眼鏡拭きを袋から取り出し、いちばん上に入れた。昨日から妻に頼まれていたらしい。***森田修司は、ドレーンを抜いた場所に貼られたガーゼを見下ろしていた。術後6日目だった。高瀬と絵里は食事への反応、腹部の診察と検査の推移、排液の量や性状を確認した。留置を続ける理由はもう残っていないと判断し、管を抜いた
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24話. 新たに見えてきたもの

水曜日の午前、明子の血液検査の結果は前日と大きく変わらなかった。絵里は夜間の記録まで読み、病床へ向かった。明子は図書館に提出する休業関係の書類を、夫に頼んでいた。資料室で本を整理する仕事をしているという。自転車は通勤用だった。「転んだとだけ伝えたら、明日出勤できるかって聞かれて。けがのことを軽く説明しすぎたみたいです」絵里は必要な書類は正式な手続きで発行してもらうよう案内した。明子が無理に出勤日を約束しないよう、治療がまだ続いていることも説明した。診察を終えるまでは、前日と比べて明らかに変わったところはなかった。ところが午前11時ごろ、美穂から連絡が入った。「明子さんの痛みをもう一度診てください。朝の薬のあと一度は落ち着いたんですが、今度は肩までつらいと言っています」「どこが変わりましたか?」「左腹部の痛みは続いています。肩のあたりもつらいそうです。診察と画像検査の時間を一緒に確認してほしいです」美穂はその日の午前勤務だった。夜勤から申し送りを受けたあと、明子を直接診ていた。比較する言葉には、はっきりした基準があった。絵里は病棟で進めていた仕事を別の担当者に引き継ぎ、集中治療室へ向かった。明子は右手で左肩をさすっていた。息が苦しくて話せないほどではないが、朝より返事が短くなっていた。「いつから、こちらもつらくなりましたか?」「少し前からです。枕のせいかと思ったんですが、横になっていてもずっと気になって」絵里は痛む場所と呼吸、めまいの有無を確認し、もう一度診察した。腹部全体が硬くなっているわけではない。左上腹部の圧痛は前日より目立ち、脈拍も朝より速くなっていた。血圧は保たれている。美穂が薬を投与した時刻と、患者が再び不調を訴えた時刻を伝えた。「私がベッドへ行ったときに話してくれました。血液検査は安定していると聞いていたので、自分から呼び出すのをためらったそうです」明子は申し訳なさそうな顔をした。「血液検査は大丈夫だって聞いたから、横になっていればいいと思っていました」「話してくださったので、今、もう一度確認できています」絵里は明子が自分を責める説明に時間を使わないようにした。必要な診察を終えると、すぐに高瀬へ報告した。痛みと脈拍の変化が出血によるものか、別の原因か、まだ見分ける必要があった。明子は医療スタッフが行き来する方向
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25話. 別の道から入る人

開いた扉の向こうに、大きな撮影装置が見えた。血管造影室は、絵里が慣れている手術室とは違っていた。明子は手前の準備スペースで足を止めた。夫も最後の説明を一緒に聞けるよう、場所が用意されていた。スタッフが患者と処置内容を照合するあいだ、絵里は移動中の状態から伝えた。血圧や意識に変化はなかった。左上腹部の痛みは残っていたが、その間に悪化してはいない。黒田は明子が聞こえる位置で、もう一度説明した。血管を通して損傷部位まで進み、問題のある枝の血流を遮断して出血の危険を減らす計画だった。確認された病変と実際の血管の形によって、方法が変わる可能性もある。「お腹は切らないんですよね?」「今の計画ではそうです。ただ、これで調整できなければ、別の治療が必要になることもあります」黒田は予想される不快感と、処置後に確認する問題を説明した。明子は同意書に書かれた自分の名前を確かめ、夫を一度見た。夫は何か聞きたそうに口を開きかけ、閉じた。黒田はそちらへ体を向けた。「ほかに気になることはありますか?」「昨日まで待った時間は、取り戻せないんですよね?」明子が夫の袖をつかんだ。絵里には、その質問が非難だけではないとわかった。時間を戻せば、今この部屋に入らずに済んだのか。それを知りたいような顔だった。黒田はモニターに2回の検査画像を並べた。「最初の画像では、この病変ははっきり見えていませんでした。今日は確認できています。その変化に合わせて、今の治療を行うんです」「最初に手術していたら……」「その時点で、すぐに臓器を取る手術をするべきだったという意味ではありません。選択にはそれぞれ、得られるものと引き受けるものがあります」絵里は付け加えようとした言葉を飲み込んだ。説明を長く続けるより、夫が今聞いた内容を受け止める時間を作るほうがよかった。明子が先に言った。「私は、今できることから聞きたいです」明子は夫の袖を離した。夫はスタッフに案内されて外へ出る前に、ベッド脇に置かれた眼鏡ケースの向きを直した。***説明と同意の手続きが終わると、明子は処置室へ移された。黒田が処置を始めてから、絵里は操作室で画像を見ていた。処置中の監視と薬剤の調整は担当チームが受け持っていた。絵里は操作室で患者の経過と、連絡を取る外科チームを確認した。部屋の中から明子が質問に答える声が聞こえる
last updateÚltima atualização : 2026-10-21
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26話. 管を抜いた跡

