死を図る私を、誰もが愛した神谷朔(かみや さく)が小山奈美(こやま なみ)のために用意したクルーズでの誕生日パーティーは、突如として転覆事故に見舞われた。
朔はためらうことなく、私が乗るはずだった救命いかだの最後の空席を奈美に譲った。
水の中でもがく私を見ながら、十か月の妊娠の末に生まれたはずの息子――神谷陽斗(かみや はると)は、泣きじゃくりながら叫んだ。
「ママを上げさせないで!奈美お姉ちゃんが落ちちゃう!」
私は割れた木板一枚にすがりつき、どうにか岸へとたどり着いた。胸の内は、もうすっかり冷え切っていた。
うつ病の診断書を手に、私はただこの命を早々に終わらせてしまいたいと願うばかりだった。
だが、本気で生きる気力を失った私の姿を前に、朔と陽斗はすがりついて泣き崩れる。
「お願いだ、行かないで。お前がいなければ、本当に俺らはやっていけないんだ」