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共鳴なき者よ、さらば
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これは日笠星乃（ひがさ ほしの）が39回目の癇癪を起こしての家出であり、西村深一（にしむら しんいち）が自ら迎えに来なかった唯一の回であった。 「星乃、こっちで緊急会議があって迎えに行けないんだ。いい子にして、先に家に帰ってて。夜に帰ったら、美味しいものを買ってあげるから」 電話越しに聞こえたのは、いつも通りの優しくなだめる深一の声だったが、星乃の胸はいつものようにときめかず、むしろ全身が凍りつくような冷たさに包まれた。 星乃が返事をする前に、深一は初めて電話を先に切った。 スマホは力なく彼女の手から滑り落ち、床にぶつかって鈍い音を立てた。 彼女はぼんやりと、偶然見つけた契約書と録音ペンを見つめていた。
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第1話
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共鳴なき者よ、さらば 第17話
深一は彼女の考えを知らずに、彼女の手を引いて外へ連れ出そうとした。星乃は彼の力に逆らって、ここを離れなかった。「辰哉はまだ戻ってないよ」ここに閉じ込められた後、辰哉は彼女にここで隠れるよう言い、安全な脱出ルートを探しに行った。深一は彼女の言葉を聞いて、嫉妬が心を締め付けた。再び口を開くとき、その声には嫉妬の色がにじんでいた。「彼が一人で逃げたかもしれないぞ……」それは深一らしくない言葉だった。星乃は眉をひそめて彼をにらんだから、彼はその後の言葉を飲み込むしかなかった。その時、辰哉が戻ってきて、余分な人間を見ながら眉をひそめたが、何も言わなかった。彼は近づくと、深一を無視して星乃に言った。「安全な脱出ルートを見つけた」三人は隠れながら外へと進んだ。外に出る直前、星乃は突然誰かに後ろから抱きしめられた。「星乃！危ない」彼女の耳元で低い呻き声がした。辰哉は状況をすぐに把握し、深一を背負って車に乗せた。「星乃、彼の手当てをしてくれ、俺が運転する」星乃は頷き、後部座席に座った。先ほどの混乱は過ぎ去った。星乃は深一が自分をかばって撃たれたことを理解した。彼女は冷静に彼の負傷した脚を簡単に包帯で巻いたが、最後にこう言った。「ありがとう」深一は少し頭がふらつきながら、その言葉に優しく笑い、昔のように言った。「お前が無事でよかった」星乃の心は複雑で、その馬鹿げた可能性が再び頭に浮かんだ。しかし彼女は深く考えたくなかった。その可能性があまりにも馬鹿げていたからだ。医療ステーションに戻ると、深一は手術室に運ばれ、星乃は彼が中に入るのを見届けてから立ち去った。その後、深一が手術室から出てきても、星乃は彼に会いに行かなかった。彼女はもう彼と関わりたくなかった。その銃弾は子どもに対する償いのように思えた。しかし、深一はどうしても彼女に世話をさせたかった。もし相手が他の人なら、彼は決して協力しなかった。仕方なく、星乃は世話に行った。数日ぶりに再会した時、深一の目には隠しきれない喜びがあった。だが、星乃はずっと淡々とした表情で、黙って彼の薬を取り替えた。全て終わった後、彼女は荷物をまとめて言った。「あなたは一体何がしたいの？」その言葉に病室は数秒の静寂に包
共鳴なき者よ、さらば 第16話
