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真夏の果実

真夏の果実

By:  桔梗Completed
Language: Japanese
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十年間ずっと御村嘉之のそばに寄り添い、ようやく結ばれることになった鈴木芙実。 けれど、結婚式の前夜、芙実は嘉之の口から、思いもよらない言葉を聞いてしまう。 「芙実?あの子なんて、文乃の代用品だよ」 それを聞いた瞬間、芙実は嘉之と過ごした日々に終止符を打ち、もう二度と彼に会わないと、そう心に決めた。

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Chapter 1

第1話

「手術には70%のリスクが伴いますし、たとえ成功しても記憶喪失などの後遺症が残る可能性があります......本当に、覚悟はできていますか?」

鈴木芙実(すずき ふみ)は力強くうなずいた。

「ええ、もう決めたの」

医者はふぅとため息をついた。「実は、海外の方が技術も設備もずっと進んでいます。あなたの恋人の御村さんは人脈も広く、素晴らしい方です。お願いすれば、きっと最先端の病院を手配してくれるはず。わざわざこんな大きなリスクを冒す必要はないと思いますよ」

芙実の口元に、皮肉な笑みが浮かんだ。

その医者が言う「素晴らしい恋人」――御村嘉之(みむら よしゆき)は、確かに自分にはとても優しかった。

自分を主役にするために、何十億というテレビドラマ投資を惜しまず注ぎ、何十時間ものフライトを経て海外のオークション会場に赴き、高額なダイヤモンドリングを競り落として喜ばせ、徹夜で帰国してプロポーズをする――まるで夢のような話だった。

自分は深く愛されている、そう信じて疑わなかった。もしあの時、酔っ払った嘉之の本音をドア越しに聞かなければ――

「芙実?あの子なんて、文乃の代用品だよ......文乃の妹だから助けてやっただけで、一度寝たからには責任取らなきゃな」

その瞬間、全身の血が凍ったようだった。まるで氷の底に沈んだような感覚。

でも、個室での会話はそれだけじゃ終わらなかった。

「もし文乃と結ばれない運命なら、芙実と結婚するのも悪くない。俺に一途だし、どれだけ突き放しても離れようとしないんだ」

一瞬の沈黙のあと、部屋の中から笑い声が上がった。嘉之の友人たちは彼を持ち上げた。

「まさに『純愛の塊』じゃん!御村家にはお前みたいな奴がいるんだな!」

そのとき初めて、芙実は気づいた。嘉之が何度も呼んでいた「ふみちゃん」という名前――それは、自分のことではなかったのだ。本当に呼ばれていたのは、姉・鈴木文乃(すずき ふみの)だった。

遠く海の向こうまで数十時間かけて飛んだあの日も、実は文乃に恋人ができたと聞き、最後にもう一度文乃の顔を見たい一心からだった。

そして、文乃が幸せそうに他の誰かの肩にもたれているのを見たその瞬間、嘉之は諦めた。そしてその直後、気晴らしのようにオークション会場でプロポーズ用の指輪を買ったのだ。

夜通し車を走らせて帰国し、芙実のマンションの下で夜明けまで待ち続けた。雪が髪に積もるほど。

あのプロポーズは、たちまちネットで話題になった。

高級車に大豪邸、美男美女のカップル。ロマンチックなその光景は多くの人の注目を集め、ショート動画アプリで爆発的に拡散され、数百万、いや、千万単位のいいねがついた。

「商界の新星」と呼ばれる嘉之は、整った顔立ちと冷徹な印象の持ち主。けれど、そのとき指輪を差し出した手は、かすかに震えていた。

「この指輪をつけたら、ふみちゃんを永遠に縛っておける。もう、どこにも行かせない」

いつもは高飛車な嘉之が、人前でここまで頭を下げたのは、ただ「ふみちゃん」に離れてほしくない一心からだった。

そのプロポーズ映像に、たくさんの人が心を打たれ、ニュースもこぞってこの名場面を報じた。

――でも、実際はどうだったのだろう。

嘉之にとって、あれはただ報われない恋への惜別、あるいは妥協にすぎなかったのかもしれない。

どこにも行かせない?

芙実は唇を皮肉に歪めた。残念だけど、その願いにはもう応えられないかもしれない。

病院を出たあと、芙実は名刺を取り出し、そこに書かれた番号に電話をかけた。電話の向こうから聞こえてきた男性の声には、どこか狡猾な笑みがにじんでいた。

「どうです?もう決まりましたか?僕の腕は冗談抜きで一流ですから。偽装死亡の契約を結べば、世の中から鈴木芙実という人間は完全に消えることになりますけど」

芙実は目を閉じ、静かに答えた。

嘉之のライバル・中条凪時(なかじょう なぎと)との契約にサインし、一か月後に事故を装って「偽装死」を遂げると約束した。

その一か月は、この世から自分の痕跡をすべて消すための時間。そして、これまでの人生で最も重要な「物語」を演じ切るための時間になるはずだった。
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