あのインタビューで語られた一節がずっと胸に残っている。作者は、自分がまだ若かった頃に家族の問題から逃げた経験を『
口惜しい』と呼び、その感情が物語の根底になっていると明言していた。具体的には、病に倒れた親のそばを離れて都会へ出たこと、帰るべき時に戻れなかったことで生じた後悔や無力感が、登場人物の選択や断絶の描写に色濃く反映されているという説明だった。
当時の自分を振り返ると、その話には安心感と同時に胸の痛みが混じっているのが分かる。作者は、出来事そのものよりも「何ができなかったか」を重く受け止めており、作品内では手紙や未完の約束、閉ざされた扉といったモチーフが繰り返される。私はそのインタビューを読んで、物語の静かな場面が単なる叙情ではなく、具体的な償いの試みだと納得した。たとえば主人公が昔の友人に謝罪できずにいる場面は、作者自身の声が透けているようだった。
さらに興味深いのは、作者がその口惜しさを「肯定的な力」に転化しようとした点だ。作品全体に漂うのは単なる絶望ではなく、繰り返される日常の中で小さな修復が積み重なるという信念だと話していた。私自身、読後に同じような言葉を誰かにかけたくなったし、過去に手を差し伸べられなかった自分を少しだけ許せる気がした。だからこそ、そのインタビューは作品理解を深めるだけでなく、読む側にも静かな行動を促すものになっていると感じる。