今世では手放すことを決めた私と深月悠斗(みづき ゆうと)は幼馴染だったが、生涯お互いを恨み続けた。
彼は私を恨んだ。勝手に記憶を取り戻させ、彼の初恋の人の水瀬清香(みなせ さやか)を飛び降り自殺に追い込んだと。
私も彼を恨んだ。一生私、桜庭蛍(さくらば ほたる)のことを愛すると約束したのに、記憶を失った後で他の女を好きになったと。
結婚して十年、私たちは関係が氷のように冷たく、一番知ってる赤の他人になった。
だが私が難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断され、街中の人々が彼に離婚を勧めた時。
悠斗は私に隠れて三千段の石段を這い上がり、仏前で昼夜を問わず祈り続けた。ただ私が生きられるようにと。
臨終の際、彼は私を抱いて一晩中座り続け、額を私の頬に寄せて低く呟いた。
「蛍、この人生で君への責任は全て果たした。もし来世があるなら、もう俺の記憶を戻さないでくれ。俺と清香の幸せを叶えてくれ」
涙が目尻から滑り落ちた。
ようやく分かった。少年時代の愛を足枷にして彼の一生を縛るべきではなかったのだと。
再び目を開けると、悠斗を見つけたあの日に戻っていた。
今度は、彼の記憶を取り戻させることを諦める。少年時代の恋人を、彼の初恋の人へと向かわせよう。