表面的に言うと、聞き間違いと直訳癖が主な
元凶だと思う。僕は訳すたびに、歌詞の音像と文脈を両方チェックしないと危ないと感じる。例えば、同じ単語がスラングとして別の意味を持っていたり、比喩が地域特有の風習を参照していたりすると、文字どおりに訳すだけで意味が逸れてしまう。
加えて、音楽特有の制約がある。韻を踏む、語数を合わせる、メロディに収めるなどの要請があると、意訳してリズムを優先する選択がされやすい。僕はそのバランス感覚こそが腕の見せどころだと考えていて、時には訳語を二通り用意しておくこともある。こうしておけば、歌として歌われる場合と歌詞だけを読む場合で適切な表現を選べる。
最後に、編集や商業上の事情で意味が変えられることもある。検閲やターゲット層への配慮で言葉が丸められると、本来のメッセージが薄まる。最近は訳に注釈を入れられない場面も多いから、翻訳者の解釈責任が重くのしかかる。例としては、アニメ主題歌の中でも'
紅蓮華'のように歴史的・宗教的な比喩が含まれる曲は、訳し手の判断で印象が大きく変わることを僕は何度も経験している。これらが重なって、翻訳が曲解されることが多いのだ。