木曜日の朝、明子は昨夜何度目を覚ましたのか覚えていなかった。「お腹が重くて1回、隣で音がして1回。そのあとはよく覚えていません」夜間の記録には、彼女が覚えていない時間も残っていた。繰り返し確認した痛みとバイタルサイン、必要な処置とその反応。絵里は明子の話と記録を並べて見た。新たな出血を疑うほど脈拍が速くなったり、血圧が下がったりする変化はなかった。腹部所見も前日の処置後と大きく変わらず、血液検査の推移も保たれていた。穿刺部位にも新しい問題はなかった。明子は、結局手術室へ行くことになるのではないかと心配していたと打ち明けた。「痛みがあるからといって、すぐに手術するという意味ではありません。ただ、変化があったときにもう一度確認することは必要です」「昨日みたいに?」「はい。そのために、ここにいるんです」絵里は今後の活動と食事の計画を、高瀬や担当チームと調整した。ただ「痛くならないように」と注意するのではなく、どんな変化があればすぐ知らせるべきか、明子自身の言葉で説明してもらった。明子は途中で一度尋ねた。眠って目を覚ましたときに汗をかいていたら、どう見分ければいいのか、と。絵里は、自分だけで判断しようとせず、呼んでくれればいいと答えた。患者があらかじめ診断をつけなければ、ナースコールを押せないわけではない。明子は紙を折りながら言った。「宿題かと思いました」「試験ではありませんよ」「じゃあ、間違えてもいいんですね?」「気になったことを伝えて、何でもなかったとしても大丈夫です」廊下に出た絵里は、その後の診察時刻を確認して病棟へ向かった。***田島達夫の胸腔ドレーンの横に置かれた排液容器には、前日より少ない量しかたまっていなかった。怜司はその数値だけで抜去を決めなかった。最近の排液量と性状、空気漏れの有無、画像、呼吸状態をまとめて確認した。留置を続ける理由がもうないか担当チームと最後にすり合わせてから、達夫に説明した。「今日、抜きます」達夫はベッドから体を起こそうとしたが、和枝が手で止めた。「まだ抜いてないでしょう」「ああ、そうだった」絵里もそのやりとりを聞いて笑った。先週は呼吸器を外せるかどうかさえ、1日ずつ評価していた。それが今では達夫は、管を抜いたあとにどう動くかを考えている。怜司と担当看護師が処置の準備をした。達夫に手順
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27話. 待ってはいけない理由

