眠らない夜の約束小山晴美(こやま はるみ)は、小山家の御曹司である小山修二(こやま しゅうじ)が自宅に囲っていた愛人だった。
五歳で施設から彼に引き取られ、十二歳までに名門の礼儀作法を習得。十六歳のときには、香江市の社交界で最も理想的な花嫁候補と言われる存在になっていた。
十八歳の誕生日の夜、修二が誤って薬を盛られ、彼女は一晩中そばを離れず看病した。
それ以来、香江市中の誰もが、晴美が修二の最も大切な存在であることを知るようになった。
二十歳の誕生日前夜、彼は自らの手で彼女の手首にダイヤモンドのブレスレットをはめ、低い声で言った。
「晴美、やっと君と結婚できるようになったな」
彼女はその胸に顔をうずめ、激しい鼓動に身をまかせた。
だが翌日、修二の父である小山悟(こやま さとる)が公に政略結婚の発表をした。
彼女は取引の駒として扱われ、修二の宿敵である藤原悠斗(ふじわら ゆうと)に嫁ぐことを約束された。
修二は藤原家の令嬢、藤原雨子(ふじわら あめこ)を妻に迎えることになる。
晴美の頭が真っ白になり、血の気が一瞬で引いた。手足は冷たくなっていった。
彼女は勢いよく顔を上げ、隣にいる修二をじっと見つめ、何か言ってほしいと願った。