どんという音がして、星乃は呆然とした。目の前の状況を理解すると、彼女の心に怒りが湧き上がった。彼女は力強く深一の手を振りほどいた。「深一！頭がおかしいの！」まだ完全に落ち着いていなかった彼女は、うろついた。辰哉はすぐに前に出て、彼女を支えた。星乃が彼に対してこんなに怒ったのは初めてだから、深一は一瞬呆然とした。しばらくして、彼はぼんやりと言った。「星乃、彼がお前を抱きしめたんだ」その口調にはなんと、気づかれにくい悲しみが込められていた。星乃は彼の言い分が本当に理解できず、顔は呆れと嫌悪でいっぱいだった。「あなたに関係あるの？私がそれを許したの。あなたには彼を殴る権利はないよ。謝って」彼女がそんなことを言うとは思っていなかった深一は、目を大きく見開いた。彼は傷ついた目で、星乃が辰哉をかばう姿を見つめていた。その胸に見えない刃が突き刺さったかのようで、呼吸するたびに心が引き裂かれる痛みを感じた。彼の目を見返しても、星乃は動じず、強引な態度で一言ずつ言い放った。「彼に謝りなさい」深一は体を少し揺らした。今の彼には、彼女に自分に対して特別扱いを求める資格はなかった。そして、このすべては自分の手で引き起こしたことだ。だから、彼は星乃にこれ以上嫌われるわけにはいかなかった。深一は失望して目を伏せ、かすれた声で言った。「ごめん」星乃はもう何も言わず、振り返って辰哉と一緒に去って行った。深一はその場に立ち尽くし、二人の並んだ背中がどんどん遠ざかっていくのを見つめていた。彼は、星乃が自分からもう届きそうにないほど、どんどん遠ざかっていくのを感じた。その不安な気持ちに包まれたまま、彼は数日間を過ごした。深一はただ後ろで、星乃と辰哉がますます親しくなるのを黙って見守るしかなかった。もう彼には資格がなく、盲目的に止めようとすればますます彼女に嫌われるだけだったからだ。ある日、星乃と辰哉は外出した。しかし、深一は一本の電話のせいで彼らを見逃し、仕方なく医療ステーションで彼らを待つしかなかった。時間が経つにつれて、星乃は帰ってこず、最後には連絡も途絶えた。深一はその知らせを聞くと、頭が真っ白になり、慌てて責任者に尋ねた。「何て言った？」「日笠先生が連絡取れなく
共鳴なき者よ、さらば 第15話
深一は全身が震え、まるで凍りついたかのようだった。彼は確かに怖かった。その子供は契約書よりも彼にとって痛みが大きかった。だから本能的に触れようとしなかった。しかし、触れないからといって、存在しないわけではなかった。その子供は永遠に二人の間に横たわる鋭い剣のようなものだった。それを自覚した深一の心は刃物で切られるように痛んだ。彼の肩は落ち込み、全身に力が入らなかった。深一は何を言えばいいかわからず、ただただ謝罪の言葉を繰り返すしかなかった。「ごめん、ごめん、星乃……」子供を失ったとき、星乃は、深一がそれを知ったらどうなるのか、一度は考えたことがあった。彼女は少し意地悪な気持ちで、彼が後悔し苦しむ姿を見たかった。しかし、その光景を本当に目にした時、彼女は全く復讐の快感を感じず、ただ深く心を刺す痛みだけだった。絶望的な謝罪の声の中で、星乃は冷たい表情を取り戻した。彼女はすべての感情を押し殺し、深一には自分のどんな感情も与える価値がないと思った。「あなたがどうしようと勝手にして。はっきり言うけど、あなたの目的は達成できないし、私は許さない」そう言い終えると、彼女は振り返って去っていった。数メートル歩いたところで、辰哉を見かけた。彼女は驚いて二歩後ずさりして逃げようとした。しかし辰哉は黙って彼女の手首を掴み、小高い丘の上へと連れて行った。星乃は不思議そうに彼を見たが、辰哉は説明せず、「しばらく静かに待て」とだけ言った。彼女は素直に従い、しばらくすると周囲に小さな光が点々と灯った。星乃は驚いて目を見開いた。