「先生、お腹が痛い患者さんなんですが、鼠径部にも何か触れます」金曜日の午後3時20分、湊が絵里を呼んだ。絵里は午後の勤務に入り、病棟の申し送りを確認しているところだった。午前中に診ていた患者のうち、明子は処置後の経過をさらに確認してから一般病棟へ移っていた。新たな出血を疑う変化はなかった。絵里はその記録を閉じ、湊に尋ねた。「今の状態は?」「意識は清明で、血圧も保たれています。嘔吐があり、お腹が張っています。佐伯先生が先に診て、外科に依頼されました」「痛みはいつから?」「今朝からだそうです。鼠径部の違和感は、それ以前にも時々あったそうです」絵里は診療エリアへ下りながら、必要な準備を頼んだ。まず患者を直接診て、検査と処置は状態に合わせて進める必要があった。ベッドには小柄な女性が、右脚を少し曲げて横になっていた。付き添いはまだ到着していない。ベッド柵には嘔吐用の袋が掛けられていた。「大島澄江さんですね?」「はい」「外科の藤崎絵里です。どこがいちばん痛みますか?」澄江はお腹の真ん中を指したあと、手を下ろした。「ここも痛いし、下のほうも。運動の仕方が悪かったのかしら」澄江は69歳だった。週に2回、近所で卓球をしているという。数日前、ボールを取ろうと脚を伸ばしたあと、右の鼠径部が引きつった。休むと楽になったので大したことはないと思っていたが、今日は朝から痛みが引かなかった。昼ごろには嘔吐が始まった。絵里は過去の手術や病気、服用薬、食事と排便の状態を確認した。腹部の手術を受けたことはない。最後に食べたのは午前9時ごろのおかゆだった。「下のほうも診察します。カーテンを閉めて、必要なところだけ確認しますね」担当看護師がそばに立った。絵里は診察する範囲を説明し、患者の同意を得た。澄江は毛布を離せずにいたが、絵里の言葉を聞いて手を緩めた。右鼠径部の下に、小さく硬い腫瘤があった。外から大きく膨らんではいないが、圧痛は明らかだった。腹部も膨満し、痛みが繰り返すあいだも完全には楽にならなかった。絵里は手で押し戻そうとはしなかった。「ずっとここにありましたか?」「前にも少し膨らんでいた気がします。横になると消えるから、脂肪かと思っていました」「今日はどうですか?」「今日は消えないんです」絵里が立ち上がると、澄江が先に尋ねた。「こんなところに
last updateÚltima atualização : 2026-10-21
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28話. 消えた膨らみ

麻酔がかかったあと、鼠径部の膨らみが小さくなった。体位を整えて手術の準備をしているあいだに、最初のようにはっきり触れなくなっていた。絵里は診察所見が変わったことを、すぐに高瀬へ伝えた。「戻ったようです」「腸が無事だという意味ではないわ」外へ押し出されていた腸が、内側へ戻った可能性があった。麻酔で筋肉の緊張が緩み、自然に戻ることもある。しかし、血流が圧迫されていたあいだに腸壁に何が起きたのかは、外から見ただけではわからない。手術の方針は変わらなかった。むしろ、腹腔内で該当する腸を正確に見つけて評価しなければならない理由が、はっきりした。絵里はモニターの位置を確認した。チームの準備が整い、麻酔科から患者の状態が伝えられた。「始めます」カメラが入ると、拡張した小腸が画面いっぱいに広がった。普段より動かせる空間が狭い。膨らんで薄くなった腸壁を押さないよう、絵里は器具の先端が画面の外へ出ないように動かした。右下へ進むと、大腿管につながる欠損部が見えた。そこにはもう、腸は挟まっていなかった。絵里は空になった穴を、いつまでも見つめなかった。外れて戻った腸を探す必要があった。高瀬が視野を支えた。絵里は正常な部分から腸をたどり、視野を移していった。ある箇所で、急に色が暗くなった。腸壁には圧迫された跡が残り、周囲の組織も腫れていた。「ここです」問題の箇所を画面の中央に移した。圧迫されていた短い区間は、周囲の赤い腸とは明らかに違っていた。絵里は反対側の面も見られるよう、向きを変えた。ひと目で壊死している腸のようには見えなかった。だからといって、暗い跡をそのままにして大丈夫だと判断することもできなかった。高瀬が尋ねた。「どうする?」「穿孔は見えません。まず回復する条件があるか確認して、もう一度評価します。戻らない場合や生存性が疑わしい場合は、切除します」絵里は麻酔科に現在の循環状態を確認した。画面の腸だけを見ているあいだに、患者の全身状態が変わってしまってはならない。原因を解除したあと、血流が戻る時間を取りながら、ほかの損傷と腹腔内の汚染も確認した。腸切除が必要になった場合の準備は、そのまま維持した。「こちらも見てください」高瀬が暗い部分の反対側を示した。絵里が視野を変えると、最初は重なって見えなかった面が現れた。そちらにも圧迫の跡があった。
last updateÚltima atualização : 2026-10-21
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29話. 先に尋ねてもいいですか

