雪が舞い、あの少年はもういない夫の斉藤渉(さいとう わたる)が、妊娠した若いモデルの坂本胡桃(さかもと くるみ)を堂々と家に連れてきた。そして、彼女の療養のために寝室を明け渡すように言ってきた。
でも私は、これまでみたいに物を壊したり、ご飯を食べなくなったりはしなかった。
むしろおとなしく部屋を譲って、胡桃のために手料理まで作ってあげた。体にいい栄養満点のスープを。
それから私は、香市のセレブの間で笑いものになった。
渉に取り入ろうとする女たちは、みんな私のことを「ちょろい」と思ったみたい。渉の子供さえできれば、簡単に私を追い出せる、って。
渉の遊び仲間たちは、さらに私のことを馬鹿にした。「斉藤家っていう金の鳥かごから離れられない、かわいそうな女だ」って、笑いながら話していたらしい。
やがて、胡桃のお腹も目立ってきた頃。渉は、ベビー服にアイロンをかける私を、得意げな顔で見ていた。
「玲奈(れな)、外の女なんて、しょせんは遊びなんだよ。
お前がおとなしくさえしていれば、俺が外で何人女を作ろうと関係ない。俺の妻は、永遠にお前だけだから安心しろ」
誰もが、私が渉のお金目当てだから、こんなみじめな真似をしているんだと思っていた。
でも、本当の理由は私にしか分からなかった。
私は斉藤家と、ある婚前契約を結んでいたのだ。
【夫側に有責行為がある場合、その行為如何にかかわらず、妻が結婚生活を5年間続けた時点で、斉藤グループの株の10%を受け取ることができる】
そして今、その5年が経った。
渉の資産は何千億円。その半分が、これからは私のものになるのだ。