「ホタル？」辰哉は彼女の嬉しそうな様子を見て、ゆっくりと口を開いた。「君がもう過去のことを気にしたくないのは知ってる。だから西村深一に何もしなかった。でももし気が変わったら、いつでも言ってくれ」星乃は手のひらに落ちたホタルを見つめて、微笑んだ。「相変わらずだね。昔、誰かにいじめられたら、あなたは倍返ししてくれたわ。いつも私の意見は聞かなかったけど。でも、今は少なくとも私の気持ちを大事にしてくれてるようだね。少しでも褒めてあげるかね？」辰哉は微笑みながら答えた。「ずっと言ってきた。君を苦しませたりしないって。君のために復讐するのは、自分の無力さを恨んでて、君を守れなかった
共鳴なき者よ、さらば 第14話
彼らが次々と入っていった。深一は歯を食いしばりながら、冷たい目で彼を見ていた。心の中は嫉妬でいっぱいだった。彼は辰哉を知っていた。辰哉が星乃と幼い頃からの友達だということも知っていた。昔、彼と星乃が付き合い始めた時、彼女の友達が辰哉という人間がいることを彼に教えていた。その時、彼は彼女を愛しておらず、星乃は彼を深く愛していた。だから、彼は全く気に留めなかった。かつて全く気にしなかった人に、今こんなに嫉妬するとは思わなかった。星乃の拒絶は彼の予想通りだった。それでも彼は簡単に諦めなかった。昔の彼は自分の気持ちに気づいていなくても、彼女をなだめ、何度でも連れ戻すことができていたのだ。今は自分が彼女を愛していると知っている。なおさら、彼女を離さないつもりだ。どんな代償を払っても、彼女を取り戻すつもりだ。情熱的な星乃をもう一度手に入れたいと思っている。星乃が再び深一に止められた時、彼女は冷たく隣にある「関係者以外立入禁止」の看板を指さした。「見えないの？」彼女が彼にこんなに鋭く言ったのは初めてで、深一は胸が締め付けられるような痛みを感じた。彼はその痛みを押し殺し、ポケットから胸章を取り出して言った。「俺はここでボランティアになった。お前のそばにいられる」深一は星乃がこの理由で自分を追い出すだろうと予想した。だから、他人に頼んでボランティアの身分を手配してもらい、堂々とここに居られるようにしたのだ。星乃はその胸章を見て言葉に詰まった。確かにこれ以上彼を追い出す理由はなくなった。だが、彼女はそのまま彼を無視した。ここで深一は、いつもと違う星乃を見た。ここでは彼女は非常にしっかりしていて、全く甘えん坊の様子はなかった。以前の影も見えないその姿を見て、彼は彼女をさらに愛するようになった。彼は彼女が自分の前で見せる甘えも、外で見せる強さも両方愛している。星乃はもともと優秀な人間で、どうあっても彼は彼女に惹かれてしまう。この数年、彼は安奈に対する先入観から、自分は安奈が好きだと自分を騙し、星乃への感情を隠してきた。しかしそれが一気に表に出てきたとき、すでに傷だらけで、後悔してもしきれなかった。その後の数日間、深一はまるで腰巾着のように彼女の後をつけて回った。いつも彼女のた
共鳴なき者よ、さらば 第13話
星乃は病院で医療ボランティアをしている仲間と合流し、飛行機に乗った。現地の空港に着くと、責任者が彼らを今回の護衛を担当する軍人に紹介した。星乃はそこで見覚えのある顔を見て驚いた。「星乃」辰哉はのんびりと手を振った。彼の表情には少しも驚きはなく、まるで彼女が来ることを前から知っていたかのようだった。星乃は驚いて口を開いた。「どうしてここにいるの？」辰哉は彼女の医療バッグをさっと取って言った。「君がいると聞いて、申し込んで来たんだ」この動作は昔から二人の間でよく見られたものだった。学生時代も辰哉はよく彼女のリュックを持ってくれたので、特に違和感はなかった。