夏の盛りを待たずに京川一の御曹司・村瀬雅也(むらせまさや)は、白血病との五年間の闘いの末、ついに病を克服した。
周りの奴らは面白おかしく彼に尋ねた。
「村瀬さん、どうやったら詩織さんが五年もの間、命がけで骨髄を提供してくれるんだ?秘訣を教えてくれよ」
雅也はタバコを吸い込みながら言った。
「向こうから必死に飛び込んできたんだから、教えられないよ」
「そりゃそうか。所詮、都合のいい女だ。お前の憧れの人が海外から戻ったって知ったら、泣き喚いて離婚騒動を起こすだろう」
雅也は煙を吐き出し、軽蔑の笑みを浮かべた。
「ありえない。あんな都合のいい女は、村瀬夫人の座を手放すはずがない」
ドアの外では、村瀬詩織(むらせしおり)は泣きも騒ぎもしなかった。
彼女はただ、報告書に書かれた「余命七日」の文字をただ静かに見つめていた……