さらに、命令や呼びかけの語調は英訳でまったく別の人称関係を暗示する。原文の口語的な呼びかけをそのまま“Hey”や“Listen”で訳すと親密さが増すし、もっと距離を置くなら“Do you hear”や“Notice”のように客観性を帯びさせることができる。小さな選択が曲全体の受け取り方を左右するので、訳すときは詩的な余韻をどこに残すかを最後に点検するのがいい。
たとえば『アゲハ蝶』のサビで想定される“飛べるかどうか”系の表現は、直訳すると単純に“Can you fly?”になるけれど、そこから失われるのは躊躇や心の揺らぎだ。英語では助動詞や語順で強弱をつける必要があり、“Will you try to fly?”や“Could you ever fly?”といった選択肢でニュアンスが大きく変わる。