貧乏を装う彼女のため、母は死んだ彼女の秋月杏奈(あきづき あんな)の借金を返すために、俺と母さんは死にものぐるいで働いた。
そのせいで、母さんは肺がんになった。
俺が金を持って病院へ駆けつけ、治療費を払おうとしたときには、母さんはすでに首を吊って死んでいて、一通の手紙だけを残していた。
【貴文、もうお母さんはだめみたい。このお金はあなたが持っていって、借金を返しなさい。杏奈はいい子よ。あなたのことを愛してる。ただ、道を踏み外してしまっただけ。
借金を返したら、二人で仲良く暮らすのよ】
俺は母さんの遺骨を抱え、母さんが命を削って残した600万を杏奈に渡した。
そして会社に戻ったとき、思いがけず彼女が何人かの債権者と話しているのを目にした。
「秋月社長、九条さんはすでにあなたの用意した試練をすべて乗り越えました。これからは、何か別のお考えがあるのですか?」
すると、杏奈の幼なじみである木村拓海(きむら たくみ)がふいに口を挟んだ。
「杏奈、九条が共に困難を乗り越えるのはもう十分わかったよ。でも、今度はいい時も変わらず一緒にいられるか、そこも見極めないとね」
杏奈は唇をきゅっと結んだ。
「次は、彼の気持ちが本物かどうかを確かめたいの。
私の立場を知ったあとでも、お金や肩書きに目がくらまず、今までと変わらずにいてくれるなら。
私は彼と結婚する」
俺は母さんの遺骨を見つめながら、涙が止まらなかった。
杏奈、母さんは君を見誤った。
俺も君を見誤っていた。
もう、君とは結婚したくない。