後悔しても戻れない真夜中、氷を部屋まで持ってこいと義兄の小山智樹(こやま ともき)が言った。
乱れた髪を見た彼の喉仏がわずかに動き、目の奥が暗く沈んだ。
「家の中でそんな格好をして……誰を誘惑するつもりだ?」
私は暗がりに座る智樹にアイスバッグを差し出した。「氷、持ってきたよ」
彼はそれを受け取ると同時に、私の手をぐっと掴み、自分の熱い胸元へ押し当てた。目が真っ赤に染まっていた。
「氷なんかじゃ足りない……菜々美、助けてくれる?」
私は恐怖で後ずさる。彼は自嘲するように手を離し、いつもの冷淡な表情に戻った。
「ふん、根性なしだな。
留学の手続きは済ませた。来週にはここを立つ。俺みたいな狂人からは、離れておけ。
二度と戻ってくるな、いいな」