土曜日の日勤に入った絵里は、夜間と午前中の記録を読んでから澄江の病室へ向かった。術後1日目だった。麻酔から十分に覚め、呼吸と血圧は安定していた。腹部の張りと痛みは手術前より軽くなっていた。胃管も経過を確認したうえで、午前中に抜去されていた。澄江は絵里を見るなり、毛布を少し下げた。「見せたほうがいいですよね?」「私からお伝えしてからにしましょう」隣のベッド側のカーテンを閉めて説明し、それから診察した。傷の状態と腹部の圧痛を確認するあいだ、澄江は痛む場所を指で示した。前日のようにお腹全体を抱え込むことはなかった。回復室で交わした会話は、半分くらい覚えているという。「腸を切らなかったことは覚えています」「そのとき、すぐに尋ねていましたよ」「忘れないように、そうしたのかもしれませんね」奈緒が母のコップを移動させた。担当チームは胃の不快感と腹部の状態を見ながら食事を進め、痛みを調整して活動を増やす計画だった。絵里は、急に腹痛が強くなったり、吐いたりするなど新しい変化があれば、すぐ知らせるよう伝えた。奈緒の質問は前日より具体的だった。ベッドから起きるときはどこを支えればいいのか、家に帰ったらどの程度まで動いていいのかを尋ねた。退院日はまだ決まっていなかった。それでも、回復後の生活に向けた準備は始められる。澄江はベッド脇のバッグを目で示した。「中にラケットが入っています。家に持って帰ってください」「入院の荷物に、どうしてラケットを入れたの?」「卓球に行くときのバッグを、そのまま持ってきたから」絵里は活動を再開する時期は、手術部位と回復の様子を見て決める必要があると説明した。澄江は、すぐに打ちに行くつもりではないと手を振った。「なくさないようにしたいんです。グリップが手にぴったり合うから」奈緒がバッグのファスナーを閉めた。絵里は手術前に澄江が言っていたことを思い出した。歩くことなら、まだ得意だと言っていた。絵里は家に持ち帰るというラケットをもう一度見た。次の外来では、どこまで動けるかをもっと具体的に話せるといいと思った。***明子は一般病棟の窓際に座っていた。金曜の午前に移ってからも、診察とバイタルサイン、必要な検査に応じた観察が続いていた。処置から3日が過ぎるあいだ、新たな出血を疑う変化はなかった。穿刺部位の不快感も軽くなり、食事と
last updateÚltima atualização : 2026-10-21
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30話. 次に呼ぶ名前

月曜日の朝、明子のベッドの下には、スニーカーがきちんと並べられていた。絵里は日曜日の担当チームによる診察と追跡画像を先に確認した。塞栓術で治療した血管病変は、もう造影されておらず、新たな出血所見もなかった。処置部位の変化は想定の範囲内で、追加処置が必要な問題は確認されなかった。診察と検査の推移、食事や活動の状態を合わせて検討し、高瀬と退院を決めた。入院から7日がたち、処置後は5日目だった。明子は最後の説明を聞くとき、膝の上に紙を置いていた。最初は痛みがあった時刻だけを書いていた紙に、今は外来の日付と、聞きたいことが加わっていた。「急にお腹がもっと痛くなったり、めまいや冷や汗が出たりしたら、待たないほうがいいんですよね?」「はい。外来の日が決まっていても、新しい症状が出たらすぐに診察を受けてください」絵里は連絡方法と受診の仕方を確認し、活動計画をもう一度説明した。当面は本の箱を運ばず、自転車にも乗らない。もっと大きな活動に戻る時期は、追跡診察と必要な画像で回復を確認しながら調整する予定だった。「じゃあ、バスで通勤するのはいつからですか?」明子が尋ねた。絵里は、通勤そのものだけでなく、実際に担当する仕事や、1日を過ごせる体力も考える必要があると説明した。まず回復する時間を確保し、外来で業務の調整についても相談することになった。夫はバッグから本を取り出し、自分のバッグに入れた。「これは私が持ちます」「その本1冊より、あなたが持ってきた荷物のほうが重そうだけど」明子は笑った。夫は返事をせず、バッグを閉じた。絵里は処置部位と腹部の状態を最後に確認し、用意していた質問がまだ残っているか尋ねた。「手術が上手な先生だって聞いていたんです」明子が言った。「でも、私は別の先生に処置してもらって退院するんですね」絵里は少し笑った。「明子さんに必要な治療が、そちらだったからです」「先生は残念じゃないんですか?」「いいえ。今日、家に帰れるのが何よりです」明子は折りたたんだ紙をバッグの外ポケットに入れ、もう一度絵里を見た。「集中治療室の看護師さんたちにも、お礼を伝えてください。痛いってもう一度言ってよかったって」絵里は答えた。「伝えておきます」明子は靴を履き、夫と一緒に病室を出た。絵里は病棟の看護師と最後の説明が終わったことを確認し、次の
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