──この人と結婚してからずっと、私は心を亡くしていた。「──え?」「話ぐらい一回で聞けよ。本当に無能だな。他の男を探して、妊娠しろって言ってんの。俺がお前を抱くことは一生無い」私の夫、九条 篤志《あつし》は踏み潰した虫を見るような目で私を睨みつけた。白い結婚をして3年。篤志さんは私に触れるどころか、笑いかけることすら無かった。名前を呼ばれたことも無い。「九条の家の跡継ぎは、俺の子として戸籍に載ってりゃいい。しかし俺はお前を愛していない。よってお前を抱きたいとは思わない。お前には魅力なんてもの、全く無いからな」脱いだジャケットを投げ捨てるように私に手渡した。首元のネクタイを緩めながら彼は続けた。「この家に置いてやってるだけ、ありがたいと思えよ?そもそも俺は、お前なんかと結婚したくなかったんだからな?せめて赤ん坊ぐらい産んで俺の役に立て。勿論女はだめだ。男を産め。誰の子でも、表向き俺の子ってことにすればいい」「……私は、篤志さんの妻です!」勇気を出して声を振り絞った。しかし返ってきたのは見慣れた嘲笑だった。「妻ね。あのじいさんが余計な遺言をしたおかげで現在俺は不幸だよ。触れたくもない、愛してない女と無理矢理結婚させられたんだからな。お前が断って大人しく働いてりゃ良かったんだよ。俺の人生を壊したんだ。身体ぐらい差し出せよ」「私、篤志さんの子じゃないと、嫌です」「うるせえな。誰の子でもいいだろ。俺はお前に触れたくないの。お前がどっかの男の子どもを妊娠しとけば、母さんだって俺を認めてくれるんだよ」──私だって、篤志さんに恋をして結婚したわけではなかった。篤志さんに愛してもらえなくても、私が産む赤ちゃんの父親は篤志さんであって欲しい。妻とは、そういうものだから。篤志さんとの結婚話が出た当時、私の父である白石正隆《まさたか》が社長を務める白石精工株式会社の経営が傾いていた。私は実家にお金を送る為、東大に通いながら介護施設で働いていた。時給は家庭教師の方が高かった。でも土日は長時間働ける仕事がよかった。そのときに介護をしたのが当時の九条家当主である篤志さんのおじいさま、謙信さんだった。謙信さんは、私をすごく気に入ってくれた。歴史がお好きで、大河ドラマの話でよく盛り上がった。私が東大を卒業して研究所で働いて3年が経った頃だった。謙
최신 업데이트 : 2026-10-23 더 보기