海外ドラマのセリフを聞いていると、登場人物たちが『crave』という単語をよく口にする場面に遭遇する。例えば『グッド・ワイフ』では弁護士たちが勝利への渇望を『crave for justice』と表現し、そこには単なる欲求を超えた激しい感情が込められている。
この『crave』こそが「希求」の核心的な英訳と言えるだろう。『desire』や『want』よりも深いニュアンスがあり、肉体や精神が切実に何かを求めている状態を指す。『ブレイキング・バッド』のウォルト・ホワイトが尊敬を『crave recognition』と表現した時、彼の内面に渦巻く病的なまでの渇望が伝わってくる。
比較的新しい作品では『yearn』の使用も目立つ。『この素晴らしい世界に祝福を!』の英語版で『yearn for adventure』という翻訳が使われるが、これはどこかノスタルジックで詩的な響きがある。『long for』とも似ているが、より感情的な色彩が濃い表現だ。
日本語の「希求」が持つ「稀なものを求める」という原義を考えると、『pursue the rare』といった直訳より、これらの状況に応じた英単語を使い分ける方が自然だろう。どの表現も共通しているのは、平凡な欲望ではなく、魂の奥底から湧き上がるような切実な願いを表す点だ。
序盤の有名なフレーズを日本語にするなら、こんな語感に落ち着かせることが多い。
「Is this the real life? Is this just fantasy?」は直訳すると味気なくなるので、「これは現実か、それともただの幻想か?」と訳して、問いかける曖昧さを残すようにしている。英語の短い反復が持つ不安や戸惑いを、日本語でも言葉のリズムで表現したいからだ。続く「Caught in a landslide, no escape from reality」は状況の圧迫感を出したくて、「土砂崩れに呑まれ、現実からは逃れられない」とした。過度に文学的にせず、情景の重みをそのまま伝えることを心がけた。
歌詞は詩的で抽象的だから、語彙選びで意味が変わりやすい。たとえば"fantasy"を「幻想」とするか「夢」とするかで受け取られ方が変わるし、"escape"を「逃げる」とするか「逃れられない」とするかで主人公の主体性も変わる。場面のトーンやキャラクターの心情を優先して、時に直訳を捨てて日本語として自然に響く表現を選ぶのが鍵だ。最後は聴き手がその問いや不安を感じ続けられるように仕上げるのが好きだ。