共鳴なき者よ、さらばこれは日笠星乃(ひがさ ほしの)が39回目の癇癪を起こしての家出であり、西村深一(にしむら しんいち)が自ら迎えに来なかった唯一の回であった。
「星乃、こっちで緊急会議があって迎えに行けないんだ。いい子にして、先に家に帰ってて。夜に帰ったら、美味しいものを買ってあげるから」
電話越しに聞こえたのは、いつも通りの優しくなだめる深一の声だったが、星乃の胸はいつものようにときめかず、むしろ全身が凍りつくような冷たさに包まれた。
星乃が返事をする前に、深一は初めて電話を先に切った。
スマホは力なく彼女の手から滑り落ち、床にぶつかって鈍い音を立てた。
彼女はぼんやりと、偶然見つけた契約書と録音ペンを見つめていた。