戦地に着くと、危険なので、ほとんどの医者に護衛が割り当てられていた。辰哉は星乃の護衛に選ばれた。それ以来、彼が治療をするたびに、辰哉は彼女の後ろをついて回った。星乃は確かに令嬢だが、医療を選んだ時点で医療援助に備えていたため、今の生活にはすぐに慣れた。深一は数日寝ずに駆けつけたとき、星乃はちょうど負傷した患者を治療していた。彼女はすっきりとしたポニーテールにマスクをし、全身の雰囲気が変わっていた。以前、彼女にあった甘えん坊な面は消えた。一瞬、深一は呆然と見つめてしまった。星乃が包帯を巻き終えて、去ろうとした時、深一ははっと我に返った。でこぼこした地面を越えて、彼はよろめきながら彼女の元へ走り寄ると、慌てて呼んだ。「星乃！星乃！」星乃は呼ばれて振り返ると、目の周りが真っ赤で、目の下にくまを作り疲れ切った深一の姿が目に入った。驚いた彼女は思わず一歩後退した。深一は彼女が退いたのを感じ、胸が締め付けられた。彼は痛みを抑え、一歩前に出て彼女の前に立った。「星乃、俺だよ」星乃は少し驚いただけで、すぐに彼を認識した。彼女の目は嫌悪を隠さず、冷たい口調で言った。「何しに来たの？」深一の突然の登場に星乃は全く予想していなかった。彼女の頭の中は疑問でいっぱいだった。深一の目は深い情をたたえ、彼女の手を握りながら、異常に優しい口調で言った。「星乃、俺と一緒に帰ろう。ここは危険すぎる。お前はここにいてはいけない」星乃は彼の言葉が意味不明だった。彼女が残したものは見ていなかったのか？それとも、それらは彼女
共鳴なき者よ、さらば 第12話
深一は突然夢から覚めた。顔は涙で濡れ、胸は激しく息をしていた。彼の心の内を隠していた高い壁がついに崩れ、その向こう側から星乃へのあふれんばかりの愛情がこぼれ出した。しかし彼が最初に感じたのは痛みだった。果てしない痛みだった。彼はついに星乃を愛していることを自覚った。そして、この日の感情の意味も理解した。しかしその人は背を向けて去っていった。深一は胸を押さえて腰を折り、苦しげに激しく呼吸した。これまで深く考えなかった感情が一気に押し寄せてきた。後悔、苦しみ、自責の念が彼を覆い尽くし、耐えがたい苦痛に襲われた。その後、深一の行動は友人たちに彼が狂ったと思わせるほどだった。彼はもともと安奈に贈ろうとしていた花を粉々に壊した。安奈も彼の手で刑務所に送られた。安奈が警察に連行される時、深一はそばに立っていた。彼女はどうしてこうなったのか理解できず、ただ深一を見つめていた。「深一、これはどういうこと？私を送り返すの？どうして？どうして？」深一は冷たい表情で淡々と答えた。「お前は間違いを犯した。相応の罰を受けるべきだ」その後、安奈がどんなに懇願しても、深一は一言も返さなかった。彼は星乃の行方を調べた。星乃が医療支援に行ったことは隠されておらず、簡単に見つかった。星乃を探しに行こうとしたとき、友人が突然彼を止めた。「深一、本当に行くのか？星乃は一般人じゃない。彼女が離れると言ったら本当に離れるんだ。しかも、そこは戦争区域だぞ。とても危険だ」友人たちは星乃をわがままで甘やかされた人と見ていたが、彼女が裕福な令嬢であり誇り高いことも知っていた。深一がこれ以上傷つかないようにと彼らは説得した。もう一つの理由は、彼女がいなくても時間が経てば、深一も気持ちが薄れると思っていたため、危険を冒す必要はないと考えていたからだ。深一は友人の言葉を聞いても表情は変わらず、微塵も動揺しなかった。「危険だからこそ、俺は行くんだ。彼女はただ怒っているだけだ。どんなに難しくても連れ戻してみせる」
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